第二十九話 アナタにしか見えない(その∞)
2026/2/1 大規模修正
◾️その29
世界の終わりを象徴するような、毒々しい紫色に染まった夕焼けに照らされる廃墟の中で。
『純愛に生きるオレをストーカー呼ばわりする奴は、コイツらに喰われて死ね!!』
凪橋の叫びと共に、見渡す限りの痩せ細った飢餓亡者達が美味しい食料の元へ傾れ込む。
『『『エサだ……エサだぁーッ!!』』』
「うっせー! お前らはこのパイナップルでも食べてろッ!」
『おぉ、美味しそうなぱいなぽーじゃあ……おぼーッ!?』
『『『こりゃウマい! ごちそうじゃあ! アバーッ!?』』』
群がる亡者達に千影が金属製パイナップルを次々に投げつける。メタリックなパイナップル。人はそれを手榴弾と呼ぶッ! 怯む事なくそれを呑み込んだ亡者達の体内で美味しさが大爆発するが、後続の大軍は爆風で行動不能に陥った先頭の仲間を貪り喰らう。どれだけお腹が空いてたのか。これには千影もドン引きだ。
敵の興味が逸れたのもほんの一瞬。行進の勢いは止まらない。廃墟から脱出した直後、大軍勢が溢れだした建物が振動に耐えきれず完全に倒壊する。それなのに亡者は無限に湧いて出る。このままではラチがあかない。
『『『アイツらだけズルい!! お前らを喰わせろーッ!』』』
「だったら蹴りでも喰らってろ!」
仲間の肉にありつけず襲いかかる亡者達に、榛名が床を踏み鳴らし足元から急所攻撃をお見舞いする。股間を押さえて蹲った者達は容赦なく後続のエサにされる。お肉のビックリドッキリ市の大盤振る舞いとばかりに榛名が第二波を放つが
『うぉぉぉ、じょしこーせいの生足じゃああ!』
訓練された亡者達には、美少女の金的はご褒美だった! 繰り出された蹴りを受け止め、足に群がって食べている(物理)。ただ、コレは地面から突き抜けた蹴りの破壊力が顕現したものだ。食べたら当然美味しさのあまり体内から破壊される。
千影と榛名がここまで攻撃しても敵の勢いが止まらない。行進の先頭から距離を取るべく4人は後退するが、横にある瓦礫の山に伏兵が現れた!
『それ、石を投げろ!』
「みんな、危ない!」
投げつけられる石礫から、留萌の影が巨大化して身を挺して4人を守る。押し寄せてくる亡者達を攻撃しつつ、投石攻撃には盾を掲げて防ぎつつ伏兵へ迫るが、そちらに専念しようとした途端、別方向から再び新手が現れ、完全に三方を囲まれた形となった。
これは非常にマズイ。凪橋という男は千影達を敵の居ない方向に進めたがっているのだろう。勿論そこには罠が仕掛けられている。投石が来た伏兵側にもまだ戦力がいるのかもしれない。どうすれば? と迷う千影の頬を、小さくて鋭利なモノが掠める。
『石がないなら差し歯を投げろ!』
『いれふぁをぶふへへひゃへーーッ!!』
「はい、それじゃあこのダイナマイト喰らってろ!!」
歯を失った亡者の口に千影がすかさずソーセージ型ダイナマイトを押込み、爆破して共喰い対象にする。
『食べ物を! 食べるものを寄越せーッ!』
『ひもじい……ひもじいんじゃ!』
「ひも爺ちゃん、食べるものがないなら自分の身体を食べればいいと思うよ★」
『『誰が、ヒモ爺じゃこらーッ!! コレでもちゃんと働いておったわ! 前世では』』
それ、本当にヒモじゃね? 今までどうやって生活してたんだよ! などといったツッコミは厳禁だ。どうせコイツらパラノーマルだから深く考えてはいけない。
当然、玲南はヒモ爺達を一網打尽にする準備を整えている。『空腹のあまり自分の足を食べたタコが、タコ足配線による火災でタコツボから逃げられずタコ殴りにされた歌』で、亡者達をタコ焼きにする算段である!
だが。
玲南の考えは既に見抜かれていた!
『ブスが何歌おうとしてるんだ。耳が腐る』
囁き声に玲南が振り返った瞬間足を払われ転倒させられる。いきなり現れた人影に顔面狙いで足を振り下ろされるが間一髪かわす。あのストーカー男、いつの間に!?
『お前がオレと零比都の仲を邪魔しやがったせいで!! オレは無実の罪で何年も牢屋に入れられたんだ!!』
凪橋が玲南の顔を執拗に踏み抜こうとするが、玲南は紙一重で全部かわしていき、逆にお留守になった軸足を狙って転倒させる。
「それをストーカーって言うんだよ★ 覚えておこうね犯罪者★」
立ち上がりつつ五線譜ワイヤーで凪橋を絡めとろうとする。しかし転倒と同時に姿を消され捕縛できなかった。亡者達を殲滅させられる玲南を、榛名と留萌と千影で守っていたのに、前衛をするりとすり抜け直接襲い、そして逃げるとは。瞬間移動できるのか?
『オレの愛は純愛だって言ってるだろ! このクソブス女がぁーッ!!』
立ちあがろうと足掻く玲南の背中を、凪橋が無慈悲に蹴り倒す。玲南が歌に集中できない。このままでは亡者の群れに呑み込まれる!
『零比都の幼馴染だから優しくしてればつけ上がりやがって! お前は零比都には不要だ! 今すぐ死ねッ!』
逃げ惑う玲南を、凪橋が執拗に追い回す。それが玲南の罠とも知らずに。
亡者相手に大立ち回りを演じる千影の、射程圏内に入った! 推しキャラを散々ブス呼ばわりされ、千影が怒っていないわけがない!
「玲南に何してるんだ、このクソ中年がーッ!」
『がぁッ!?』
一瞬「玲南はカワイイに決まってるだろ、目が腐っているのか」というツッコミは封じた。ハッキリ言ってテレくさいからだ。
そのツッコミだったら一発で倒せたかもしれないのに!
凪橋の頭部めがけて振り抜かれたハリセンは。
仕留めるには至らず、瞬間移動されたように逃げられてしまった。
『ヒトめがけて殴ってはいけないって習わなかったのか? これだからゆとりは……』
再び姿を現す。ハリセンのダメージは深刻で、頭から流血しヒザがガクガク笑っている。だが、あの距離ではまた逃げられてしまう!
『全員コイツらのエサになれ!』
迫り来る亡者の中に消えた、ちょうどその時。
上空から七色の光が千影達を照らす。
『ボエボエボエボエ……』
廃墟の上空に現れたのは、虹色に光り輝く萌え人面土器だ。こっちの廃墟まで乗り込んで来たのか!
『お……おぉお……零比都、零比都ォォッ!!』
人面土器に恐れをなしたように後退りする大群の中から、千影に張り倒され激しく流血する凪橋が歩み出る。フラフラした足取りから信じられない跳躍で、空飛ぶ萌え人面土器の正面にしがみつく。
『やっと、やっと会えた、零比都! オレはここだ、零比都!! 絶対に、絶対に放さないからな!』
あの遮光式土偶が、凪橋には零比都さんに見えているのか? 顔色の悪い中年男が遮光式土偶相手に愛を囁くとか、おぞましさを覚える景色だった。
『ボエボエボエボエ……』
萌え人面土器にしがみついていた凪橋が、ハッとした表情を見せる。自分が縋り付いていたものの正体に気がついたのか、恐怖に似た表情のまま動かなくなり、萌え人面土器が放つ虹色の光に呑まれていく。
敵に包囲されている状況で目を逸らすのは危険なのはわかっているが、虹色の強い光が目に痛い。
すぐ間近に迫っていた亡者達の禍々しい気配も感じられなくなった。
萌え人面土器の放つ光も納まっていき、気がつくと、亡者達の住処となっていた廃墟の景色が、目的地であるプラントB棟中央制御室入口に変わっていた。
「玲南ちゃん達? 良かった、結界から戻って来れたんだね! 早く、制御室へ入って!」
制御室の扉から出てきた虎野の顔を見て、4人は冷たい床にペタンと座り込む。完全に、隔離結界から現実の世界へ戻れたのだ。
だが、危機はまだ終わったわけではない。
To Be Continued>
次回
「仕置人と鬼嫁(その6)」




