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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第二章 Boys and Girls
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第二十五話 アナタにしか見えない(その6)

2026/1/12 修正

ココから展開が少しずつ変わっていきます。

■その25



 人形の崩壊は止まらない。ふわふわと宙を浮かぶうちにみるみる無残な瓦礫と変わる。それなのに髪の毛は伸び続ける。

『こんな具合にボイラーを動かす燃料にされちゃうの……私達はね、あなた達萌えオタク達のご飯じゃない……』

「ひぃっ! 人形がこっち見てる!」

 意外にも榛名が怯えている。もしかして、怖いのが苦手なのか?

「だ、だって! あんなになっても髪の毛だけは無事なんだぜ! どんだけ毛根が頑丈なんだよ!」

「そこかぁぁっ!!」

「世界が嫉妬する髪の毛! 多分きっと髪の毛が本体で人形がヅラの置台なんだぁぁ!! 置台を破壊しても、すぐにまた再生して……」

 錯乱して叫ぶ榛名。あの日本人形がカツラを置く台とか、発想が斬新すぎる。世界で初めて土偶を作ったのはこんな人だろう。


『ぇ……何で気づいた』

「「「「え?」」」」

『えっ?』

 思わず日本人形の残骸を見る。

 宙に浮かぶ黒髪の塊……いや黒いマリモ? いや黒いケセランパサラン?

「……ぁー、なんだ、その……」

 バツの悪そうな顔をした榛名は

「玲南、とりあえずやっちゃえ」

「おっけー★」

『あ、あの……え、何を、ひぃぃぃッ怖い怖い怖いぃ―ッ!!』

 玲南が邪悪な笑みを浮かべ『髪の毛が死滅した男の歌』で日本人形(本体髪の毛)をあっけなく浄化させた直後。不快な超音波攻撃が千影達の耳をつんざく。

 その正体はエレベータの内部から響く、引っ掻き音だった。

『あばばばーッ!! ワシの、ワシの毛根が死滅したのは貴様らの悪ふざけのせいかーっ!?』

「いいえ、あなたの遺伝子のせいです!」

 開け放たれた点検口から、中年男性のゾンビ人形が躍り出る。過激な登場と同時に見せつけられる不毛な大地に、千影は手にした専用ブラシで刺激を加える。両手で扱うデッキブラシで、芽よ出ろ芽よ出ろ出なければハサミでちょん切るぞ、とゴシゴシ……何という無慈悲!

『あああああっ、ワシの、ワシの髪がぁぁ!!』

「何言ってるんですかおじいちゃん、髪の毛はとっくになくなってるでしょ!」

『ぎにゃああああ』

 現実を突きつけられ全てに絶望したゾンビ人形が土に還る。千影のデッキブラシにはゾンビ人形にとって最後の希望(毛髪)がへばりついていた。最期まで連れ添った、心の友が。


 がたがたっ!


 頭上で不審な物音がした。機械が動く音ではない。グレーチングを走る足音だ。工場内は走ってはいけません、危ないからね!

「逃げるな、コラァッ!」

 想力炉の傍から榛名が叫び、右足で1号炉の炉壁目がけ回し蹴りを、追撃で左掌底を叩き込む! 電力供給の要である想力炉になんて事を! 千影がツッコむよりも早く蹴りと掌底の威力が炉壁を伝わり、上層の逃走者に襲い掛かる。

「うわぁっ」

 上部で悲鳴と共に激しい音が響く。榛名の攻撃で転倒させられた敵の姿が見えた。

「アイツだ! 追うぞ!」

 想力炉奥の階段を上り最上階へ向かう。階段左側は1階から最上階まで吹き抜けになっている。5階へ到着した、ちょうどその時。

 千影達のすぐ傍。吹き抜け部分を影が落下していった。

「あぇぇッ!?」

 思わず悲鳴を上げて跳びのける。階段脇の空間を、日焼けしたような浅黒い肌の男が落下していく。一度見たら忘れられない。先程まで変な発電を指揮していた、監督役の男だ。見たのは一瞬だが、イメージが千影の脳裏に焼きついて離れない。男の目は追跡中のこちらを見ていた。睨みつけていた。

 階段を駆け上がる足が止まる。まさか、吹き抜けを使って最上階から一気に1階へ逃げるつもりか? それとも、誤って最上階から転落しただけか? どっちだ? どっちなんだ!?

 いや、どう考えても事故だ! 榛名はその場で地団駄を踏み鳴らし、吹き抜け下部に落下者を救助できるネットを張り巡らせようとするが、間に合わない。


 グシャッ


「……結界が正常に戻ったみたい」

「それってつまり、アイツは死んだって事?」

 千影の質問に、玲南が無言のまま頷く。はるか下方で響いた嫌な音。これが、高所から転落した人間の潰れた音……なのか。



 ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!!

『間もなく、1号想力炉起動します。1号想力炉起動します。現場の職員は御注意下さい!』

『間もなく、萌えるゴミ搬送コンベア起動します。現場の職員は御注意下さい!』


 4人はギクリとする。千影達がいるプラントA棟に現場職員への注意を伝えるブザーとアナウンスが流れ出し、場内が機械の喧騒に包まれる。予告通り、プラットホームから運ばれてきた萌えるゴミを炉内に投入する搬送コンベアが動き出した。大きな音がしたのは動き始めの一回だけで、その後は変な音や振動もなく、通常通りに立ち上がったようだ。

 ただ一つ。侵入者が吹き抜けから転落した事だけ除いて。

「……どうやら、電力が足りなくなって1号炉を動かしたみたいだな」

 というか、下の階は大丈夫なのか? こんな事態に遭遇するのも初めてだが、こういう時状況を確認しないと。目を背けたくなる惨状が広がっているとわかっていても……

「何をやってるの千影くん!」

 千影が下を覗き込もうとしたところ玲南に羽交い絞めにされた。こういう時は現場を確認して通報する必要があるのでは? 炉や発電機が動き出したのだから。

「違う、今のは罠だよ! ここは結界の中! 現実の電力需要なんてここでは関係ない!!」

「ど、どういう事? 玲南」

「今のは幻だよ! アイツ、自分が死んだと思わせて私達を襲う気だよ! 用心して!!」

「結界が正常に戻ったっていうのは?」

「何言ってるの! ココは結界の中!!」

 血の気が引いていく。『敵が死に、結界の外に出た』。あの声がニセモノだったとは。気をつけていたのに、敵の術中にハマりかけていた!?

 これまでウドンケンジョウレイ結界に隔離されていたパラノーマルか? 結界を歪ませる能力を持ったフォーサーか?

 それとも、新手がいるのか?

 この敵は何だ。何が目的だ? 理不尽に悪意を向けてきやがって……


『はぁ? 想力発電で働く奴なんか、社会の敵だろ』


 何の前触れもなく視界に現れた人影に、脊髄反射でハリセンを叩き込む。だが手応えはなく、ハリセンは虚しく空を切るだけ。

 一瞬だけど容姿は把握できた。吹き抜けから落ちていった、あの男だ!


To Be Continued>

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