第二十四話 アナタにしか見えない(その5)
2026/1/10 修正
パラノーマル達の襲撃音に紛れて、そんな声が聞こえた直後。
激しい眩暈に襲われ、平衡感覚がぐにゃぐにゃに歪んだ千影は、一切の抵抗もできずプラットホーム上空に身体を投げ出されていた。
■その24
千影には、体育の授業で高跳びを経験した事はない。当然、借金取りに追われて外国に高跳びした事もない。
そんな千影が、空を飛ぶ! 随意筋と運動神経が赤の他人になった、デタラメすぎる跳躍!
「ち……かげくん!?」
玲南が顔面蒼白な様子で千影を追いかける。あんな高さから落下してコンクリ敷きの床に激突したら、打ち所が悪ければ死ぬ。千影もどうにか着地時のダメージを減らそうと受け身を取ろうとするが、真下を見て青ざめる。
結界や空間を弄るという敵フォーサーめ、本気でオレを殺そうとしてやがる!?
トラックから降ろした萌えるゴミを分別するのに使われるベルトコンベアが通常時の三倍速で回りだす。まるで、コンベアの先で分別された萌えるゴミが投入されるバンカーが、落下した千影を手薬煉引いて待っているかのように! 受け身を取れたとしても、萌えるゴミと一緒に運ばれて想力炉のエサにされてしまう!
「留萌、千影を助けて!」
「うんっ」
コンベアを避け安全に着地できるような道具を作るしかない。でも、そんな道具をどうやって?
思考を巡らす千影に迫る巨大な影。警戒する間も与えず彼を空中で抱き止め、そのまま何事もなかったように安全な場所へ着地を成功させる。助けてくれた大きなヒトガタ。千影は一目で正体を察した。
「ありがとう、留萌」
「千影、こっちだこっち! 留萌が足止めするから走れ!」
榛名に呼びかけられた千影は緩慢な動きの作業員達を迂回するように走り、留萌達と合流してプラットホームから萌えるゴミを運ぶエレベータに沿う階段を駆け上る。想力炉がある区画に通じる扉前からプラットホームに溢れかえる作業員姿のパラノーマル達を見下ろす。
「追いかけてこないな。っていうか、動きが停まっている?」
「『影縫い』で足止めしてるからね。あと一分くらいは停めていられるよ」
あの大群全部に金縛りかけられるとか、凄い能力来た!
「あとはここから、あのパラノーマル達一網打尽にするだけだな」
邪悪な榛名の笑顔ごちそうさまです! 階段をどかどか踏み鳴らす壁殴り代行連合会長の前では、動かなくなったパラノーマル達はただの的でしかない。
「巨大鉄球を相手のゴールに! シュートォッ!!」
蝶★エキサイティング!!
その大きな鉄球どこから持ってきたんですか榛名さん! 階段から勢いよく投げつけられた鉄球が敵を全て押し潰せる威力となってパラノーマル達を消滅させていく。本当に容赦ない。影縫いが解け階段までたどり着いた一部のパラノーマルも、千影を助けた巨大ヒトガタの前に蹴散らされる。
玲南が音で周辺の様子を探っていたところで、ヒトガタの影が留萌の元に戻ってきた。
「この子、留萌くんの影……だよね?」
「うん」
「それが留萌くんのフォースなのかな?」
「そーだよ。『Fictional Moon』って言うんだけど、影を実体化させたり、操るフォース」
玲南に質問され、留萌の後ろに伸びる影が本体の動きと関係なく『初めまして』と言わんばかりに一礼した。玲南と千影も、留萌の影に向かって『初めまして』と会釈する。
「で、これからどうするんだ?」
「今、玲南さん達は敵のフォーサーに狂わされた隔離結界に閉じ込められました。このフォーサーは結界を歪ませる能力を持っていて、倒さないと富嶽第一想発に戻れないし、結界のパラノーマル駆除機能も動作するかわかりません。まずはフォーサーを探し出すよ★」
「って、こんな広い結界の中くまなく探すのかよ?」
「結界全部を歪ませる事はできないはず。だから玲南さん達がフォーサーから距離を取ればアイツも手出しできなくなる。でも、それは向こうもわかってるから、建物の外に出られない様に細工するはず」
「だな。あたし達が入ってきた入り口の扉、全く開かないし壊れもしない」
玲南の推測を裏付けるように榛名が続けた。もちろん遠く離れたプラットホーム入り口が開かない事を直接確認したわけではない。目の前にある想力炉区画へのドアノブを回して、1階プラットホーム入り口ドアノブを動かせないか実験したのだ。
「つまり、敵はオレ達の近くに隠れてるからおびき出すと?」
「そうそう、隠れるとしたら……例えば人ごみに紛れるとか★ 榛名ちゃんどーだった?」
「パラノーマル達の中にフォーサーはいなかったぞ」
うわ、壁を殴ったり地団駄踏んだりと、VRゲームに熱中して周りが見えていないような動作だけでパラノーマル駆逐完了させちゃったよ! この娘。
「榛名ちゃんありがとー★ 次に考えられる可能性としては、障害物がいっぱいの所」
これから私達が行く場所、みたいな。
そう言いながら、玲南が想力炉区画への扉を開ける。
なるほど、機械の陰に隠れている、と。
2階の扉から先は床がグレーチングになっており、区画の中央部分に巨大な円筒状構造が並んで鎮座する。これが萌えるゴミから萌えの力を取り出す想力炉である。向かって左側が1号想力炉、右側が2号想力炉だ。
2階フロアから千影達が見上げても最上部は見えないほど高いが、底部はすぐ下の1階にある。コンベアで仕分けされた萌えるゴミはエレベータに載せられて想力炉最上部7階まで運ばれ、炉に投入される。4時間かけて萌えの力を抜き取られた萌えるゴミはボイラーの熱源となる固形燃料に転換され、底部の搬出装置から固形燃料バンカーに運ばれる。この燃料は富嶽第一想発敷地内にある製紙プラントや火力発電所のボイラーを動かす燃料に利用される。
萌えるゴミから抽出された萌えの力は、隣の発電区画に設置された想力ジェネレータで電力に変換される。この想力発電というシステムに、電力供給不安に苦しむ日本社会が飛びついたのだ。
町おこしを萌えに頼る日本社会が、萌えに媚まで売り出したと過激派から揶揄されても。
『そう、私達を燃料にして発電をするのよ。酷いと思わない? 酷いと思わない? 酷いと思うでしょ?』
ばたーんという大きな音に千影達はぎょっとした。1号想力炉に萌えるゴミを運ぶエレベータの点検口がひとりでに開き、中から黒い瘴気が噴き出す。
瘴気の正体は黒い髪の毛だった。おどろおどろしい雰囲気を伴って躍り出たのは日本人形だ。
憎悪の表情を千影達に向ける。
『私達を燃料にして発電をするのよ。酷いと思わない? 酷いと思わない? 酷いと思うでしょ?』
気味が悪い気味が悪い!
『燃料にされた私達は想力炉のご飯として美味しく食べられて、想力炉の中でじっくりとぐつぐつにゃーにゃーにゃーにゃーぐつぐつ煮込まれて、最後はこんな無残な姿に変えられるの……』
ぴしっ! 話してる間に人形がボロボロに朽ちていく。目から血の涙を流し、お腹から血をボタボタ垂らし、黒い髪が急速に周囲へ広がっていく。
To Be Continued>




