第二十話 アナタにしか見えない(その1)
2026/1/2 修正
■その20
「零比都さん、何て言ってきたんだ?」
「結界の中に迷い込んだのは、やはり新技術による不具合みたいだね。事情を聴きたいから、今からプラントB棟中央制御室に来て、だって」
「それまで、オレ達の仕事どうするの?」
「用件が済むまで代わりの人にいてもらうから大丈夫、だって★」
口で言うのは簡単だが、これほどの異変が起きているのだ。解決にどれほどの時間がかかるやら……
「そうだね……」
「? どうしたんだよ玲南?」
お昼を食べて元気いっぱいの玲南はどこに行った?
「ん、ちょっと喉が渇いたなあと思って。あとで零比都ちゃんからお茶貰おうっと★」
「よし、それじゃ早く制御室に行くんだぜ。零比都さん待たせちゃ悪いしな」
榛名に促され、千影達は管理棟ではなくプラントB棟に繋がる道に進路を変更する。
やはり、ただの気のせいか。
榛名と留萌はともかく、千影よりも周囲の気配に敏感な玲南なら、パラノーマルが周囲をうろついていたら速攻で消滅させるはず。玲南がそうした行動を取らないのなら、ただの気のせいという事になる。
さっきから視界の隅をうろつく、見慣れない人影はきっと気のせいなんだ。
「それにしても、駆除機能がパラノーマルを倒した時に大爆発が起きたけど、あれ本当にすごいパワーだったよね」
「そう言われればそうだよな留萌。あの熱量や爆風を発電に使えたらいいのに……って、どうしたんだよ玲南?」
玲南と榛名がすごく変な顔をして2人を見ている。
「あの、千影くんも留萌くんも、もしかして知らないの?」
「何が?」
「想力発電で使われる想力炉は、ウドンケンジョウレイ結界のパラノーマル駆除機能を改良して作られたものだよ★」
「「mjdk!?」」
それこそ驚愕といった顔で叫ぶ2人に、榛名が反応に困ったような苦笑いで問いかける。
「もしかして、2人とも想力炉の原理知らないのか?」
「バイト初日に発電所のあちこち見学したけど、詳しい原理は知らないよ? ねえ千影」
留萌の言葉に千影は首肯する。原因不明のトラブルに見舞われる職場で、2人とも仕事を早く覚えるのに必死で、自分達の仕事と直接関係しない情報を気にする余裕はなかった。留萌の言うとおり、初日に想力炉を見せてもらっただけで、原理や仕組みなどは全く知らない。
「ウドンケンジョウレイ結界のパラノーマル駆除機能を、萌えるゴミの思念エネルギーで発電する技術として応用したのが想力炉だぞ」
「「へ……へぇ……」」
「っと、言ってる間にプラント棟に着いたな」
話してるうちに目的地であるプラント棟入り口にたどり着いた。プラント棟はこれから発電に使う萌えるゴミを降ろす広大なプラットホームと、想力炉へゴミを運ぶコンベアと想力炉本体があるフロア、そして発電機その他関連設備のあるフロアが一体化した建物になっている。
プラントB棟はA棟の隣に、まるで鏡に映したように聳え立つ建物である。双子の建造物の間には、職員達が使う食堂や更衣室、休憩所や風呂場のある居住区施設があり、A棟とB棟の中央制御室と渡り廊下で繋がっている。
千影達は今、食堂や更衣室のある居住区施設の反対側、A棟プラットホームの職員扉前にいる。
目的地のB棟中央制御室まであと少しだ。
A棟の入り口をスルーしてB棟に向かおうとした千影達をとりまく空間が、一瞬にして全く違った場所に入れ替わりさえしなければ。
「「「「え?」」」」
周りの空気が突然変質した事に、4人の口から思わずマヌケな声が漏れた。
驚いて周りを見回す。A棟からB棟に通じる道を移動していたはずが、4人は今屋内にいる。
体育館やイベントホール並みに天井が高くて広い。この場所に見覚えがある。
プラントA棟のプラットホームではないか?
「なぁおい、ここってプラットホームだよな……」
榛名が困惑気味に確認する。コンテナやトラックから萌えるゴミを降ろすコンクリート敷のフロアに、萌えるゴミを炉の上部まで運ぶエレベータや、エレベータにゴミを一定量送り込むコンベアと、コンテナやトラックが萌えるゴミを投入するホッパーといった工場みたいな物々しい構造物全てに、千影と留萌は見た事がある。
留萌は困惑気味に頷き
「オレ達、さっきまで外歩いてたよね? プラント棟に入らなかったよね」
「まさか、結界の誤作動がまだ続いてるのか? でも場所まで飛ばされるって、ちょっと大規模で悪質だぞ、この不具合」
榛名がそう言った後、広いプラットホームの奥から歓声が上がった。
4人が目を向けた先には異様な光景が広がっていた。トラックやフォークリフトが行き交うはずの広いプラットホームに、大きな回し車が足の踏み場もないほどに並べられている。体格のいい人でも問題なく入れそうな大きさの回し車が、どれもこれも異常な速度で回っている。よく見ると人が乗っているようだ。
「フォーッ!!!! 玲南ちゃーん!!」
「榛名たんはぁはぁ」
「零比都たんマジ萌えきゅんー★」
「傍陽はオレの嫁だああ」
回し車に乗っている人達はどれも例外なく目前に何かをぶら下げられていた。おそらく推しキャラの写真やグッズなのだろう。そのグッズを自分のものにしようと必死だ。
その結果、回し車と繋がった発電機が回って発電される……
千影と留萌は固まってしまった。
一体こいつらは、この場所で何をやってるんだ?
千影達がアルバイト初日に見学させてもらった想力炉は、プラント棟内部に聳え立つ、金属でできた超巨大な円筒状の構造だった。
断じて、自宅警備員達が二次元嫁相手に歓声上げながらいい汗をかくスポーツジムではない。
「「フォーッ!」」
「わんもあせっ! 嫁への愛が脂肪と共に萌えているのがわかるかーッ? 今オレ達は発電できてるんだ! 推しキャラへの愛が、この国の電力需要に応えてるんだッ!」
並べられた回し車の外で掛け声を発する男がいる。この場を仕切る監督らしい。応えるように、回し車に乗った職員達もハッスルする。
「うぉぉおお、玲南ちゃーん!」
「榛名ちゃんオレをもっと打って下さいッ! お願いします!」
「傍陽ちゃんオレをもっと冷たい目で見下して下さい! オレはどうしようもないブタ野郎なんです!」
まわるまわるまわる! 欲望に塗れた声と共に回し車は恐るべき速度で回り続ける。あまりにも速すぎて、その動きを目で捉えるのも難しいくらいだ。
「……玲南、アンタのファンいっぱいいるみたいだけど」
「玲南さんのファン自称するなら、今すぐアニメショップに行って玲南さんクリアファイルやポスターと紙袋、全財産はたいて買ってほしいな★ って言う」
「それくらい余裕でやりそうだぞ」
欲望の対象にされているにもかかわらず、榛名と玲南はマイペースだった。
「グッズを大事に持ち帰って、おうちで一生玲南さんを崇め奉ってもらう分には人畜無害だよね★」
「……要するに、お前もあの連中嫌なのかよ!」
「そりゃ、あいつらパラノーマルだから★」
ああ、やっぱりそうなのか。こんな茶番めいた設備で都市部の電力需要に応えられるわけがない。回し車をあんな超高速で回し続けるなんて、どう考えても人間には不可能だろう。
千影達は詳しく知らないが、交流発電機は常に一定の速度で回し続ける事が求められる。ペースが多少下がっても発電機の速度を一定に調節する機構はついているだろうが……需要が急激に増加した時、例えば真夏の午後に町中でクーラーがフル稼働した場合、回し車は重くなって回転速度は落ちる。速度を調節する機構で負荷をやり過ごせるのか?
ただ、千影達が気にしていたのは、そうした需要と供給とはまた別の話であった。
単純な事だ。
回し車に乗っている人が、中で躓いたらどうなるのか?
To Be Continued>
名前だけ出てきた真田傍陽。
玲南,榛名,零比都,乙骨先生と同じ想伝蜃奇録に登場するフォーサーです。近いうちに彼女も千影達の前に姿を現すかもしれません。




