第十九話 ウドンケンジョウレイ結界(その3)
2026/1/1 修正
■その19
「「キモイ!! この世にまさかこんなモノが!!」」
「何といういかがわしい!! 肌色面積が大きすぎる! みんな男の子達ですよ! なのに作者は女性! 女性が性的搾取に加担するなんて、作者は何を考えているのッ!」
耳をつんざく声から察するに、襲撃者達が目撃したのは女性向け同人誌だったのだろう。だが、作家の性別をことさらに騒ぐのが千影と留萌にはよくわからない。それこそが酷い女性差別に見える。
その後も暴徒達は入場するトラックを停車させ、積み荷を確認し運転手を引きずり出してトラックをひっくり返す(物理)。
「あぁあぁあ……こんないかがわしいものがあふれていて! 一体この国は何を考えているんですか!」
「電力供給が厳しいと言いながら、こんな本を大量印刷する電力が余ってるなんて、まさに欺瞞ッ! とりあえずこの本は持って帰りましょう」
想像通り、群衆達にひっくり返されたトラックの積み荷はウス=異本だったらしい。暴徒達に捕まったトラックの積み荷は、いかがわしいものを許さない人達にとって超高カロリーな燃料でしかなかった。
しかし、18歳未満お断りなモノはちゃんと区別されていればいいわけで、そうした本の存在だけでこの世にいかがわしいものがあふれていると決めつけるのはいかがなものか。犯罪白書を読んで『この国は犯罪大国だ』と問題視するくらい有意義な話だ。
もちろん、こういうジャンルを見たくない人達への配慮は必要だけど、この人達はそういう配慮も関係なく騒ぎ立てるだろうし……
あと、自分達がけしからんと騒ぎ立ててる対象を持って帰ろうとする輩がいる件をツッコんではダメだろうか?
千影達がそんな疑問を抱いていると、押収した同人誌の扱いを巡って、暴動は思わぬ方向に進んでいく。
「アナタ、こんないかがわしい本を持ち帰ってどうするの!」
「こっ、後世にまで語り継ぐのよ! こういうイヤらしい本を読んではいけませんって、見せて解説するのよ!」
見せて解説したら作品の布教活動になりませんか?
「大切そうにしまい込んだのはどういう事!? ダメよ、あなたの魂が来世まで穢れるわ!」
「な、何を言ってるの! この本は多分きっと純愛よ! お手伝いロボットといじめっ子といじめられっ子の友情を描いた……」
「表紙見ただけでどうして内容がわかるの! さてはアナタ、YAOIの神を信じる隠れフジョシね!」
「な、なななな何を言ってるんです!」
「いいやフジョシに違いない! その心から放たれるフジョシ波動は隠せない!」
「おのれ禁断の教えに従う邪教徒め! さっき本の内容けしからんって言ってたじゃないか! それを純愛などとのたまうとは! 反想発クラスターの禁忌に触れるぞ! 悔い改めなさいッ!」
「キッ、キキキキンキって何ですか! 私の愛はもっと純粋なモノですよッ!」
暴徒達の仲間割れがどんどん広がっていく。フジョシ波動なる謎のパワーワードを気にする千影と留萌は、再びトラックが破壊される音を耳にした。これで何台目だろう。暴動が起きてる最中にわざわざ襲われに来てるようで、何と不運な。
アレ? もしかして、あのトラック達は……
「ちょっと榛名ちゃん、何ガン見してるのかな?」
千影と留萌が何かに気づいたとほぼ同時に、背後から玲南の声が降ってきた。
「はぁ? ガン見なんてしてねえよ! パラノーマルが暴れてるんだから注意や警戒怠らないのは当然だろ!」
「えー? でも今、お手伝いロボットと居候先のいじめられっ子といじめっ子のおたんびなウス=異本に目が釘付けになってたじゃない★」
「ねーよ! つーかお前もよく見てるな!」
実は4人とも同い年なのに。
見ちゃってる。見ちゃってるよ、この娘達。
おたんびなウス=異本を!
■玲南と榛名が目にしたのは、『大長編テツえもん★いじめられっ子のハザードマップ』と呼ばれる同人誌である。これは榛名達が暮らしている想伝蜃気録の舞台となった世界で発見された禁書『テツえもん』の続編と噂される。
いじめっ子の妹と結婚しいじめられっ子一家が落ちぶれる未来を変えるためにやってきたお手伝いロボット「テツえもん」。
しかし未来を変えてはいけないと訴える「愛米3センチ(通称ラブコメタヒねタヒね教)」の信者達も現代にやって来て、予定通りいじめっ子と結婚するフラグを強制的に回収させようと暗躍を始めた!
さぁいじめられっ子よ、フラグ成立で目がはぁとになった妹とタヒねタヒね教徒がしかけたデストラップだらけな町を丁寧にマッピングして脱出するのだ! 失敗したら妹の純愛を応援するいじめっ子のリサイタル会場に放り込まれて、地球崩壊の幕が開いてしまうぞ!
だが敵はそれだけではない。いじめっ子への嫉妬に狂ったテツえもんも惑星破壊爆弾を抱えて追いかけてくる。それはまさにレイドボス! エンカウントしたら即死が待っている!
(未冥書房ウス=異本アーカイヴ「版権先から訴えられかけた禁書目録」から引用。なお、このテツえもんシリーズは年齢による閲覧制限はないので玲南達に見えてしまったとしても無問題)
「ちょっと、榛名ちゃんも玲南ちゃんも声を抑えて。見つかったらまずいんでしょ」
大きな声の2人を留萌が窘める。トラックの積み荷に夢中な反想発派に気づかなかったから良かったものの……
「あっ、ごめんごめん。それはもう大丈夫だよ★」
「大丈夫って?」
「そろそろアイツら自滅するから、千影くん留萌くんも伏せて★」
いつの間にか目を覆っていた手も外さていた。2人が言われるまま頭を低くしていると……
「魯0審0j……衰¥l9戦ドky!」
「「蠍v0起WW嬢0……N」」
暴徒達の言い争いが激しくなりすぎて、ついに文字化けを起こした! 何を言ってるのかも聞き取れない一方的な主張のぶつけ合いは、膨大な熱量と轟音を伴った爆発オチでようやく収束した。
光と熱と振動が収まった後、4人が顔を上げる。周囲に暴徒達は影形も見えず、全て爆発で消しとんだようだ。
4人が隠れていた植込みの前を、先程暴徒達に襲われた運送トラックが何事もなかったように走り去っていく。襲われたトラックは10台以上いたはずなのに、目の前を通過したトラックはたった2台。
やはり、千影と留萌の想像通りだった。襲われたトラック達は結界によるパラノーマル駆除機能だった。
こうして、パラノーマル達は退治され4人が結界の外に出られたと同時に、玲南のケータイがやかましく鳴り出す。
かけてきたのは零比都だ。
『玲南ちゃん今どこにいるの? 電話しても繋がらなかったし』
「また結界に迷い込んじゃったの★ 結界の調子が悪いのかな? 結界が動き出す条件満たしてないのに結界が動き出して、今やっと出られたところだよ。千影くんと留萌くん、ちょっと午後のお仕事に遅れちゃうかも」
『実は今、あの神父さんが考案した新技術を試験してるんだけど、ひょっとしたらその試験絡みかもね』
「また結界に引き込まれたりするのかな?」
『……』
「もしもし? もしもし?」
走りながら電話しているせいか通話状態が悪い。
『もしもし、失礼。電波の状態が悪いみたいだね。玲南ちゃんと榛名ちゃん、悪いけど千影くんと留萌くんを連れてプラントB棟管理室に来てくれないかな?』
「え? 千影くん達は午後も仕事あるけれど、それはどうするの?」
『代わりの人に行ってもらうとするよ。何が起きてるのか、詳しく調べる必要があるかもしれないんだ』
「わかりました。それじゃ、今からB棟中央制御室に行くね」
通話はそこで途切れた。
To Be Continued>
会社がブラックなわけではないのですが、職場をもう信用できなくなったので転職活動開始しました。
活動の合間を見て少しずつ続きを書き上げていきます。




