第十五話 パンがないならヒトを食べればいいのです!
2025/12/28 修正
■その15
増大する自重に耐えきれず倒れこんで行動不能に陥った巨漢や、体積膨張し続ける贅肉達の、食事をやめられない阿鼻叫喚。
「うぉおぉ……やめられないとまら……な」
「甘いものは別腹なのに、どうしてこんなに苦しいのかな?」
そりゃ、食べ過ぎて本当に別腹(物理)になったからでしょ!
「ばあさんや、ワシのごはんはまだかいのー?」
「ごはんなら一昨日食べたでしょ! もう忘れちゃったんですか、やれやれ」
「一昨日……つまり2日も食べてないのに、どうしてお腹が空かないのかのー?」
「おじいさん本当に物忘れが激しいねえ。それだけぶくぶく身体が膨らめばお腹が空くわけないでしょ……あばー」
「お客さーん、お肉が焼けましたよー?」
屋台の主達が、出来上がった食べ物をわざわざ持ってきた。見た目は美味しそうだが、ここは全てが紫色という異空間。美味しそうな食べ物も、大雑把に分類すれば生ゴミという、恐ろしい呪物に決まっている。真面目に美味しい食べ物を作っている人達や企業への謝罪はまだですか。
「ありがとうございます。今から取りに行きますのでそこに置いていただければいいですよ」
様子を窺いつつ回れ右、想発敷地外へ向けてダッシュする千影達。
しかし、太っちょ店主に回り込まれた!
「諦めたら、そこで人生終了だよ?」
部員に顎をタプタプされる、どこかのバスケ部監督みたいな名言が飛び出すが、千影達の人生終わらせようとしてるのはあなた達じゃないか?
「食い逃げは許しません!」
続いて、お肉屋とナポリタン屋、焼きそば屋も怪しい料理を持って迫ってくる。食い逃げとは人聞きが悪い! 既にお金は支払っているのに!
「食べないで逃げるから食い逃げです!」
何だその理屈は。あとで食べると言ってるのに。まあ、千影の人生が終了するであろう60年、70年先の未来で、その怪しい食べ物がまだ残っていた場合に改めて食べるかどうかを含めた対応を検討する官僚答弁だが。
「出来立てを食べてほしいのです」
「いや、もうちょっとで仕事ですし、あとで」
「今食べてください。これを食べて、笑顔になって下さい」
「ひきつった笑顔にしかなれねーわ!」
「ほら、皆さん美味しそうに食べてるでしょ。さぁ、あなた達も仲間になりましょう」
「うぉおお、食わせろ、食わせろー!」
「って、うわああ!」
それまで地面に身体をめり込ませていた作業着の男が空高く飛び上がって、店主の手からひったくった肉を自分の口に押し込む。それは美味しいものを食べたグルメ漫画のリアクションめいたアクロバットな動きだった。
「「うわぁ、これもマジウマー★」」
ナポリタンの屋台には、元女子高生だった肉塊が細胞分裂めいた動きでナポリタンに貪りつく。他の客達も食欲に駆られた軍隊アリのような勢いで屋台に殺到し、料理を作る店員に襲いかかる。というか文字通り、料理を持った店員の手ごと噛みついてるし! 飢えのあまりパラノーマル達が同士討ちを始めたのか?
この騒ぎに、千影達が無縁でいられるはずもない。
「ひもじぃ、ひもじい……ひもじいんだよー!」
「パンを、パンを! 下さいッ!」
「「パンがないならパンを食べるしかないんですよぉぉぉ!」」
パンを求める亡者達は千影達を包囲し、今にも襲いかかってきそうな状況だった。そんな中、普段パラノーマルを見たら見敵必殺な玲南と榛名は何故か群衆を積極的に叩き潰そうとはせず、千影と留萌にも手出し無用とサインを出す。どうやって対処するつもりなのか?
すると玲南は想発の入り口で買ったあんパンとジャムパンの入った袋を取り出し
「そんなにパンが欲しいのかな?」
「「「ほしいほしい!」」」
「正直者な皆様に、玲南さんから差し入れ! 食べちゃって下さいなー★」
右手で鷲掴みにしたあんパンを、空高く弧を描くようにして亡者達目がけて投げた。続いて榛名が買ったジャムパンを。あんな大きなパンをあんな高さまで放り投げる玲南の身体能力には驚かされるばかりだ。
『『あばばばば、食べ物を投げてはいけませんぞ! いけませんぞーッ!』』
亡者達にナイスキャッチされそうなパン達が何か喋ってる事は当然見て見ぬフリだ。人間の頭ぐらいに大きなパンから生えた胴体が空中で必死に手足をばたつかせてるのも気のせいです。悪意しか感じられないアソパソマソの二次創作みたいなパンに群がった亡者達は。
美 味 し さ の あ ま り 閃 光 を 発 し て 消 滅 し た 。
「いや、美味しさを示すリアクションとしては不適切だろ!」
爆心地点から空高く上るドクロ型の雲にツッコむ千影。彼と対峙していた店主達は「何と恐ろしい! この世の終わりじゃあ」とうろたえているが、そもそも今ここで起きている意味不明な状況そのものが世界のエイプリルフールです!
「というか、アレは一体何なんだよ!」
「パンだよ★」
「え?」
「パン屋さんで売ってたパンだよ★」
一片の躊躇も微塵の後悔もなく玲南が言い放つが、説得力が呼吸してない!
ただし留萌を除いて。
「すごいなー。美味しさ大爆発のパンだねー」
「いや留萌、美味しさは爆発しないからな!」
「留萌くん! クリームパンだよ! パンを求める人達にクリームパンを与えて追い払うんだ★」
「えぇー、クリームパンを上げないといけないのー?」
玲南に呼びかけられた留萌は本当にこの世の終わりみたいな顔をした。亡者に襲われる危険よりクリームパンが大事か。
一方で店主達はぶーぶー騒ぎ出す。
「何という外道な! パンを求める人達にパンを与えて、嬉しさのあまり死んでしまったらどう責任を取るおつもりか!」
「そうだそうだ! 引責辞任では済まされませんぞ!」
「国会で不祥事を追求する野党議員じゃないんだからさあ……」
呆れ顔の千影の元に、店主達が料理を手に押し寄せる。
「むぅ、それならば! 今すぐこの焼肉を召し上がって下さい!」
「そうです! うちのお好み焼きも!」
「うちの焼きそばも是非!」
「そう来やがったか、この野郎ども!」
一瞬の隙が、料理を食べさせようとする店主達に接近を許してしまったが、飢えに苦しむ群衆達に助けられた。亡者達は留萌のパンだけでなく店主や屋台を容赦なく襲って食べ物を強奪し、それらを食べた後大爆発を起こし、屋台の店主達を道連れにした!
あまりの超展開に、千影と留萌が発電所上空の巨大なドクロ雲を呆然と見上げていると
「ここ、やっぱりウドンケンジョウレイ結界の中みたいだね★」
「初めて来たけれど、ここが結界内部なのか」
玲南と榛名に置いてきぼりで話を進められそうになり、慌てて千影が口を挟む。
「あー、御二方。自分達だけでわかってないで、その結界についてとにかく説明して下さいお願いします」
「簡単に言うと、富嶽第一想発に侵入するパラノーマルが悪さできない様に閉じ込めておく結界だよ★」
「そんな結界があるのか? でもオレ達、以前パラノーマルに異世界に引きずり込まれたけど」
千影と留萌が想力発電所でバイトを始めた頃に、パラノーマルに異世界へ連れていかれた件である。その先で2人は玲南と榛名と出会い、気がついた時にはフォーサーとして覚醒していた。千影が異世界からやって来たばかりの玲南と一緒に想発敷地内に湧いてくるパラノーマル退治も行った際、原因は発電所の深刻な不具合だと聞かされた。
「今回は玲南さん達が怪しいものを持ち込んじゃったから、それで発動したんだと思う。持ってきた人達丸ごと結界に呑み込んじゃった」
「怪しいものって……やっぱアレだよな」
品質的問題で売り物にならないパンを擬人化したような、何とも罪深い存在。美味しさのあまり食べた人達が大爆発を起こした、アソパソマソ好きなお子様が見たら引きつけを起こしかねないアレである。
To Be Continued>
★登場人物紹介
■新牢神父
●富嶽第一想発の敷地に極めて近い場所に私室として異空間を作ってしまった謎の人物。年齢不詳。
●新牢が名字で、名前が神父。十字架教の関係者ではない。本人曰く「健全なセイ少年の導き手」。
●身長175センチ。肩まで伸びた黒い長髪の神父さん。顔のつくりは千影によく似ている。いつもニコニコ笑っているが、かなり胡散臭い印象がある。
●自室は漫画やアニメのグッズ、ゲームやおもちゃだらけ。とんでもないレアアイテムも数多く所有する。
●リア充をやたらと憎悪する発言が目立つ。二次元嫁と結婚した木南とはいがみ合ってばかり。玲南と仲のいい千影を弄って遊んでいる。
●その正体は、マガイモノに襲われた千影が『ゴッドノーズ』で具現化させた、マガイモノそっくりな謎多きヒトガタ(千影にとりついた悪霊が、ゴッドノーズで実体化したと言えばわかりやすいかもしれない)。胡散臭い笑顔は仮面で、その下にはマガイモノ同様に目と口を思わせる不気味な三つの黒丸が蠢いている。
●青少年不健全訴訟開始直前に玲南の姿で現れ千影に助言を行った。また千影を助けるため身代わりになった。
●千影の能力を極めて高いレベルで使いこなす。玲南曰く「フォーサーとして成長した千影がたどり着く可能性の一つ」。戦闘はあまり得意ではないようだが、できないフリをしているだけかもしれない。
●現代の想力技術では研究段階にある、高レベルなフォース技術まで簡単にやってのける。その技術力を買われ日本想電にスカウトされる。
●千影とは意思や行動が独立している。ただし術者である千影が神父をハリセンで攻撃した場合、そのダメージが千影にフィードバックする。
●千影をおちょくってばかりだが、本心では術者を心配しているらしい。また玲南に対しても親切である。
●物語の根幹にかかわる存在。今後意外な形で正体や目的が判明するかもしれない。
●フォース『God Knows』
フォースパワーを固めて物質を生成する。これで作られた武器はパラノーマルやフォーサーに対して絶大な破壊力を発揮する。千影と違い精密な物体を作るのに優れている(メカ千影など)
色々な人とそっくりで、本人と同じ動きをする影武者を操り戦う事もできる(ただしフォーサーの能力まではコピーできない)。
●神父が能力を使う事で、千影は能力を消耗しない。




