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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第二章 Boys and Girls
54/177

第十四話 リリンの生み出した文化の極み

2020/8/16 書き直し完了

2025/12/25 修正

■その14



「ゴメンなさいねー。うちは替え玉ないの」

 厨房の女性店員がすまなそうに謝罪すると

「じゃあカケソバ大盛一人前お願いします」

「玲南さんも大盛一人前追加★」

 千影達と同じ特盛を食べていた2人が、一片の躊躇もなく大盛を追加した。

 まだまだ食べられるのか? そんなにお腹すいてるのか?

 そんな疑問を抱く千影と留萌の前で、2人は全く問題なく完食してしまった。この細い体のどこに、アレだけの食べ物を収めるスペースがあるのか。

「ふー、お腹いっぱい。ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした★」

「ありがとうございました。それにしてもあなた達……相伝蜃奇録だっけ。あのアニメに出てくる玲南ちゃんと榛名ちゃんそっくりだねぇ」

 そりゃ、この2人はアニメ原作になった異世界から来た、キャラのモデルそのものですから!

「はい、よく言われるんですよねー。アニメキャラにそっくりだって★」

 流石に関係者以外には素性を明かさなかった!

「確かにそっくりだねえ。ここまでテレビの画面から飛び出してきた、アニメキャラそのままな女の子達って初めて見たよ」

「別にコスプレしてるわけじゃないですよー」

 だってコスプレ以前に本人ですから。

 どうやら玲南達は富嶽第一想発外部の人にもアニメそっくりに見えるようだ。二次元の少女達が普通にお金を支払ってお腹いっぱいソバを食べる、何ともシュールな光景ではあるが、不思議な事に店員達や他のお客には不審に思われてはいないようだった。




 駅南にある富嶽第一想発入口を通り管理棟へ向かう千影達4人の前に広がる倉庫群が、想発で処理された雑誌や書籍類をリサイクルした再生紙を保管・出荷する倉庫棟だ。萌えるゴミの納入受付をする管理棟は駅南入口から奥へ進んだ南東部にあり、職員は出荷ホームへ続く線路脇の道路を歩いて管理棟へ向かう。

 先程駅構内で入換作業をしていた電気機関車が、いつの間にか想発敷地内に貨車の引き取りに来ている。恐ろしい神出鬼没ぶりだ。

 ちなみに、萌えるゴミを運ぶ貨物列車は立食い蕎麦屋がある最寄り駅から1㎞南東の駅に繋がった専用線で想発へ運ばれてくる(つまり、富嶽第一想発には貨物輸送拠点となる南東駅と、紙製品出荷と職員乗車駅である想発北側の最寄り駅2か所から引込線路が伸びている)。



「玲南って、もしかしてソバとかラーメン好きなの?」

 お昼を食べ終えて職場に戻る最中、千影は前から気になってた事を聞いてみた。

「麺類大好き★ 麺類はリリンの生み出した文化の極みだよッ★」

「すごい食べてたもんな……」

「玲南さん達だってお腹空くもの」

「あたしらフォーサーは物理法則を思念で制御するわけだからね。脳の栄養消費ハンパないんだよ」

「アレだけ食べてもガス欠するのか?」

「パラノーマルと連戦した場合、まだ足りない」

 日々体重の増減に一喜一憂するお年頃な方々からは羨ましがられる話だ。千影も玲南と修行するようになってから、空腹に耐えられず帰宅途中にパンを買う事が増えたのはそういう理由か。

「いらっしゃいませー。美味しいあんパンとジャムパンはいかがですかー?」

 路上で聞こえる屋台の売り口上に玲南と榛名がふらふら引き寄せられるのを見て千影と留萌が絶句する。あんなに沢山食べたのにまだ足りないと申すか!

「美味しいクリームパンもいかがですかー」

「……っておい留萌? ああ、CBDを発症してやがる!」


 CBD。それは日本人のうち100人に1人が発症しているとされる深刻なクリームパン欠乏症である(CBD=Creambread deficiency。すなわちクリームパン欠乏症)。一日一回はクリームパンから栄養素を摂取しないと更にお腹が空いてしまい、身体がふらついたり思考が鈍くなったりする(未冥書房刊・『僕のクリームパンをお食べ★』から引用)。


 深刻なCBD患者である留萌も、玲南達同様に財布の中身と引き換えに沢山のパンを入手した。だが美食イベントはこれで終わらない。腹ペコ3人を狙い撃つように、想発敷地内に屋台がずらーっと並ぶ。

「いらっしゃいませー。美味しいナポリタンいかが?」

「ご当地焼きそばどうぞー」

 辺りに漂う御当地グルメの美味しそうな香りが千影達を誘惑する。ああ、だがしかし! そろそろ職場に戻らないと午後の仕事に間に合わない!

「このナポリタンは食べると胸がおっきくなるよー?」

「……全部ください」

「ちょっと、榛名ちゃん?」

 玲南が止めるのも聞かず大枚はたいて全部買い占めようとする榛名。流石にそれは栄養素の過剰摂取だ!

「美味しい肉の串焼きだよー。塩とタレを選べるよ。美味しいよー」

 肉が焼ける香ばしい香りに留萌が興味を示す。

「牛肉ですか? 豚肉ですか?」

「美味しい肉だよー」

「鶏肉ですか?」

「……美味しい肉だよ」

 だから何の肉だよ! 興味を失って歩き出す留萌に、背が高い店主が巧妙な売り口上を投げかける。

「この肉は美味しいぞー。この私の高身長は、全てこれらの肉の賜物だからね」

「……すいません全部ください」

「ちょっと留萌くん?」

 玲南よりも小柄な留萌が、美味しい謎のお肉に全額ッ! 倍プッシュだ!

 職員だけでなく近隣住民と思われる人達まで買いに来て、用意されたテーブルで舌鼓を打ってる。

「おぉおお、美味しゅうございます! 快感が舌を通して脳へ、五臓六腑に美味しさが染み渡るぅ!」


 それにしても、何で今日に限って胃袋鷲掴みイベントが行われているのか。

 部外者立ち入り禁止である筈の富嶽第一想発敷地内に、見た感じ近隣住民な人達が入っていて。

 紙製品や萌えるゴミを積載したトラックが行き交う道路上に、誰がベンチやテーブルを設置した?

 


「おぉおおお、ほんとだ、身体がおっきくなったぞ!」

 謎の肉を食べた、小柄な作業員男性の背が一気に伸びた! それを見た留萌が大喜びで「早く、早くお肉焼いてください」と店主を急かすが、巨大化した男性の身体が服やズボンを破いてなおも巨大化していくのは目に入っていないらしい。もちろん下着は無事である!

「ばんざぁい! 胸がおっきくなった! わぁいわぁい」

 ナポリタンを食べてた女子高生の胸がばぁんと大きくなった。青少年健全育成の観点から使用前使用後の変化は現実的なモノ(制服が破けたりはしていない!)となっています点をご了承ください。

 羨ましそうに見る榛名の前で、彼女達が食べる勢いは止まらない。やがて胸だけでなく全身が無造作にブクブク膨らみだす。様子がおかしい事に榛名が気づいた時には既に彼女達はヒトとしての原型を留めぬ肉の塊と化していた。彼女達の衣服は破けも乱れもせず急激な膨張に健気にも耐えているが、多分きっと青少年健全育成の観点から非常に丈夫な素材が使われているのだろう。

「ふーん、なるほど。そっかそっか」

 その声に驚いた千影が振り向く。ニヤリと笑った玲南の表情に見覚えがある。パラノーマル(獲物)を前にした、狩人の顔だった。

「……え? 何……これ」

「何これって。榛名ちゃんまだ気づいてないの? 千影くんはもう感づいてるよ★ 留萌くんはそのお肉食べちゃダメだよ」

 つまり嫌な予感的中って事ですか!

「はぁー? もう気づいてるし! で、これパラノーマルか?」

 質問する辺り、つまり気づいてなかったんですね。

「パラノーマルだよ★ それも相当な数。経験値いっぱいでごちそうさまだね★」

「そんなパラノーマルが富嶽第一想発に? だってここには、侵入したパラノーマルを隔離・駆除する『ウドンケンジョウレイ結界』があるはず」

 何そのネットで大炎上しそうな名前の結界は! そして留萌は屋台前で本当に不満そうな表情でこっち見ているし。

「えー、食べちゃダメなの?」

「ダメに決まってるだろ、あの人達見てみなよ!」

 背が大きくなるお肉を食べて身体が巨大化した人もいれば、首だけが異常に伸びて身体が支えきれなくなり突っ伏して頭部を地面にめり込ませる人まで。まさに死屍累々という有様だ。

「なあ、今何が起きてるんだよ」

「千影くん? まさか、何か買って食べたりしてないよね?」

 周囲の死屍累々な様子を玲南達と一緒に見ていた千影だが、その顔は既に真っ青だった。その瞳は不吉極まりない紫色に染まっている。この紫色の正体は何?


 周囲の景色を染め上げる、濃淡ムラがある紫色。


「……え?」

 紫色一色の世界で、発電所の建物や倉庫が朽ち果てて廃墟と化していた。手入れされていない植込はジャングルとなり、数分前に貨車を取りに来たレトロな電気機関車は線路跡で放置され無残な躯を晒している。

 道路のアスファルトは酷くひび割れ、ところどころ大きく陥没し雑草に覆われており、屋台で食べ物を買った職員や学生達は地面でのたうち回りながらも食事を止められない地獄絵図だ。

「お……お腹が苦しい……マジヤバ」

「オレは身体が大きくなった……のに、何で、こう虚しいんだろうな」

 そりゃ、身体が巨大化しただけで、背が伸びたわけじゃありませんから!


「お客さーん、ナポリタンできましたよ」

「お客さん、お肉上手に焼けましたー★」

 絶句する千影達4人の背中にかけられる声。

 どう見ても異常な世界で、背後に並ぶ屋台は何事もないように営業している。何なんだ、この屋台は?


To Be Continued>

発電所について詳しく書こうと思っていたら、勤務先で食いしん坊なネズミさんが配電盤の配線を齧って修羅場になって、結局食いしん坊さん万歳な話に……あれ?


★登場人物紹介

外川 大義(とがわ たいぎ)

●日本想電の職員で、富嶽第一想発構内の警備を担当する。26歳。高校時代は黒河の後輩だった。

●身長169センチ。目は大きく額がやや広い。体格は中肉。

●22歳で日本想電に就職。強力な幻術使いのフォースを買われ警備課に配備されるが、能力を悪用してパワハラ行為やサボりの常習犯(人事部には把握されていた)。普段は猫を被って点数稼ぎをしていたとされる。

●サブカルが町おこしや電力供給に貢献する現代の社会情勢を嫌悪しており、黒河達と共に富嶽第一想発でスキャンダルをでっちあげて、外部に情報を売って日本想電を転覆させようとしていた。慎重にコトを進めていたが、企みは全てバレており決起直前に他の同胞達もろとも一網打尽にされる。

●黒河同様に何らかの方法で能力を強化していたが、木南や零比都には全く歯が立たなかった。

理由は不明だがパラノーマル化しており、アジトとして使用していた異空間ごと抹殺され、輪廻転生や異世界転生も不可能なレベルで滅ぼされる。

●フォース『幻術使い』

精神感応の能力で、対象者に幻を見せる。説明時のビジュアルとして重宝する能力。

●フォース『Dystopiaディストピア

外川のフォースで現れた幻を実体化させる。物体だけでなく質感、匂い、風の流れといった雰囲気まで再現できる。幻の中で負傷した場合、その怪我やダメージ、疲労は現実のものになる。

強力な能力だが、幻があまりにも非現実的で標的に見抜かれた場合や、怒り狂いすぎて幻が見えない状態になってしまった相手には効果を発揮できない欠点がある。

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