第十話 GOD KNOWS
「ねえ玲南ちゃん、千影くんの能力って結局何なの? どう見たって、覚醒したてのフォーサーじゃないよ」
「私がお答えしよう」
零比都の疑問に、ずっと沈黙を保っていた新牢神父が口を開く。
■その10
「……アナタ、誰?」
神父と初対面だった零比都は警戒するオーラを一瞬だけ出したが、何かに気づいてすぐにオーラをひっこめ、名前を尋ねた。
「私は新牢神父。セイに目覚めたセイ少年の導き手にして、推しキャラに悶々とする若人の味方。そして少年の因果に取り込まれた者だよ」
「嫌なところカタカナにしていない? で、千影くんの能力って結局何?」
どうして零比都は『セイ』だけカタカナだと気づけるのか。残念だがそれを語るにはノートの余白が足りない。神父もそこには触れずに話を進める。
「有東木千影の本質を一言で言うと、理不尽を清算する事にある。立ちはだかる強大な理不尽を、鏡のように跳ね返す。すなわち因果応報というやつだ。少年のフォース『God knows』は、その手段に過ぎないのだ」
■千影が跳ね返した理不尽の数々
●プロテインを売りつけようとしたパラノーマル。
→ハリセンツッコミで撃退。
●おピンクな黒電話。
→ハリセンツッコミで破壊。
●管理棟事務室を襲撃し、そのツブツブいっぱいの体表を見せつけた巨大ナメクジ。
→ヤスリでツブツブを削り落として無力化。
●幻術で変な裁判に巻き込まれ処刑されかけた。
→影武者を使って首謀者を欺く。
そして今。萌えるゴミを大量に取り込みパワーアップしたダークデビルを、劇的ビフォーアフターで透き通るようなすべすべ美肌に!
壮大な話? と思いきや……やってる事がどうも小さかった。
「何でハリセンツッコミ?」
「ボケに対してはツッコミに決まってるだろ」
零比都の疑問に大雑把すぎる答えを返す神父の目前で、萌えの力を根こそぎ奪われ真っ白く燃え尽きたダークデビルが今にも灰になりそうな姿を晒していた。
『こんな責め苦ははじめてd……麻酔と称レ乙シリコン注射するは、健康成分が生きて腸に届くからって寄生虫食わせるわ』
生きて腸に届く!
「もしかして、具合が悪いのですか? ならば美容にも効き身体にもいい……酸はいかがでしょう」
『ま……た、お加sな薬注謝する氣だな!』
「大丈夫ですよ、名前くらいは聞いた事あるはずです! ……酸ですから!」
『ヒアルロン酸とか間に合ってゑからいらわぇ……』
「もっともっと強力な酸です。キレイの味方になってくれます!」
『わ、わかったぞ! 強い酸ってそのまんま硫酸とかフッ化水素酸だろ! てめえの魂胆はもうお見通しだ……』
「何を仰る! 硫酸とかフッ化水素酸って、生物が摂取できないものじゃないですか!
蟻 酸 で す」
※蟻酸とは、アリが獲物をしとめる時、硬い外骨格を溶かして毒を獲物に注入する時に使う。
劇物である。
『お前はアリかーっ!』
「それじゃ、お前はアリに集られる虫かーっ!」
千影が即座にツッコミ返した!
そんな千影とダークデビルを見ながら、零比都は妙な質問を神父に投げかける。
「何で千影くんのフォースについて話そうと思ったの?」
「そうそう、『質問に答えが来ると思ったか? 大人は質問に答えないものだ』って言ってたよね★」
玲南も続いた。2人とも、神父が千影の能力を話した事を不思議がっているだけで、知ってる事を疑問に思っていない様子だ。
「状況が変わったからねえ」
神父の言葉が途中で止まり、ダークデビルの方に顔を向ける。どうしたのかと玲南と零比都も視線を追う。
ちょうど今、千影とメカ千影がダークデビルにトドメを刺すところだった。
「人を環境型セクハラとか言っていたあなたがいやらしいツブツブを見せつけて……それはハラスメントにはなりませんかー?」
『イエスマスター。ハラスメントに認定サレマス。デリートしましょう』
崩壊を始めていたダークデビルには、もう反撃する力はない。
しかし、ダークデビルは狡猾に機会を窺っていた。
その機会を確実にモノにする武器も準備済みだ。飲まされた寄生虫と注射されたシリコンから作り上げた新しい身体。気づかれないように慎重に、時間をかけて作った身体は見る者のSAN値と度肝を抜く醜さのはずだ。おぞましい数の吸盤が生えた触手に搭載した、とびきり強力な毒針で千影の目を貫いて脳を破壊する。
2人が処刑動作に入った、この唯一にして絶対のチャンスに。
『小僧の分際で、ずいぶん偉そうになったもんだな■Ω§£仝……』
「!?」
ダークデビルは狙い通りとニヤリと笑ったに違いない。ハリセンを振り下ろそうとする千影の動きが、その一言で鈍くなったのだ。
崩れゆく身体を突き破り、毒針付きの触手が千影に殺到する。
千影さえ殺してしまえば、あとは無力化したメカ千影の身体を奪って逃げるだけ。
回避も反撃もできないベストなタイミング。
ただ、ダークデビルにとって想定外があったとするなら。
ダークデビルが何をしているのか、千影には全部バレていた事だろうか。
触手は千影を捉えるはるか手前で動きが停まった。
『残念でしたね。アナタノ身体ニ投与シタシリコンも寄生虫も、全部マスターのフォースによって作られたモノです。アナタがそれらで何をするつもりだったのか、全部筒抜けでしたよ』
メカ千影の残酷な宣告通り、触手についた無数の疣みたいな吸盤から滴り落ちるシリコンが固まって、その動きが完全に封られた。
後はツブツブ恐怖症を再発した千影が、触手の使い手を虚数の塊に転換するだけ。
こうして、最後の賭けまで含めて掌の上であったダークデビルが、本当の絶望に染まりながら消滅させられた……
■
ダークデビルの消滅後、玲南と虎野は慌てて千影に駆け寄り
「千影くん、大丈夫? 怪我はない?」
「問題ない」
「有東木君、ダークデビルが隠してた切り札は読んでたのかい?」
「あの触手ですか? 何かやろうとしてるなと思ったので警戒はしてたんですよね。『こいつの身体に注入したシリコンとか寄生虫ってどうなったんだろう』って気になりはじめたら体内で何か作ってるのはわかったんで、引っ掛かったフリをしてたんです」
「すまないね。警備体制を見直した矢先に、あれほど厄介なパラノーマルに萌えるゴミを奪われるとは」
「厄介だったんですか?」
「もっと萌えるゴミを取り込まれていたら危なかったな。あんなパラノーマルがどうして……」
「セイ少年の怨念だね」
思案顔で呟く虎野に、神父が口を挟む。
「怨念?」
「そう、青い怨念だ。『玲南ちゃんとイチャイチャしやがって許せん!』とか『零比都たんはぁはぁ』な、セイ少年の悶々とした怨念が渦巻いて……」
「それ、アンタの怨念じゃないのか?」
千影の指摘に、神父は何故か血相を変えた。
「なななな、何を言ってるんだね! おかしな言いがかりはやめてもらおうか! 別に少年が女の子とイチャイチャしてるのがひそかにムカついていたとか、そういう気持ちは一切……あっ、何を!」
千影は神父の鼻先に右手を伸ばし、虚空を掴むような所作をした後、神父の顔から何かを剥がすように右手を自分の方に引き寄せた……
■
玲南と零比都は新牢神父の正体を知っている。
正確に言うなら、神父に初めて会った一目で正体を見抜いた。
残念ながら、千影はすぐには気がつかなかった。メカ千影が名乗った『God Knows』と混同させるように。神父が同じフォース名を使った時も、千影はおちょくられているとしか思わなかった。
手がかりは十分に示されていた。
萌えるゴミを取り込んだダークデビルから避難した際、神父は時間稼ぎに千影達の影武者を延々と召喚して戦わせ続けた。
青少年不健全訴訟において、外川を欺く目的で千影が無意識に自分のフォースを影武者に仕立てあげた時と同じように。
千影がハリセンやヤスリを作ったのと同じように、神父はレトロなロボットを即興で制作し、それがダークデビルとの戦いで千影と息ピッタリな連携を見せて大活躍した。
千影も気づいてしまった。
『どうして神父も、千影と同じGod Knowsのフォースを使えるのか?』
■
胡散臭い笑顔の下に隠されていた、神父の素顔が露になる。
不健全訴訟で千影の身代わりとなり、一方で玲南に対しては
『質問すれば答えが返ってくるのが当たり前か? 何故そんな風に考える? 大人は質問には答えたりはしない』
と返答した、大きな三つの黒丸が描かれた白い顔。
「……よく、気づいたね」
千影のフォースを具現化させたヒトガタは、その不気味な風貌とは裏腹に、感心した声でそう呟いた。
To Be Continued>
次回は4/25に更新します。




