第九話 大人だけに許された嗜み
■その9
千影がダークデビルから取り除いた萌えるゴミは丁寧に仕分けした上で山積みされ、そのままコンテナに入れて搬出できる状態だった。零比都と虎野が検分を終えた萌えるゴミから、直ちにコンテナに入れられて富嶽第一想発のプラットホームへ搬送される。
「パラノーマルに取り込まれた萌えるゴミって、これで全部?」
「はい、ぬいぐるみと少女向けドールハウス、ラジコンと鉄道模型とミニカー。知育ブロックその他もろもろ……合計650㎏ってとこかな★」
「いや、プラットホームに積んでおいたコンテナがごっそり消えたからどうしたのかと思ってたんだけど……まさかパラノーマルに盗まれていたなんて」
これだけ大量の萌えるゴミを持ち出すなんて、ダークデビルは意外にすごいパラノーマルなのかもしれない。立場的に感心してはいけないけれど、虎野は素直に驚いていた。
「丁寧に分別されてるね。というか丁寧すぎて効率悪かったんじゃない? どのくらい時間かかったの?」
「4分」
「4分でここまで仕分けたって、どれくらいの人手でやったの?」
零比都の質問に、玲南は顎を動かして後ろを見てと合図する。
「ほーら、毛穴に詰まっていたツブツブも全て取れて、お肌もスベスベ、透き通るようになりましたよ!」
『ヨカッタデスネー』
千影のすぐ隣で、メカ千影もうんうんと頷いている。トランスしてメカ千影と融合した千影は、ダークデビルにジェルを塗り、浮き上がった萌えるゴミを一つ一つ丁寧に取り除いて分別し、塗った箇所のゴミを全て取り終えると違う場所にジェルを塗ってツブツブを抜き取って、という根気のいる作業を繰り返し、4分でダークデビルが取り込んだ萌えるゴミを全部取り終えてしまった。パラノーマルのエネルギー源となる萌えるゴミを全て処置した直後に千影とメカ千影は分離したが、今でもダークデビルが千影に反抗的な態度を取るとメカ千影が有無を言わさずしばき倒す、息のあった連携を見せていた。
『透き通るような、っていうゐと、本当に透さ通っているのは別物……』
「何を言ってるんですかお客さん★ 美しくなるには苦労と努力と痛みは必須ですよ?」
施術により、ダークデビルの身体は脱皮したての皮みたいに透き通ってしまっていた。毛穴引き締めと称して冷却材をぶっかけられ、更にツブツブを抜き取られた痕にヤスリをかけられて美しく仕上げられた身体はパワーダウンどころか維持するのも難しいのだろう。巨大ムカデは脚をピクピクさせる程度しか動けなくなっていた。
「……玲南ちゃん、千影くん何してるの?」
「茶番★」
「茶番って……パラノーマル退治したんでしょ? ってか、隣にいる変なロボットは何?」
「千影くんのフォース★」
「ゴメン、玲南ちゃんが何を言ってるのかよくわからない……」
「大人のお医者さんごっこで、千影くんは巨大ムカデを倒したんだよ★」
「……変なロボットと、お医者さんごっこの因果関係は何?」
(お……大人のお医者さんごっこだって!?)
ジト目をする零比都の頭上で、地球外知的生命体めいた謎存在が話に食いついた。ひょんな事から、玲南達のパラノーマル退治を手伝ってくれた異世界のアオジル(生命体)だ。協力のお礼に日本想電が安住の地を探す事を約束し、今は滞在先である富嶽第一想発の医務室で、移住先の発見と卵の孵化を待つ日々である。
「むぅ、アオジルちゃん大人のお医者さんごっこを知ってるの?」
(もちろんだよ玲南ちゃん!)
■
発売当時大ヒット商品となった、AI搭載ロボット作成キット『AITO』。この人工知能は豚や犬、猫と同程度の学習能力を持ち、人の言葉を理解する。教えれば芸も覚える。人の顔だけでなく他の愛玩動物も認識でき、更には成長過程で性格まで違ってくる、驚異の人工知能であった。
なお、AITOを可愛がっていた娘さんが婚約者を連れてきた際に、AITOが父親に代わって追い返した事で起きた悲恋が報道され、これがきっかけでAITOは大人だけに許された嗜みと言われるようになり、『大人のオモチャ』という言葉を生んだのは言うまでもない……(未冥書房刊・世界中の玩具図鑑より引用)
■
「……アオジルちゃん、それ全く関係ないと思うよ」
零比都が言う通り、『大人の』以外は完全に違う!
(そうなの? ところでアレは何かな?)
冷静な指摘にアオジルはきょとんとした様子だったが、次は立体駐車場に立てかけられた巨大タンクが気になったようだ。
「アレは液体窒素のタンクだよ★」
「……使用目的は何? というかどこから持ってきたの?」
冷静に聞き取りを続ける零比都。ここに来たのは事件の調査であって、ツッコミをするためではないと心の中で言い聞かせながら。
「使ってないよ、流石に危ないから、玲南さんと神父さんで取り上げたんだ★ そしたら千影くん、患部を冷やすためにドライアイスをぶっかけて……」
「もしかして、ダークデビルの身体が崩壊寸前なのって、それが原因?」
「そうだよ★ 急激に冷やされてお腹壊したみたいだねっ」
お腹壊す(物理)!
「お腹壊す前に身体壊すでしょ。で、どこまでが本当なのかい?」
「全部★」
「……なるほど、全部か」
散々疑っていた零比都だが、端末に記録する動作には何ら躊躇がない。玲南が嘘をつく意味がないのを理解しているのだろう。富嶽第一想発でここまで意味不明でしょーもないトラブルが起きると思わなかっただけだ。
もちろんアオジルは完全に信じ込んでしまっていたが。
(お、大人のお医者さんごっこって、かくも恐ろしいものだったんだね!)
「そーだよ★ 大人のお医者さんごっこをするには免許が必要なんだよ★ その費用は国が負担してくれて、マッハ100で飛べる」
「玲南ちゃん、嘘教えちゃダメ。それはそうと虎野さん、いい加減仕事してくれないかなー?」
「はっ……これは失礼。AITOの実物を見てしまって、テンション上がりすぎてしまった!」
運搬装置で運ばれる廃棄済AITOにくぎ付けになっていた虎野が慌てて零比都達の元に戻ってきた。
メカ千影との融合は解けていたが、ツブツブバーサーカーというバッドステータスから完全に回復していない千影は執拗に責め続ける。零比都とアオジルが戦慄する程に。
「ねえ玲南ちゃん、千影くんの能力って結局何なの? どう見たって、覚醒したてのフォーサーじゃないよ」
「私がお答えしよう」
零比都の疑問に、ずっと沈黙を保っていた新牢神父が口を開く。
To Be Continued>
★登場人物紹介
■黒河 真
●日本想電の職員で富嶽第一想発の警備を担当する。28歳。
●身長176センチ。体格は屈強で頼もしそうな見た目。
●21歳で日本想電に就職し、戦闘向けフォーサーとしての才能を見出され富嶽第一想発の警備課に配備されるが、油断や注意力不足で失敗が多く評価は低かった。そうした扱いに不満を持ち、想力発電所転覆計画に参加する。計画中に強化された能力で、実行部隊の最前線で色々な工作に携わる。
●計画を察知した木南とフォースを使った戦闘になるが、強化された能力でも木南にまるで歯が立たず、原因は不明だが戦闘が始まった時にはパラノーマル化していて、パラノーマルとして退治されて消滅する(死亡)。
●フォース『念力使い』(使い手が非常に多いため、玲南達のように固有名はない)
術者の意思で物体の運動を制御する。フォースパワーで作られた、術者にしか見えないマジックハンドみたいなもので物体を掴んだり持ち上げる……と言えばわかりやすいかもしれない。黒河はフォースパワーそのものをビーム砲みたいに発射して敵を攻撃するのを得意としていた。
ありふれた能力(全フォーサーの一割が念力使いとされている)だが、術者次第で様々な応用が効くため熟練すると強大なフォーサーになる者が多い。




