第八話 BUTTERFLY KISS
■その8
逃げられた標的達を見つけたダークデビルは、まず逃げ道を塞ぐべく逃亡先の立体駐車場を蜘蛛の使い魔達で包囲する。
使い魔は切り落とされた尻尾部分から作り出したが、ハリセンを持った少年は虫が苦手らしいので、使い魔を上半身人間の女性というお化け蜘蛛にした。この大群を見せつければ、恐怖で戦力の減少も期待できるだろう。あとは駐車場に向かい、ダークデビル自らフォーサー達を倒すだけ。
自分を苦しめてくれたフォーサー達を狩猟本能のままにいたぶり尽くす喜びを間もなく味わえる。
はやる気持ちを抑えながら立体駐車場に到着し、獲物を探し始めるダークデビル。
しかし、駐車場近辺にいるはずの使い魔達が見当たらず、代わりに、丁寧に選別された状態で立体駐車場入り口に置かれた大量の萌えるゴミを発見した。
これはまさか、萌えるゴミに戻された使い魔達か? おかしいのは、ミニカーならミニカー、鉄道模型なら鉄道模型、ぬいぐるみならぬいぐるみ、といった具合に分別されている点だ。使い魔達を退治したとか、叩き潰したのとはわけが違う。
一体、これは? 警戒するダークデビルに、立体駐車場から現れた人影。最初に取っ組み合いをした、レトロなデザインのロボットだ。何故かハリセンを持った少年の姿が重なって見える。
「こんにちはー。今日は全身からツブツブを取り除く施術をさせていただきまーす★」
何かの間違いだと思った。
玲南と同じ、語尾がやたらとはねた調子で喋るぽんこつロボットに、ムカデや昆虫を捕食する大蛇を幻視したダークデビルは。
狩る側ではない、狩られる立場に回った事を本能で悟り、心底からの悲鳴を搾り出した!
『ひぃぃぃあぁあゐぁーッ!!』
「大丈夫ですよー★ まず逃げられないように……もとい、痛くないように麻酔をしちゃいますからね★」
脇腹に違和感を覚え後ずさるダークデビルは、一瞬で懐に潜り込んだメカ千影にうろたえた声で問いかける。
『き……貴様、何を……?』
「今からする施術はちょっと痛いので、痛みを抑える麻酔としてシリコンを注射しましたー★」
『シリコンは麻酔じゃありませんから! あ? あれれ? あ……?』
襲い掛かる脱力感にダークデビルが身体をふらつかせる。空中を泳いでいるようで、身体にまるで力が入らない。
「早速麻酔が効いてきましたねー★ 大丈夫、痛くないし怖くもないですよ。よいしょっと」
メカ千影は慣れた手つきでダークデビルをひっくり返して仰向けにする。顕になった腹部をよく見ると、ダークデビルが取り込んだ萌えるゴミの粒々がうじゃうじゃと蠢いているようだった。メカ千影に重なって見える千影は本当にうっとりした顔で見つめながら
「ほーら、毛穴がそこら中で黒ずんでますよ! 角栓もニョキニョキしてますし……キレイキレイしないとモテませんよ!」
『毛穴とか角栓とか、人間みたいな事言うんじゃねえ!』
「はいはーい、しばらく静かにしててくださいねー★」
『ちょ、きさm! 今何塗った!』
「何って、そのツブツブを掻き出してくれる、天然素材のジェルですよー★」
『うぉい! 何か変な臭いがしてr! 煙が、kmrg(煙が)!』
「大丈夫ですよ、ほら、毛穴汚れが浮き上がってきましたよ★ これでアナタも女の子にモテモテですよ?」
『や、やかましい! 二足歩行する生き物に発情するなんてヘンタイのする事d』
「はいはーい、それじゃツブツブを綺麗に取り除きますよー★」
ダークデビルの抗議には一切聞く耳を持たず、メカ千影は手にした巨大ペンチをぬるぬるが塗られた腹部に突っ込んで……ジェルに浮き上がっていたミニカーの残骸を丁寧に引っこ抜く。
続いてC62のNゲージ模型を取り出した。お次は巨大ロボットアニメのプラモデルと宇宙戦艦。
そしてラジコンプロポを救助した次の瞬間にはヨーロッパ伝来の知育ブロックを分離する。作業開始から一分もしないうちに、取り出された萌えるゴミが綺麗に分別されて山を築き上げていた。
『ぎゃあああああーッ!!』
萌えるゴミを取り出す作業に夢中になっている千影は、ダークデビルの絶叫などまるで聞こえていない様子だ。
「全く、かっこいいロボットや車をこんなに集めて、どうすればこんな不細工な巨大ムカデができるのかねえ★」
『ヒトを不細工呼ばわりすrなふがふが……』
「女の子も大好き、可愛らしいお人形さんをツブツブみたいにまぶしてる時点で、美的センス疑われても仕方ないっすよシャッチョサァーン?」
『やめろ……やめろぉぉぉー!』
しかし、ツブツブバーサーカーと化した千影の大暴走はパラノーマルの悲鳴ごときで止まらない。あちこちの脚をピクピクさせる動きはあまりにも弱弱しく、最早抵抗にさえなっていなかった。
■
遅れて駐車場から出てきた玲南と神父が見たものは、今や周辺に並ぶ廃墟よりも高く積み上げられた萌えるゴミの山(分別済)だった。
「……おかしい、変だぞ★ ダークデビルよりも分離された萌えるゴミの方が圧倒的に体積が多い!」
「いや玲南ちゃん、そんなところツッコまなくても……終わったみたいだね」
廃墟の谷間に横たわるダークデビルは、エネルギーの源となる萌えるゴミを千影の手で一つ残らず抜き取られ中身は既にスカスカ状態だった。
『あばばば……てめえ、ツブツブを抜き取ったとしても、すぐにまた萌えるゴミを取り込んで……』
「大丈夫ですよシャッチョサーン? 知ってますか? 毛穴は角栓を取り除いた後のケアが重要なんです。冷却して毛穴を引き締めてお肌ツルツルですよー★」
仕事をやり遂げた良い笑顔で、千影は背中に背負った大きなタンクを見せつける。そのタンクには液体窒素と書かれていた……
液体窒素って、アンタ!
『えきたいちっそを美容に使うなんて聞いたことがねえわーッ!』
「えー? よくわからないけど、猛毒のオゾンを使う話をどこかで聞きましたし★ 別に不思議じゃないでしょ?」
そして惨劇の幕が上がる。
To Be Continued>
この巨大ムカデはパラノーマルであり、液体窒素やオゾンを浴びても問題がないように特別な訓練を受けています。
★登場人物紹介
■丹羽 亜比斗
●身長164センチ。小太りの中年男性。年齢は41歳(実は事務所を異界にしたエンジニア達の中で最年長)。
●富嶽第一想発で起きた設備不具合を調査するためにやってきた想力エネルギーエンジニア。
●コミュニケーション能力が非常に低く高校中退以来ニートだったが、想伝蜃奇録のアニメにハマり、玲南達が実在する人物で、想力発電所で仕事をすれば彼女達に会えるという話を聞いて37歳で覚醒。39歳でエンジニアになる。
●超レアな能力を持っていて、日本想電や研究機関には最重要フォーサーと認識されていた。
しかし能力が特殊すぎ、本来フォーサーなら使えるはずの基本技術もほとんど使えない有様で、唯一得意だったのは想力システムのデバッグであった。
●玲南を嫁にする野望を持ち想電に入り込んだ彼だが、思い描いていた理想と現実のギャップに悩み、やがてパラノーマルの甘言に乗ってしまい……
●フォース『STONED MERGE』
特定の条件が満たされた時に、術者の意思とは無関係に発動する極めて特殊なフォース。
術者がフォーサーやパラノーマルといった超常的な存在に殺害された時、術者を殺した相手を問答無用に道連れにする。この効果はどんな力でも防ぐ事はできない(術者がこれ以外の条件で死亡した場合、当然能力は発動しない)。
また、この能力は術者が基本的なフォース技術を取得するのを妨げる効果もある。




