第七話 限りなく降り注ぐ魔法以上のユカイ(後編)
■その7
5分。
礫を武器に暴れまわる危険なパラノーマル相手に、5分の時間を稼ぐ。
言われただけで気が遠くなる。今まで散々ダークデビルから攻撃された千影には、5分という時間の長さと難しさがよくわかる。5分という時間が300秒に感じられる。影武者を使った身代わりの術が上手くできたから良かったものの、これからもう5分同じ事ができる気がしない。
「そんなの、できるわけが……」
「できないではない、やるんだ。神様は乗り越えられる奴にしか試練を与えない。この私、新牢神父を信じなさい。信じる者は救われる」
「あ、ごめん。マジで信ぴょう性がなくなったわ」
「おいちょっと待て。ここで少年が踏ん張ってくれないと、せっかく取り返せた玲南ちゃんフィギュアを、今度は収納ごと全部奪われてしまう。今なら十分あいつに勝てるけれど、萌えるゴミだけでなく玲南ちゃん榛名ちゃん零比都ちゃんフィギュアのエネルギーまでプラスされたら、対峙するのは流石に厳しくなってくる」
話の信ぴょう性が急に増した! 主に危機的な方向に!
「アンタ、玲南フィギュアにどれだけ妄想のエネルギーつぎ込んでるんだよっ!」
「神は愛に対しては寛大であられるので……」
「玲南、この神父どう思う?」
愛って便利な言葉だな。千影はそう思いながら玲南に尋ねると
「フィギュアお買い上げありがとうございまーす★ おかげで玲南さんのお財布も愛で潤います★」
見事な営業スマイルで玲南が返事した。多分どんな人にもこういう反応なんだろうな。海賊版販売とか、転売ヤーでない限り。
「それはともかく、確かに玲南さんもダークデビル相手には相性悪いのはホントだよ? でも退治できないわけじゃないからね? ちょっと苦しいけど玲南さんはそれくらい対処できるの千影くんも知ってるよね? でも、千影くんに手伝ってもらえれば確実に勝てるよ★」
「でも、危ないんでしょう?」
「いい機会だから、あのダークデビルさんにミットを持ってもらって、千影くんのわんつーわんつーにつきあってもらいましょう★」
「いや、ボクシングジムじゃないんだから」
「千影くんは黒い悪魔を相手にいい汗をかくんだよ★」
「思いっきり嫌な汗かきそうだけど! あの礫を相手にするんだろ!」
巨大な黒い悪魔やムカデ相手に、相撲みたいな取っ組み合いなんて想像するのもお断りしたい!
「ダメージ面は心配ない。この私が少年のフォースを覚醒させて防御力を向上させる」
「代償はつきものなんだろ?」
「君の防御力を数分間解放するだけだから代償は特にない。ちょっと疲れるのと、パラノーマルの注目が少年の方に向く程度だ」
「さらっと恐ろしい事言うのやめてくれ! アレと取っ組み合いとか、精神的なダメージの方がでかいわ!」
すると神父は見た事もない真剣な表情で
「でも、キミは戦うための武器を持っている。上手い使い方を知らないだけだ。使い方、戦い方も教えよう。あとは少年の意志だけだ。玲南ちゃんと一緒に戦うか、どうする?」
「!」
言われるまでもなく、千影にはわかっている。
戦う術はある。あとは勇気を出して引き金を引くだけ!
玲南の期待に応えられるのは千影しかいないのだ。
そんな千影に向けられる、無数の目。
『みーつけた!』
今、一番聞きたくない声の主に見つかってしまった。はるか遠くにいるはずのダークデビルが立体駐車場に気づいたようだ。そこら中からこちらを見ているような、刺すような視線を感じる。それこそ無数の目が立体駐車場のあちこちから千影達を見張っている。そしてあいつらは、瓦礫の陰から千影を指差して笑っているに違いないのだ。
「それでは手っ取り早く能力強化をし……」
神父が何か言っているが、千影の右耳から入って左耳へ抜けていく。何を言っているのかわからない。
「神父さん、気づかれたよ!」
玲南もこちらに向かってくるダークデビルに気づいたようだ。でも、もう遅い。立体駐車場への侵入を許してしまった。姿は見えないし動く気配も感じられないけどきっとそうなのだ。廃棄された萌えるゴミで作られた、ダークデビルの身体みたいに。
千影は知っている。壊れたオモチャの残骸集合体であるダークデビルの体表にまぶされた、不揃いな粒々に。ダメージを与えても萌えるゴミを取り込んで再生しダメージを回復する。その過程でオモチャの残骸が体内で組織を作る材料にされ、うじゃうじゃとしたツブツブに変換され……ッ! 想像するだけでもおぞましい。
そんな粒々達の熱い視線が、千影に向けられている。千影達を呑み込もうとこちらに迫ってくる……
「うん、見える……見えるよ」
無意識に、千影の口から恐ろしく冷静な声が出ていた。
どうしたのと言わんばかりに千影を見た玲南が、ぎょっとした顔になる。
「いや、子供達を楽しませてきた夢の跡を、人を傷つける武器にするとか。あのパラノーマル許せないよな……」
「あ、ああ。その通りだが。ちょっと、どうしたんだね? もしかして具合が悪いのかい?」
様子がおかしい千影に、神父も心配そうな表情を見せる。
「別に? 具合は別に悪くないよ。ただ、あのパラノーマルが許せなくなっただけでさ。身体におぞましい粒々を振りかけて、こっちにゴマ粒を見せつけるような、いけないパラノーマルは退治しないとさぁ……」
恍惚とした声色で、一体何を言っているんだ、この少年は?
そこで神父は思い出した。玲南が以前言っていた。この少年は小さな粒々密集恐怖症で、大量のツブツブを見ると凶暴化する……と。
改めて千影を見る。目を疑った。
神父が見たものは、不揃いなツブツブへの嫌悪感に歪んだ千影の顔ではない。
ツブツブを憎悪するあまり戦闘スイッチが入ってしまった顔でもない。
新牢神父が夜なべして製作した、あの戦闘ロボットだ。大きさは術者である千影と同じくらい。ずいぶんとスケールダウンしているが、巨大ヤスリと麻酔銃と、その他怪しい器具を背負い、手にはツブツブを引っこ抜くペンチを持った、見覚えのない物々しい装備をしている。
こんな時に、術者の声真似とか馬鹿なマネをして……と、自作したロボットの悪ふざけにイラつく神父だが、見た目上術者本人を連想させる要素が見当たらないぽんこつメカに、うっとりした表情の千影がダブって見える事に気づく。
『「さぁーて、あんなイケナイツブツブは綺麗にしましょうねー★」』
メカ千影の機械的音声に、千影本人の声が被っていた。
まるで、ぽんこつメカが千影と同化したように。
To Be Continued>
こうして、キレイの味方になった千影の奮闘が始まる。




