第三話 消毒はモヒカンだ! ヒャッハー!
■その3
★ここまでのあらすじ★
――ただ萌えイラストを描いただけで人権侵害と糾弾され、萌えが人心を狂わすと厳しく規制された、文明や文化が荒廃した時代。
可愛いモノを愛でる事に飢えた、人々の頭上に広がる灰色の空。萌えの禁断症状に苦しむ人々を救うべく開発された最終決戦兵器『メカ千影』だが、萌えの欠乏した雰囲気に耐えられず起動と同時に暴走し、人々の心はいよいよ絶望に落ちつつあった――
「ちょっと待て!」
「どうしたのかな、千影くん?」
「いきなりおかしなモノローグが始まって、登場した超巨大兵器に人の名前が命名されていたら、ツッコむの当たり前だろ!」
「玲南さんが一生懸命考えた即興シナリオのどこが気に入らないのかな? あと、メカ千影くんという名前は、『God knows』という命名にクレームが入ったので変えました★」
「メカ千影はもっと嫌だっての! そもそも、この茶番は何なんだよ! 何で世界がいきなり廃墟に変わってるんだよ! それと熟考したのか即決なのかどっちだ!」
「千影くんがフォースをコントロールしないと世界が滅ぶ。そんな緊迫感を出してみました★」
千影と玲南の周囲に、人類滅亡後の大都市を思わせる廃墟が広がっている。世紀末を思わせる世界だが、目を凝らすと新牢神父の部屋に積み上げられていた本や段ボール箱の塔がうっすら見える。目前に展開されるVRの世界みたいなものか。逃げ回る人々の表情も上手く再現されてて、実にリアルである。
千影の苦情などお構いなしに、玲南のマイペースぶりを体現したモノローグは続く。
ただ、千影はこの時気がつかなかった。
理屈の通じない超展開なあらすじが、途中から変な方向にブレていった事に。
――メカ千影は廃墟にズシンズシンと足音を轟かせ、手にしたハリセンで暴れまわる。萌えを規制した社会への鉄槌とばかり、逃げ回る人々を問答無用に蹂躙していく。
そんな人々の前に救世主が現れた! 正義の心が宿った一万体の玲南フィギュアが集まって誕生した、メカ千影に勝るとも劣らない大きさを誇る巨大玲南だ! 玲南フィギュア一つ一つのチカラは小さいが、彼女達が集まって二億四千万の細胞となる事でメカ千影に対抗できる恐るべきチカラを発揮できるのだ!
今、人類の夢と希望と萌えをかけた最終決戦の火ぶたが切って落とされる――
廃墟から逃げ出す住民達などお構いなしに、巨大メカ千影と巨大メカ玲南が激突する。見た目はアレだが迫力はスゴイ。戦いにすっかり引き込まれた千影の頭に、謎の声が聞こえてくる。
『……きこえますか……聞こえますか。今、千影くん達の心に直接、呼びかけています……巨大ヒトガタ決戦兵器から人類を守る戦いを……見守るだけではいけません。苦戦する巨大玲南ちゃんには応援が必要です。千影くんも声援するのです。千影くんも応援して(しなさい)!』
「おぉおお、玲南がんばれ……っておかしいぞ、目の前が真っ暗だ!」
声に釣られて巨大メカ玲南に声援を送る千影の顔面を、玲南が鷲掴みにした。
「千影くぅん? 街中で大暴れするおっきな塊を、どうして玲南さんだと思い込んだのか。説明お願いできるかなぁ?」
「い、今! すごい力でアイアンクローしたところが玲南さんそっくりです!」
五線譜ワイヤーを操る玲南は可憐な見た目によらず身体能力が高く、千影の身体を片手で持ち上げられるだけの腕力もある。もちろん玲南には本気で攻撃する意思はなく、千影はすぐに解放されたが、ほっとする暇はない。玲南がいつものニコニコ笑顔で千影に迫ってくる。
「えー? 怪獣はアイアンクローなんてできないよ? だって顔面そのまま握りつぶしちゃうから★」
「同じだろーっ」
「同じ? あのぽんこつな外見の巨大メカと、千影くんも大ファンな想伝蜃奇録登場人物のモデルになった玲南さん。どこがそっくりだっていうのかな?」
玲南はとても怒っているようだ。何がそんな気に気にらなかったのか。このモノローグを作成したのは玲南じゃないのか。
『顔とか見た目そっくりですよ? 玲南ちゃんをロボットにしたらこんな感じで……』
「肖像権侵害で訴えるよ?」
本職のヤクザみたいな怖い声で玲南が言い放った。
謎の声が言う通り、巨大玲南は実物と同じ白いブラウスに白色のVネックニットベストと、チェック柄のスカートを着用している。髪はサラサラセミロングの茶髪で、玲南の外見的特徴を忠実に再現している。ただ、巨大玲南の目がデュアルアイカメラで、顔の造形がすごく荒いポリゴンなのが技術的にとってもチグハグである。サラサラな髪の毛まで再現できるのに、どうしてその技術や努力を完遂できなかった!
様子がおかしい。巨大メカ玲南は玲南自身が納得したデザインではないのか?
例えば、デザイン外注したら納品されたものが仕様とかけ離れていた、みたいな。
『あのフィギュア達は許諾済みの玲南フィギュアですので、実質問題はありません』
「名誉棄損って言葉知らないかい?」
どこからか響く声に、玲南がドスの利いた声で言い返す。誰か知らないけど挑発はやめてください!
『あと、背の高さは本物そっくりですよ?』
「背が高い事と巨大はイコールじゃないよね★」
玲南はアニメキャラそのままな童顔だが、身長は171センチもある。千影と並んだ時、背の高さに大きな差はない。
『そ、それじゃあ。身体がすらっとしているところ、とか』
「寸胴鍋に、頭部と手足くっつけたような形状はスラッとした、とは言いません★」
「わ、私がこっそり買い集めた1/32サイズ玲南フィギュアがーっ!」
ニコニコ笑顔で本気で凄む玲南の隣で、神父が泣き崩れる。どうやら、神父が収集した玲南のフィギュアが合体して巨大玲南が誕生した、というシナリオは玲南自身の考えたシナリオとは違うものらしい。
では、誰が考えたものか? メカ玲南を応援するように語りかけてきた声の主か?
正体は不明。取っ組み合いをしている巨大メカ千影や巨大玲南でもない。
2人の戦いから逃げ惑う、萌えなき世界の民衆達も、泣き崩れたままの神父も違う。あるいは、神父が収集していた、他のフィギュア達か?
それとも……神父の部屋で唐突に始まった、回避不可能な謎イベントにおける未知の敵?
色々な可能性が千影の頭の中によぎる。でも、どれが正解なのか答えが出ない。
「あ、あの。玲南?」
千影が恐る恐る玲南に質問すると、玲南はいつものニコニコ笑顔で
「ん? パラノーマルにフォースをいじめられてるのに気づかない、おマヌケな術者の千影くん。何か御用ですか?」
思いっきり険のある答えを返してきた直後、誰のものとわからない悲鳴が響く。
千影が注意を逸らした、一瞬で決着してしまったようだ。
To Be Continued>
★登場人物紹介
■有東木 千影
●給料の良さに釣られて夏休みに富嶽第一想発でアルバイトを始めた高校一年生。
●身長174センチ。顔立ちは割と女の子っぽい。身体も細い。
●中学時代に想伝蜃奇録のファンとなり、よく読み込んでいる。推しキャラは玲南(作中同様に騒動を起こすために頭を抱える事もあるが、基本的にものすごく好み)
●その時興味をもったものを調べまくる知識オタクで、漫画やアニメ、ゲームだけでなく古城や歴史、富嶽第一想発に到着する貨物列車や牽引する電気機関車といった鉄道ネタにも興味を持っている。
●玲南の住む異世界に迷い込み、危機に陥った彼女をフォースで助けた。それ以来アルバイトの合間に彼女からフォースの特訓をしてもらっている(会社公認)。玲南ととても仲が良い。
●大谷 留萌、門野 裏音という幼馴染がいる。留萌は一緒に富嶽第一想発でアルバイトしている。
●身体能力は高いが、几帳面すぎて速さを求められるような現場の仕事にはあまり向いていない(丁寧にやりすぎてしまう)。そのため萌えるゴミの計量器操作をメインに仕事する。
●時給の良さに釣られるなど、実はお金の亡者なところも。
●トライポフォビア気味(自然界にある粒々がダメで、人工的な模様には嫌悪を抱かない)だったが、最近は嫌悪のあまり凶暴な別人格が目覚めるなど悪化した。
●フォーサーとして覚醒した理由は不明。能力は「パラノーマルやフォースを攻撃できる強力な武器を作り出せる」と千影自身は認識している。




