第二話 ツッコミが追いつかない。
■その2
「で、どうやって彼にケータイの画面に入ってもらうか、だが……」
「まだ不毛な話を続けるのかよ! というか、何の話をしてるんだよお前らは!」
「いいところに気がついたね千影くん★ 何のためにここに来たのか、まずはそこから考えよっか★」
「フォースの修行に来たんだろ!」
玲南の反応に仰け反りそうになりながらツッコむ千影に、玲南と新牢神父は顔を見合わせて
「修行だって。現実と虚構の区別がついてなくってよ、キミの相方」
「きっといかがわしい白い粉を過剰摂取したせいで、現実がわからなくなっちゃったんだよ★」
「してねえよ! 何だよ、そのいかがわしい白い粉って!」
「人間をダメにする白い粉だよ★」
「そんな危険物質、摂取した覚えないぞ!」
「えー? 人間をダメにする、あの憎くて憎くて甘くていとおしい白い粉だよ★ 女の子はスイーツ成分をその粉から補充するんだけど、沢山摂ると体重と血糖値が危険に晒されちゃう」
「もしかして砂糖かよ!」
「それ以外に何があるの? それとも、ひとつまみでどんなお料理でも極上のごちそうに変える、魔法の白い粉の方だと思った?」
「日本全国のメシマズさんを救う夢の粉だ!」
「過剰に入れすぎるとお料理が台無しになるし、血圧が急上昇して血管がブッツリ逝って人生ダメになるけどね★」
「食塩かーッ!」
「塩を制する者は料理を制する、だよ★」
玲南はえっへんと胸を張る。想伝蜃奇録作中でも、玲南は肉じゃがやカレーを作ったり、お料理上手な描写が多かった事を千影は思い出す。その割にはラーメンと触手モンスター『うーメソ』と勘違いするなど、異世界同士で食文化に差異があるようだ。
「それともいかがわしい取引の方じゃないか? お隣のサークルさんに御当地グルメを差し入れする取引」
「どこの同人誌即売会の流儀だ、それは!」
なお、高校生の千影はまだ即売会参加経験はない。
「私も山吹色のお菓子をよく差し入れしたものだよ……」
「あー、うん。そうですか」
サブカルにまみれた神父が遠い目をして語る。確かに、この男は即売会参加実績ありそうだ。それも作る方で。
「クサヤとフナ寿司とシュールストレミング差し入れしたら、即売会出入り禁止になっちゃったけどね」
「毒ガステロリストがここにいまぁぁす! そもそも、それはお菓子じゃねえ!!」
「え、私が毒ガスについての同人誌出したの、何で知ってるんだ?」
「お前はそれでも神父かよ!」
「ま、まさか! フォースを使って私の過去をこっそり調べ上げていたっていうのか!」
「調べたって一文の足しにもならねえわ!」
まさか『千影……恐ろしい子ッ!』みたいな顔で言われるとは思わなかった。
「とにかく、千影くんのフォース『God knows』はどんな力なのか、まずはそれを詳しく知らないとね★」
地球から木星に行くのにイスカンダル経由するくらい盛大な遠回りをして、やっと本題にたどり着いた。いつ授かったのかもわからない、千影の超能力。まずはそれを詳しく知るところから始めよう。
玲南と神父は千影に背を向けてガラクタの山をガサゴソしている。何か作っているようだ。その間、千影は前から気になっていた疑問について考えていた。
それは、『フォースの実態がわかったら、千影も自分のフォースに名前をつけないといけないのだろうか?』というものだ。
想伝蜃奇録に登場するフォーサーは炎使いとか水使い、サイコキネシスといった能力を除くと、みんな自分達のフォースに名前をつけている。音使いの玲南には『Climbing Wind』、榛名なら『Fripside』といった具合だ。これは玲南達がいる想伝蜃奇録の世界在住フォーサーだけではなく、富嶽第一想発勤務医である木南も自分のフォースに『Trick Yet Treat(お菓子はいいからイタズラさせろ)』と名付けていた。
命名には法則があるのか? それとも、使い手が好きな名前をつけていいのか。
くすぐられる厨二病的気質。ちょっとドキドキしていた千影の前に、玲南と神父が大きなガラクタを持ってきた。
「というわけで、まずは千影くんのフォースが何たるか、その正体を明かしましょう★ これだよっ」
「こ、これが……オレのフォース!?」
ニコリと笑って玲南が見せたものは、非常に角ばったデザインをした人型ロボットのようなものだった。胴体は箱型で、鉄の棒を組み合わせて構成されていて、中身が透けて見えるスケルトンな構造だ。頭部は筒形で、人の目と口を思わせる黒丸が描かれた紙が貼りつけられている。胴体から伸びた異常に細長い手足は、二足歩行時に胴体や頭部の重さを支えられるとは全く思えない。右手に持ったハリセンだけがやたらと立派だ。
『ガーッ、ツッコミが、追いつかない! ツッコミが、追いつかない!』
「そう、これが少年のフォース『God knows』だ!」
「んなわけあるかぁーっ!!」
大威張りで言い放った神父の頭に、千影は容赦なくハリセンを振り下ろした。
「何をするのだ、神の使いであるこの私に!」
「何をするのだ、じゃねえだろ! このやたらレトロな人型ロボットが、オレのフォースってどういう意味だよ!」
「そのまんまの意味だが? これが君のフォース『God knows』だ!」
「こんなロボット知らねえよ! というか、その『God knows』って神父のフォース名だろ!」
「えー? 少年のフォースじゃないか」
「オレはそんな名前つけた覚えないぞ!」
まさか、フォースは術者の意思とは無関係に命名されるものだったのか?
『名前をつけたのはこのワタシ自身です。アナタをマスターとするワタシにふさわしい名前をつけました』
「ハリセンを振り回しながら目からビームを発射するロボットなんて、うちの子じゃありません!」
あと、神を自称する子もうちの子じゃありません! そして実際にハリセンを振り回しながら目からビームをピーピー発射するロボットなんて完全赤の他人です!
『ガーッ、ツッコミが、追いつかない! ツッコミが、追いつかない!』
「そりゃこっちのセリフだ!」
風が吹いただけで瓦解しそうな、骨組みだけのぽんこつロボットがバレエみたいにクルクル回りながら、手にしたハリセンで本の山をなぎ倒す。バレエのトゥシューズと衣装はいつ着用したのか、まさか異世界の技術か?
トドメの、目からビーム!
『ガーッ、ワタシは殺人兵器ではありません、321兵器ではありません!』
「そのビームは何だよッ!」
「ちょ、ちょっと千影くん! 本の山が崩れるよ! 自分のフォースを早くコントロールするんだっ!」
「あんな殺人兵器は知らねえって言ってるだろ! こっちにそんな話を振るなぁーッ!」
目の前で繰り広げられる、想伝蜃奇録の世界さながら不条理でカオスな惨状に、千影が絶叫する。
To Be Continued>
次回からフォースの核心部分に入っていきます。




