第四十話 Boy Meets Girl(完結編)
■その40
「まあ、こういう事があったんだよ」
「あー、うん、その……どこまで本当の話? それ」
「全部だよ!」
「ごめん、何を言ってるのか全く分からない」
アルバイト開始から9日目になる、木曜日の午後。休憩所で千影と一緒に昼食をとっていた留萌は、彼が本当に何を言っているのかわからない様子だった。
「神話級パラノーマル本体は既に滅んでいるし、かかった呪いも解けたはずなのに、千影くんの周りではしょーもない怪異が収まらなくって★」
いつの間にか、玲南がニコニコ笑顔で千影の隣に座っていて、話に入ってきた。
「あの、怪異が止まらないって、具体的には何があったのさ?」
「千影くんがおうちのPC立ち上げたら、千影くん好みな全裸のおじさまが画面全部を埋め尽くしてたり★」
「好みじゃねえ! 誰が三段腹の中年オヤジが縛られてる画像で喜ぶんだよ!」
「文字を入力したら、何故か全ての語尾に『ほいほいの』という謎の文字がくっついてほいほいの」
「メール打つ時とかマジでめんどくさくてムカつくほいほいの!」
「くつしたをくつぴろと呼ぶ、ファンタジー世界に迷い込んだり」
「それはファンタジーかよほいほいの!」
あまりにもしょーもなさすぎる怪異だが、千影にとっては深刻な問題だ。
■
千影は週明け早々木南達に報告したが、木南達は外川達の置き土産を調べるのに手いっぱいで原因が全くわからない。
木南と虎野が頭を抱える難問。解決のきっかけをつくったのは、調査のアルバイトに来ていた玲南の一言だった。
「もしかしたら、千影くんのフォースが何か関係してるのかな★」
「え? オレのフォースが?」
「千影くんが幻術にかけられたでしょ。あの時玲南さんの前にマガイモノの姿をした千影くんが現れてね。玲南さん問いただしたんだ★ そしたら
『質問すれば答えが返ってくるのが当たり前か? 何故そんな風に考える? 大人は質問には答えたりはしない』
って、理想的中間管理職の名言みたいな答えが……」
「いや、それ関係ないから!」
まさか自分のフォースがそんな酷い回答して玲南を困らせたなんて!
嘆く千影だったが、玲南はむしろきょとんとした顔で
「え? 困るなんてとんでもない。つまり千影くんのフォースに何か秘密があるって言ってるも同じじゃない★」
「え?」
そう言えば、不健全裁判直前に現れた千影のフォースは、非常に解りにくい形で玲南の無事と裁判の実態を伝えてきたんだっけ……
「だから、千影くんがフォーサーとしてレベルを上げていけば問題は解決に向かうと思うよ★ 調査のついでで良ければ、この玲南さんが千影くんの面倒も見てあげよう★」
「お、おぉ!玲南ちゃんありがたい! 是非お願いしたい! 有東木君もそれでいいかな?」
普段はボケまくりだけど、本当はものすごく聡明な彼女の提案に、人手不足に困っていた虎野はすぐさま飛びついた。
「え、それで問題が解決するならいいですけど、面倒見るって何をするの?」
「そりゃ、修行だよ修行★」
■
こうして、玲南が千影にフォースの特訓を施す事になった。
修行といっても大袈裟なものではない。木南や虎野の仕事を手伝いにやってくる玲南が、空き時間を利用してフォースの使い方についてチュートリアル的に教えるというものだ。
ログインボーナスと称してタノシイドリンクを貰ったり、活け造りにされたラーメンに逆襲されて食べられそうになったり……
「千影くん達の世界では『うーメソ』は食べ物だって言われて、あんなものをどうやってと思っていたら、ラーメンという食べ物だとは知らなかったよ★」
「まさかうーメソが触手の集合体を表す言葉だとは思わなかったよ……」
千影が疲れた様子なのは、おそらく『うーメソ』なる謎の存在(多分パラノーマル)に襲撃されたから……
「ウマシカよりもよっぽど現実的な存在じゃないかな? 玲南さんも富嶽第一想発に来るまで、ウマシカなんて非実在だと思ってたから★」
「おお、その点は玲南に同意するよ!」
この数日で千影は玲南とすっかり打ち解けて、さん付けから呼び捨てに変わっていた。
2人のやり取りを見て、留萌はニコニコしながら
「何だか楽しそうだね」
「毎日が修羅場だよほいほいの!」
「でも、お給料いっぱいもらえてるでしょ」
「ま、まあ……確かに」
不健全裁判で千影が証言した、時給2000円という給与待遇は本物だった。ウマシカに襲撃された時の残業手当込みだが、千影はたった5日間のアルバイトで90000円ものバイト代を手に入れた。もし一か月間フルで働いたら、アルバイト代で30万以上も貰えてしまう恐ろしい計算に千影は戦慄した。
しかも、没収された外川達の退職金は騒動対策の経費に回されるそうだが、この経費には騒動解決に協力した者への報酬も含まれていて、大功労者として表彰された千影も報酬を貰える事になった。ただ、報酬一括払いだと何かと問題になるらしく、「学校が始まっても、週2回でもいいからバイトに来てほしい。24回払いで3万円ずつバイト代に上乗せする」と提案され、千影は二つ返事でOKした。
人生で初めて、目を疑うような大金を手にした千影は、親との約束通り半分は家計に入れ、残りの金額もほとんど貯金に回した。
ほとんど、である。ほんの少しだけ、興味のあるものに使ったりもしたけれど……
「想伝蜃奇録の公式読本とか買ったんだっけ」
「まあね」
前々から欲しかった、想伝蜃奇録の公式読本と設定資料集を千影は購入した。お値段は合計で4,000円。
もしかしたら、フォースの正体を知るきっかけがあるかもしれない、という考えもあっての事だ。
「お買い上げありがとうございまーす★」
「何かすごく嬉しそうだけど、玲南って想伝蜃奇録の販促もやってるの?」
「玲南さんや榛名ちゃん、その他登場人物に売上が分配されまーす★」
「「え、そうだったの!?」」
■
もちろん、千影が手当てとしていただいたお金には『今回の騒動を部外者に口外しない』『ネット炎上とか言語道断』という、口止め料も含まれている。
それを破って口外した場合、損害賠償請求もあるという話だった。
では何故千影と玲南は留萌に話したのか?
その秘密は、留萌の隣にいる少女が握っている。茶髪をポニーテールにして、八重歯を生やした少女が。
「ま、これでわかったでしょ。留萌の幼馴染もフォーサーだったわけで」
「「いや、どんなわけだよ!」」
見事なまでの異口同音。まさか幼馴染2人、お互い知らないうちに想伝蜃奇録の世界に関わって、実はあなた達は超能力者なんですよと知らされた挙句、実際フォースを使えるようになってしまったとは。
「で、どこまで本当なんだよ留萌」
「全部だよ」
「mjdk?」
思わず問い返す。ただ黙って頷く留萌を見て、だから二次元そのまんまな外見の玲南を見ても平然としていたのか……と千影は理解した。
「それにしても、都市ガスタンクに求愛されたり大変だったんだね留萌くん★」
玲南が同情したように言う。童顔で超がつくほど幼く見える留萌は、その名前と声変わりを前世に置いてきたような女声もあって、女の子と勘違いされる事が異常に多い。
「大変だったよ。見上げるような大きなタンクがずしんずしんって迫ってきて、本当に怖かったもん」
「最後は『男の娘でもいいから留萌きゅん結婚してー!』って絶叫しながら爆発四散したもんな」
何 そ の パ ワ ー ワ ー ド て ん こ 盛 り な 異 世 界 見 聞 録 は 。
口まで出かかった言葉を、千影は必死に呑み込んだ。
SAN値を0にされた千影を召喚する、禁断の呪文みたいな気がしたからだ……
今日も、千影は幼馴染の留萌と、異世界からアルバイトに来た玲南と榛名4人で富嶽第一想発で働いている。
ちょっとばかり変な騒動に巻き込まれながら。あるいは起こしながら。
ちかげくんと れいなちゃんの ものがたりは ここから はじまる>
読んで下さった皆様に感謝を申し上げます。




