第三十九話 Boy Meets Girl(その2)
■その39
「え、見覚えってどこで? まさか前世で?」
「流石にそこまではさかのぼらないなあ。神話級パラノーマルを神と崇める異世界のカルト宗教があってね。そこの御本尊によく似てる」
「え……そんなものを信じるなんて邪教そのまんまじゃないですか」
「そーだよ、邪教さ。宗教自体は権力者に弾圧されて遠い昔に消滅したが、今では寺院跡や御本尊が観光施設として開放されている。このマネキンはその売店で木刀と一緒に売られていた邪神像にそっくりだねぇ」
「邪神像なんて売り出すなよ!」
「もちろん姿かたちがそっくりな置物だよ。観光地だから、売店には他にも生贄達の生き血ジュースとか並んでてね」
「気味悪すぎるよ! もっと名前ひねろうぜ!」
「でも美味しかったよ。飲む時は『汝、私の命になるかッ!』『はっ、喜んで!』と店員さんとやり取りしてから飲むのがおやくそくだったね」
「本格的すぎるだろ! それ本当に生き血じゃないですよね!」
「いや、ただの美味しいトマトジュースさ。店の奥で店主が採れたてのトマトから絞り出すから、もう本当に美味しくてね。トマトをすり潰す音をBGMに飲むんだ。『やめてーっ! 許してええええ!』『せ、せめてこの子だけは助けてえええ!』って」
「それ本当にトマトですかっ!?」
「トマトだよ。トマトに決まってるさ」
トマトが命乞いしますか? おかしいと思いませんかアナタ! 嗚呼、こんなカオス過剰摂取はいけない! 千影のSAN値が急転直下してしまう! それまで黙って話を聞いてたアオジルにも『何たる外道!』と怒られたが、それは千影の犯行ではありませんから!
「そもそも、神話級パラノーマルってどんな存在なんです? その辺具体的な話聞いた覚えがないですけど」
「天地創造の神がかりな力を持ったパラノーマルを神話級パラノーマルって言うんだよ★ パラノーマルの階級では最上位だね。で、千影くんや玲南さんを呪ったのは、神話時代に滅んだとされる神話級パラノーマルだよ」
神話級の下に災厄級、伝説級……と続く。いちフォーサーで対処できるのは伝説級まで、とされている。この定義は想伝蜃奇録にも記載され、千影も知っている。千影が知りたがっているのは
「やっぱり、トンでもなチカラを持ってるのか?」
「神話級パラノーマルの名前は現代には伝わってないんだよ★ 何せ、その名前を口にした者を一族郎党……というか異世界ごと問答無用に皆殺しにする神様だから」
「祟り神じゃないかよ!!」
■
かつてこの世に存在した、あらゆる恵みに祝福された大地。
かの地に降り立った神は、二人の人間を作った。一人は特攻兵器・イケメンリア獣。そしてもう一人は引きこもり、コミュ・ショー。そして、そんなイケメンリア獣とコミュ・ショーがオッスオッスする毎日に大喜びする伝説の戦闘民族・フジョシもその地に降り立った。
しかし、その地はリア獣とコミュ・ショーが殺戮しあう地だった。
リア獣は銃を持った。一方コミュ・ショーは有名アイドルの解散総選挙投票券100枚でリア獣の頭を殴打した。一方フジョシはリア獣とコミュ・ショーの繁殖の神秘を探り始め、そしてついにリア獣とコミュ・ショーにだけ伝えられる伝説の聖なる儀式「YAOI」の秘密に辿り着いた。
神々はそんな★地上の様子を見て暇を潰していた。アリの行列を一日中眺めていたり、毎日石を積んでは崩れる様子を見て『ねえ、それ楽しいのか?』と地上の人々に問うた。
働きアリのような労働条件で働いていた地上の人々はブチギレた。
「「「楽しいわけねえだろ! 権力者の屋敷作るために石積みやらさせてるんじゃコラァ!!」」」
これに対し、神は逆ギレした。
『知らないから聞いたのに、その態度は何だコラア! 心からの謝罪と賠償を要求する! さもないと地上を焼き払うぞ!』
周囲の神々は怒り狂う神をみっともないと宥め、人々へ謝罪した。
一方、地上の人々も「我々の暮らしがよくなるようにしてください」とお願いし、その要求を神々が聞き入れて一件落着……となるはずだった。
しかし、人々に侮辱されたと憤る神の怒りは治まらず、地上を焼き払う事を主張して譲らなかった。
そこで、天界の神々は伝説の聖地『秋葉原』において、聖なる競技『帝弐蘇』で地上の人々と決着をつける事を提案した。
●皇帝はリア獣より強い。
●リア獣はコミュ・ショーよりも強い。
●そしてコミュ・ショーは空気を破壊する。
このルールに則って行われる伝説の競技『帝弐蘇』を制したのは、フジョシ属性により地球の重力に魂を奪われヨーロッパの大地に巨大な穴を穿ったテニスボールだった。
この劇的な決着を神々は称えた。一方、『帝弐蘇』で敗れた神の権威は失墜した。彼が敗北したニュースは遠い異世界にまで拡散され、世界中の人が敗北した神を「ショボい」と言うようになった。
異世界に敗北が知れわたった神は恥をかかされたと怒り狂ったが、天界における彼の地位が下がっていくのは最早止められなかった。神らしい威厳のないこれまでの振る舞いも含めて、彼は部屋の中に閉じ込められ永遠に外に出る事を許されない罰を与えられる。
こうして、後の世で神話級パラノーマルと呼ばれる邪神が誕生するに至った。
神の名前は伝わっていない。自分の名を口にした者達を一人残らず殺してしまう最凶の邪神として覚醒したからである。
『今、我を笑っただろ? 笑っただろ? 笑ったんだろぉぉぉ!!』
■
「神、しょぼっ!」
思わず千影の口から、そんな当たり前の言葉が漏れてしまっていた。というか、こんなしょーもない神様に祟られて、あんな怖い思いをしたのか……
玲南と木南も苦笑いしている。
「まあ、これはとんでもなく大昔の神話だからねえ。一つ言えるのは、外川はこの得体のしれないマネキンを使って変な術を実行した事だね。これからしばらく、彼が他にも変なものを遺してないか、捜索する毎日だな……」
木南の言葉に安心したら急にトイレに行きたくなってしまった。今日一日でお茶を何杯飲んだのか。数えてないけれど明らかに飲みすぎだ。
「あの、すいません。ちょっとトイレ行ってきていいですか?」
「いいよ、行っておいで」
神話級パラノーマルの脅威も既に去り、大きな危機はない。
小さな危険があっても、玲南や木南、零比都がいるから大丈夫……
油断があったわけではない。
どうして、こんなところにこんなものがあったのか? と聞かれても、「わからない」と答えるしかない。
トイレに行くために医務室から廊下に出た千影は。
バ ナ ナ の 皮 を 踏 ん づ け て 盛 大 に 転 ん だ 。




