第三十八話 Boy Meets Girl(その1)
■その38
「つまり、これまでの騒動は外川って奴の仕業だったんだね?」
夕焼けが西の空を真っ赤に染める、時刻は午後5時を過ぎていた。畳の敷かれた休憩所のテーブルに置かれたお菓子をつまみながら質問する榛名に、虎野は何とも言えない表情で頷き
「今までに発電所で起きたトラブルだけど、どうも誰かが何かシステムに細工してるんじゃないかって前々から言われていてね。昨日まで仕事で来ていたエンジニア達に防衛機構も造ってもらってたんだよ。そうしたら、玲南ちゃんや有東木君達の解呪作業中にプロテクトが作動して、それで犯人が外川達だったとわかったんだ。莫大な成功報酬を手にする事になって、あのエンジニア達も『これで布教用や観賞用円盤やフィギュアが買えるー!』って大喜びさ」
騒動を起こした外川達は反省房行きという名の元に、全員が懲戒解雇処分になった。
「いや、反省房に送ってそれで終わりなの?」
不満ありげに榛名が尋ねる。玲南と千影が危ない目にあったのに処罰が軽すぎると思ったようだ。
「退職金も没収されて今後の人生はお先真っ暗じゃない? それに反省房って、あの恐ろしい『漢流怒羅摩』だからね」
「ええっ! あの恐ろしい『漢流怒羅摩』! まさか実在したのかよっ!?」
「何、その『漢流怒羅摩』って。知っているの? 榛名ちゃん」
「零比都さんは知らないのかよ! あの伝説の『漢流怒羅摩』を!」
『漢流怒羅摩』。それは日本想電にこの人ありと言われた、ミスター日本想電こと渡具炉安芸津が考案した、最強の人員教育システムである。邪欲にまみれた指導該当者を、屈強な肉体を誇る超兄貴達が放つフォースパワー『漢魂』で燻蒸する。この苦行は邪心が完全漂白されるまで続けられ、その後自らの行いを悔いた彼らもまた『漢流怒羅摩』の一員となり、雨の日も風の日も構わない全国巡礼の旅に明け暮れる……
(渡具炉安芸津著『漢駄無』未冥書房刊より引用)
「それナイスーッ!!」
自分の説明で勝手に興奮する榛名に、零比都と虎野もドン引きした顔で
「……あの、榛名ちゃん? 今のどこに大喜びする要素があったの!?」
「尊さの宝石箱だよ!」
「その宝石箱に入ってるの、偽札にしか見えないけれど!」
■
「と、いうわけで。今頃彼らは渡具炉先生の反省房で真っ白にされているところだよ。人を呪わば穴二つって事だね……」
「アッハイ」
真っ白にされるって、まさかこれまでの記憶や人格まで全てフォーマットするんじゃないだろうな。恐ろしくて千影にはそれ以上木南に突っ込んで聞けなかった。
処罰は概ね納得できるものだった。外川達は退職金全額没収された上に世捨て人みたいな人生を送るのだから、もう二度と彼らに会う事もない。逆恨みで酷い事をされる心配も無用だ。
「ところで、千影くんのフォースって結局どんな能力なのかな?」
今まで千影の隣で黙って話を聞いていた玲南が口を開く。それは千影自身も気になっていた話だった。
「物質生成型のフォースじゃないかい? パラノーマルやフォーサーへの攻撃に特化した武器を生み出せる、みたいな?」
「でも、ハリセンやヤスリを作ったと思ったら千影くんの身代わりになったりもして、自由度が高すぎない?」
「そんなに意外なのか?」
「チュートリアル終わってない初心者フォーサーが、そんな自由自在に色々なもの作れないよ★」
「それって、グレイ食べさせる、あのチュートリアルかよ!」
ココロの才能であるフォースは、使い手によって千差万別にカタチが変わる。
五線譜のワイヤーに載せた音楽の力を具現化させる、玲南の『Climbing Wind』。
エネルギーを壁や地面などに伝導させる、榛名の『FripSide』。
対象にデバフを蓄積させていく、木南の『Trick yet Treat(お菓子はいいからイタズラさせろ)』。
幻を具現化させる外川のフォース『Dystopia』。
では、千影のフォースは一体何?
何ができる能力なのか、については木南の言う通りかもしれないけれど。
思えば、玲南は千影と出会った頃から彼がフォーサーだとか異例な能力を持ってるとか言っていた。
そんな自覚があったわけではない。何か秘訣があったわけではない。
『千影くんが成したいと思った事に、フォースは力を貸してくれる。千影くんはどうしたいのかな?』
この問いかけが全てだった。
裁判が始まる前に、玲南の姿で現れたフォースに問われた千影は、玲南の安否を知りたいと願った。
もう一回、玲南に会いたいと。
そして、千影のフォースは確かに願いをかなえてくれた。
「フォースはココロの才能……使い手の願いに力を貸してくれる」
自然に千影の口から呟きが漏れた。
それはまさにフォースの基本となる発想だった。
「ああ、だから……」
医務室の片隅に置かれたマネキンをちらちら見ながら玲南は納得、みたいな表情をする。後頭部をグシャグシャに破壊されたマネキンは崩壊が進み既に原形を留めていなかった。ハリセンの一撃で白目を剥いた顔は恐怖にひきつった表情に変わり、千影が見上げるほどの大きさに膨張した全身は外川に纏わりつく地獄の亡者みたいな顔や手足が浮かび上がる、まるで大きな岩に彫られた悪趣味なオブジェと化していた。
「いや、崩壊以前に表情変わってるし、何か変なのが縋り付いてる分だけ体積も圧倒的に増えてるだろ!!」
「ここにハリセン持った怖い子がいまーす★」
「人を通り魔みたいに言わないで!」
「えー? 実際千影くんのハリセンは破壊力抜群だったよ。筋肉押し売りを一発で撃破したでしょ。憎い父んちくしょーの顔目がけ、って感じで★」
『お父ちゃんに! 右の頬を打たれた者だけがっ! 父んちくしょーの左頬を張り倒せるッ!』
子供達の教育資金を稼ぐため働き続けた母親の病魔を知らず、葬式で号泣する父親を息子が
『お前が! 死ぬまでッ! 殺すのをっ! やめないッ!!』
という名セリフと共に病院送りにする不朽の名作漫画『ナイス病棟』。
長年家計にお金も入れず母の容態も知らなかった父親は家庭におけるDVまがいの振る舞いが知れわたって孤独になり、母を追いかけるように病に倒れた後、就職が決まった娘に家族を理由に縋りつくも
『家族? 中にはだぁれもいませんよ?』とあっけなく捨てられる。
(『ナイス病棟』未冥書房刊・暁コミックスから全5巻絶賛発売中!)
「あのムカつく刑事も一撃で倒せて目的は達せたでしょ?」
「まあ、確かにムカついたけどさ」
玲南をチラチラ見ながら千影は答える。
『もう一度、玲南とこんな風に話したかった』願いが叶った事を実感しながら……
「それはともかく、壊れかかったマネキンが邪教の御本尊めいた禍々しい姿になってたとか異常じゃないですか?」
「まあ、燃える燃えないじゃなくて萌えないゴミだから、あとで神社でお祓いしてもらおう。もう心配はいらないよ」
「いや、こんな神々しいもの持ち込んだら御神体がショック死しますよ! そうじゃなくって、これ一体何なんですか!」
変わり果てたマネキンを指出して質問する千影に、木南が意外な返答をする。
「はっきり断言できないけれど、見覚えがあるんだよねぇ……」




