第二十四話 仕置人と鬼嫁(その2)
■その24
千影と玲南を会議室から送り出した木南には、まだやるべき事が残っていた。
それは2人が虎野と一緒にプラント棟へ移動するまでの間、襲ってくるであろうパラノーマル達を片っ端から駆除する事だ。
これには、2人の元へ敵が行かないように引きつける囮役の意味も含まれる。
ちょっとやそっとのパラノーマルなら虎野と玲南が片付けてしまうだろうが、中にはそれだけでは話が済まないケースもあるのだ。
例えば。
今まで会議室に潜んでいて、プラント棟に向かう千影達を尾行しようとして木南に裏拳で殴り倒された職員みたいな……
「あぱっ……き、木南さん、何を……!」
裏拳が直撃した鼻を抑えて悶絶する職員を、木南は冷たい目で見下ろしながら
「何、じゃねえな黒河。お前、この会議室で何をしていたんだよ……『会議中につき立入禁止』の札が見えなかったのか? それとも……札を掛ける前からここにいたのか? ここで何をしていた? ただサボってた、わけじゃないよな……」
木南に職務怠慢を指摘された黒河。もちろんサボっていた事が問題の本質ではない。本来ここにいるはずのない想電職員の黒河 真は、今まで会議室に隠れて何をしていたのか?
「は、何をだって? おめーも随分ボンクラだな木南。もう話は全部バレてるんだぜ……」
殴られた直後は木南に『さん』をつけていた黒河が、突如として見下したような口調や態度になった。
「……は? バレてるって何が?」
トボける木南に、黒河はニヤニヤしながらケータイやボイスレコーダーを取り出して
「意味わかるよな? 日本想電がー、異世界がー、関之沢玲南がこっちの世界に……」
どうやら黒河は今までの会話を録音したり電話で外部に通話していたようだ。おそらく玲南の映像も撮影しているだろうし、他にもボイスレコーダーを隠し持っているのだろう。
想伝蜃奇録が異世界における実話をもとにした物語で、日本想電が異世界と交流している事は想力発電所の一般職員達には全く知らされていなかった。まず常識から考えれば脳みそを疑われる話だから当然であり、唯一の例外は千影みたいに騒動に巻き込まれてしまった者である。
しかし、これら隠蔽されているはずの秘密が何故か世間一般には広く知れ渡ってしまっている。SNSを中心に想力発電を廃止しろとしつこく主張する想力発電反対派の仕業である。尤も、この世のあらゆる不幸を想力発電に結びつける荒唐無稽な主張ゆえに、世間では完全に与太話扱いであるが。
そんなデマ拡散マシンとの密通を想像させる態度を取る黒河に、木南はまるで頭が気の毒な人を見るような顔で
「……異世界? お前何を言ってるんだ? 仕事のし過ぎで頭おかしくなったか?」
「は、頭が気の毒なのはお前ら日本想電だろ? まさかフォースも実在するとは思わなかったけどな。オレにフォースを使えるようにしたお前ら、どんだけマヌケだったんだよ、あははははは!」
「マヌケか。そうだねえ……そこら中に仕掛けた隠しカメラやボイスレコーダーの動作確認をしていなかった奴を言うんじゃないのか?」
「……は」
大笑いしていた黒河の前に、見覚えのある物体が並べられた。会議室にあったペンや本、箱に巧妙に偽装された隠しカメラやマイク。更にネクタイピンを追加した木南は、『『圏外のため通話できません。電波の良いところでかけ直して下さい。いやむしろお前は人生やり直した方が良いよ?』』と表示されたケータイ2つを突きつけた。
「当然、電話を掛ける前に電波も確認しとくべきだったな」
顔面蒼白状態といった黒河。隠しカメラやマイク、通信機器類が木南に全部暴かれてしまったのだ。
それだけでない。木南にちらつかせていたケータイと、隠し持っていたケータイ、そしてボイスレコーダーにネクタイピンに偽装した隠しカメラが、いつの間にか木南の手の中にあったのだ。
いつ奪われたのか気づけなかった黒河は、木南からケータイを奪い返すべく殴りかかる。
「返せ! いつ取ったんだ、てめえ!」
行動を読まれていた木南にすいすいと避けられ、黒河の行く手を阻むように現れた般若の暗く輝く瞳が周囲に広がり漆黒の闇を産む。周囲の凹凸や影もわからない暗黒の世界に取り込まれた黒河の身体は、まるで酸を浴びせられたみたいに闇に侵食され始めた。
「あぶろがばあああっ! 身体がアアア!」
黒河は目をやられないよう顔面を抑えて闇から逃れようとしたが、足を引っ掛けられて転倒し沼地を思わせる闇の中に顔面から突っ込んだ。途端に目や鼻、喉が被毒しのたうち回る。
「こ……の、クソ野郎が……」
闇に侵される激痛に苛まれながら、黒河は全身全霊の攻撃を準備する。
黒河のフォースは『念力』。念じる事で周囲にある物体の運動をコントロールできる。
電気のスイッチを入れたり、鉄パイプを曲げたり、人間の首をへし折ったり。
「……自己紹介乙」
力をためている黒河に奇襲攻撃をするわけでもなく、哀れみに満ちた目でそう呟いた死刑執行人めがけ
「死ねぇッ!!」
轟音とともに発射された最大出力の念は。
木南の般若に攻撃目標指定を狂わされ、術者である黒河の全身をグシャグシャにへし折るだけに終わった。
「……ぇ?」
両足を粉砕された黒河は体勢を維持できなくなり暗黒の中に崩れ落ちる。動かなくなった黒河の両手両足は既に闇に取り込まれグズグズと消化され始めていた。最早、黒河にはなすすべもない。
「な、なんd……」
「何でって、いつまでも質問に答えないからだろ……質問に対し質問で答えるのは、親から教育されたのか?」
「ひぃぃぃ、たぁ、助けて、助けてー!」
逃げるどころか防御もできなくなった黒河に、木南と般若は執拗に攻撃を加えていく。
「いい加減意地悪しないで教えてくれないかな……? お前は会議室で何をしてたんだ?」
「許して、お願いだから許して! あばああああ」
「……情報を売るつもりだったのか? ケータイに入っていた若月のクソ野郎に、とか?」
ぎくりとした黒河に、般若は正直へのご褒美とばかりに口から猛毒めいた暗黒を吐きかける。
「し、仕事をサボっただけでこの仕打ち! 人権蹂躙だ! 労働者の人権を、労イ動者ゐ人権を何だと思ってゑんだ! 労働基準監督署に訴之てやゑ! マスコ三にもバラして也るからなあ!』
「人権? お前は何を言ってるんだ」
木南はゾッとするような冷たい目で、致命傷を負った黒河を見下ろし、言った。
「とっくに人間辞めちまってるお前が人権を主張するとか、どんな笑い話だ?」
『え?』
死にゆく黒河が最期に目にしたものは、自身の身体から立ち上る黒い煙だ。不吉さを孕んだその煙を黒河は知っている。パラノーマルが滅び去る時に発生する虚数の群れであるが、黒河にはただの黒い煙にしか見えなかった。
それが何を意味するのか理解する時間はあっただろうか。パラノーマルに成り果てた者には、自身が滅ぶ時に現れる虚数は見えないのだ。
こうして黒河は完全にこの世から消滅した。
To Be Continued>
鬼嫁出てこなかった(汗)
以下次回!




