第二十三話 江戸時代から生きるアイドル伝説(後編)
■その23
「誰でも最初は初めてなのよ」
これは小国の国家予算に匹敵する金額を巻き上げ、被害者による非モテ人民裁判の結果参加者全員から死刑を言い渡され、即日執行された伝説の結婚詐欺師・ショウ=シン=ヤーデウス(1963-2017)の言葉とされる。
彼が犯した最大の詐欺は性別(女装して非モテ男性を手玉に取った)で、生涯二番目の詐欺は30年以上にわたる宗教詐欺(23歳教信者)だった事と伝えられている。(未冥犯罪録(未冥書房刊)より要約)
プラント棟B棟中央制御室に入った千影は、そんな伝説的詐欺よりもっと酷い詐欺を目撃した。
それは8歳の時に関ヶ原の戦いに出向く石田三成に頭を撫でられたとか、8歳の時に吉良上野介を討ち取って凱旋する赤穂浪士達を拍手で出迎えたとか、8歳の時に浦賀にやって来た黒船に落書きしてペリーから文句を言われたとか、今一番流行の挨拶は『ぎゔみーちょこれーとぷりーず』だという、400年以上8歳を自称し続ける事ではない。この老婆はそんな不思議時空を生きている可能性がわずかに、いやかなり、実際はほぼ確実だからだ。
もちろん、想力炉の操作コンソールや監視ディスプレイと別に置かれた普通のテレビに、いつギックリ腰で倒れてもおかしくない江戸時代からのアイドル(を自称する乙骨先生)のPR映像が映し出された事も、その老婆が実体をもってテレビから飛び出してきた事も詐欺だと思ったが、そもそも。
こ の 老 婆 は 存 在 自 体 が 詐 欺 み た い な も の だ っ た 。
玲南や榛名、零比都がテレビ画面から飛び出してくるのはわかる。すごくよくわかる。実際に彼女達がいると、周囲の景色がまるでゲーム画面みたいになるからだ。
だがしかし、この乙骨先生が玲南達と同じ世界からやって来たと言われて信じる人はいないだろう。恋愛ゲーム世界の住人どころか、老婆ミイラVRみたいな、この人が。
「まあ、確かに。有東木君だったか? ワタシも玲南や榛名と同じで想伝蜃奇録のアニメそっくりだから、信じられないのは仕方がない。だが、このワタシはどこにでもいる普通の小学3年生だよ」
乙骨先生は何故かエッヘンと胸を張ってこう言った。一体何百年間児童保護条例のお世話になっているのか見当もつかないが、アニメの乙骨先生と全く同じ、超大御所男性声優そっくりな声だった。
どこからツッコんだらいいのか千影にもさっぱりわからない。とりあえず、テレビから飛び出してきた時にミイラみたいな香りがした事にツッコんでおこうかと一瞬考えた。しかし、今の千影に重要なのは、この老婆が神話級パラノーマルの呪いを解けるかどうかである。
そんな懸念を抱く千影を、乙骨先生はまじまじと見つめ
「……ふむ、本当に呪われちゃってるね、この子」
一体どこを見てそう判断したのかわからないが、やはり千影が呪われていると宣告してきた。
「先生、有東木君は助かりますか?」
「彼もフォーサーなんだから、話は簡単だよ。修行してないからちょっと大変だが、呪いを解く方法はある。早速解呪に取り掛かるとしよう」
展示ホールでこちらを見ていた変な気配が気になっていた千影にとっては、作中と同じ乙骨先生の頼もしさが本当にありがたかった。
「え? あれ」
「どうしたんだね玲南」
「いや、今……廊下を誰か通りませんでした? 想力炉の操作画面に、影が映ったような……」
こんな時に不気味な事言わないでほしい! 千影も乙骨先生も虎野も、制御室のガラス張りから廊下を確認する。乙骨先生は片隅で待機していた警備らしい男にも確認する。
「外川、今廊下を通った者はいたかい?」
「いえ、全く」
ただの見間違いかと思った千影は、フーと一息ついて操作コンソールの方を振り返った。
絶句した。
正面にある操作コンソールに、何とも不吉な装いをした影が見える。
千影と玲南の背後にいる、今にも襲いかかってきそうな巨大なドクロが、ただ一言。
ミ・タ・ナ?
ジリリリリリリリリリリリリリリリリンッ!!!!
ドクロの呟きを聞いたのと同時に警報がけたたましく鳴り響き、操作コンソールに異常を伝えるメッセージが次々に表示されていく。その警報のどれもが、見ただけでヤバそうなメッセージばかりだった。
『4号炉投入ホッパゲート油圧装置故障』
『4号炉想力抽出ポンプ一括故障』
『4号炉想力液貯留槽残量枯渇』
『4号炉消念装置一括故障』
『4号炉消念装置内部出力異常高』
『4号炉廃棄物搬出バンカ油圧装置故障』
『4号炉消念装置制御盤故障』
『4号炉動力主幹盤重故障』
『4号炉想力発電機制御不能』
『4号炉想力発電機系統脱落』
『4号炉ボイラー蒸気圧力異常』
『4号炉ボイラー蒸気圧力計故障』
『4号炉復水器温度異常』などなど……
『職員は直ちに現場の確認をお願いします。繰り返します、職員は直ちに現場の確認を……』
現在運転を停止しているはずの4号炉に、信じられないようなタイミングで重大トラブルが起きた。増大していく千影の不安を察したのか
「呪いが襲ってきたようだよ。だが大丈夫、ここの制御室には神話級パラノーマルは手出しできないからね」
「でも、すごい警報が鳴って、他の人達びっくりしませんか?」
「職員達には警報その他緊急点検と話をつけてある。ここにいれば大丈夫。手出しできないから脅しをかけてきたのさ」
To Be Continued>
一番の詐欺はタイトルだと思いました。
なお、後半は10年くらい前の実体験です。グレムリンエフェクトってあるんですね。




