★第十八話 ピンクの黒電話
■その18
ハリセンが直撃したヘンタイ電話機の左側頭部から火花とともに黒い煙が上がった。
『何しやがる、貴様!』
「やかましいわ変質者!」
『それが歳上に対する口の利き方k』
玲南と木南もヘンタイ電話を退治しようとしていたようだが、電話機の頭頂部にハリセンが炸裂する方が早い。膝から崩れ落ち、頭を抑えて悶絶する電話機はテレビの砂嵐のように描線がブレはじめ、焦げた臭いと煙を撒き散らしながら消滅した。
消滅するヘンタイ電話を前にして、千影はあの着ぐるみがパラノーマルだった事を理解した。
「これで、千影くんがフォーサーだって言うのはわかったよね?」
思わず顔を上げるような、玲南の声だった。何か言いたげに顎を動かす玲南に、千影は自分の手を見る。
いつの間にか手にしていた大きなハリセンの存在に愕然とする。今朝方自宅で出会った小さなウマシカをハリセンで退治した時も、玲南と一緒に管理棟内を回っていた時も、パラノーマルの存在に気づいたと同時に手の中に現れ、気がついた時には影も形もなくなっていたのだ。
このハリセンは一体どこから出てどこに消えているのか?
疑問を抱く千影の目前で、白色のハリセンが透け始めていた。
「え? えっ」
みるみる透けていくハリセン。ハリセンの描線と一緒に存在感まで薄くなっていくようだ。千影が驚いてハリセンを手の中で揺すってみる。するとハリセンの描線がすぐに太くなり、ハッキリとした白色と存在感が蘇った。ホッとするのも束の間、気を抜くとすぐにハリセンが消えていく。維持するのに精一杯だ。
「千影くんは普段からハリセン持ち歩いてるわけじゃないよね★ 千影くんはパラノーマルに出会うとハリセンを出して攻撃する。そして必要なくなればすぐに消える。実際、千影くんが気を抜いたらすぐにハリセンが消えそうになったでしょ。千影くんのすごい集中力が産み出した賜物だよ。ハリセン出した前後の事、覚えてないでしょ」
「そ……それは」
玲南の言う通り、彼女が電話の着ぐるみを着た変質者に襲われると思った時には既に身体が動いていた。筋肉押し売りに苦戦する玲南を見た時と同じで、まるでハリセンがあるのが当たり前のように行動していた。ハリセンがあるのが当たり前ってどんな感覚なのか説明はつかないけれど。
自分を食べようとした怪物がウマシカだと気づいた時も、結局ウマシカってただのとんでもない化け物だったじゃないかとムカついてハリセンで引っ叩いたらウマシカの身体が崩れだした。
『とぅるるるん、とぅるるるr』
また会議室の片隅で鳴りだした着ぐるみ電話を条件反射で引っ叩くようなもの、だろうか。
「フォースはココロの才能。フォースを使えない人が、筋肉押し売りはともかくウマシカもどきを一撃必殺できるわけないよ。そのハリセンには、千影くんのフォースが宿っている。今の段階ではどんな能力なのかまでは玲南さんも木南さんもわからないけれど」
千影は困惑したまま言う。
「いや、でも……パラノーマルとかフォーサーって、想伝蜃奇録に登場する、架空の存在でしょ」
「想伝蜃奇録は実話だぞ」
「はいいい?」
木南の回答に、千影は本当にひっくり返りそうになった。
「想伝蜃奇録は想力技術を採用した異世界で起きた実話をもとに、想力発電所の建設・運営・維持管理を行う日本想電のスタッフがまとめた話なんだよ……上層部に昔漫画家や作家を目指していた人達がいて、玲南ちゃん達の体験談が面白いから漫画や小説として出版する許可を貰ったのさ……」
木南はそう言って会議室倉庫から分厚いファイルを持ってきた。
本当に分厚い。人を殴殺できそうなファイルの背表紙に見覚えのある文字が並んでいた。
【日本想電監修・想伝蜃奇録事件簿(部外者閲覧厳禁)】
「すると、原作者の稗田阿楽さんって……まさか日本想電の人?」
メディアミックスや商品展開が大成功し一大コンテンツとなった想伝蜃奇録だが、その作者とされる稗田阿楽はメディアに出る事もなく、その素性もほとんど明かされていない謎の人物だった。
「……あー、それ……実はオレなんだ」
「はい?」
何を言ってるのか本当にわからなくなり、思わず聞き返す千影。
木南はすごく言いにくそうな表情で
「昔、趣味で小説サイトで書いてた時期があってね。想伝蜃奇録の世界に行った時の事をまとめて挿絵をつけて小説本にしたら、向こうの関係者達が面白い、楽しい! って大喜びしてくれて、今は執筆に関わってる日本想電の人達で、稗田阿楽の名前を共有する事になったんだ……」
「そうそう。挿絵も綺麗だったけど、とにかくお話が面白くって★ 事件にならないような些細な出来事まで、あんなに楽しい話になるなんて玲南さんも初めての経験だったのだー★ 肖像権料っていうの? それまでいただけるのも初めての経験です★」
二次元上にいる少女が、すごく現実的な話をした! 小説や漫画、アニメにゲームだけでなく色々なグッズによるキャラクター使用料(玲南達には肖像権だが)、いったいいくら貰っているんだろう。
「……まあ、そういうわけで。登場人物が魅力的に、話が面白くなるように若干の脚色はされているけど、限りなく実話に近い。あと、多分わかってると思うけど、今ここにいる玲南ちゃんは想伝蜃奇録に登場する関之沢玲南のモデルそのものだから」
「玲南さんですよー★」
満面の笑みを浮かべる玲南さんに念押しされるまでもなく、そうなんだろうなとは薄々悟っていた。
それでも、やはり納得できない点は多々ある。いつの間にか実在する前提になっていた異世界とか超能力者とか。
「では、異世界の存在とか、玲南さんが異世界の住民だっていうのは?」
「それは昨日千影くんに話したでしょ? 異世界にまつわる神話」
「え?」
一瞬何の事か、千影は本気でわからなかった。
「リア獣とコミュ・ショーとフジョシによる、大昔にあった争いの話だよ★」
「……いやいや、だってアレは想力発電に関する話でしょ……」
千影の言葉がそこで途切れた。想力発電技術を採用した異世界の、冒涜的で不条理極まりない神話。
その神話を、何故玲南が知っていた?
To Be Continued>




