第十七話 くぁwせdrftgyふじこlp!
■その17
「あれ? どうしたの千影くん」
「いや……そこら中に不気味な般若のお面が見えるんだけど、気のせいかな」
「それは木南さんのフォースだよ……あれ、どうかしたのかな?」
どうやら千影は思いっきり変な顔をしていたようだが、同じ職場に架空上の超能力を使える人がいると言われれば当然の反応だろう。フォースは想伝蜃奇録の物語に登場する超能力であって、現実にあるはずがない。作中の登場人物そっくりな娘が目前に居たり、パラノーマルみたいな怪物が見えたりするし、挙げ句富嶽第一想発が横スクロールアクションゲームの世界みたいになったりもしたけれど、それでも現実と物語は違う……はず。
目を回した巨大亀が台車に乗せられて会議室から運び出された後、千影と玲南と木南の3人は喉が渇いたのでジュースを飲む事になったが、千影は相変わらず難しい顔をしたままだった。
「……で、千影くんは何でそんな難しそうな顔してるのかな?」
「今、目の前にいる人からジュース貰った事」
「え? 千影くんはジュースよりお茶の方が良かった?」
「いや、別にそういう好みの話じゃなくって……」
もちろん巨大亀が虎野の持ってきた小さな台車で簡単に運び出された事を気にしてるわけでもない。簡単に見えても目の錯覚だ。
木南が買ってきたペットボトルのジュースを口にする千影の前で、玲南もお茶を一口。
「こっちの世界はお茶が美味しいと評判だったけど、ペットボトルでこんな美味しいお茶があるなんて、玲南さんもびっくり★」
こんなに緑色なのに、二次元の少女はお茶を美味しいと言う!
千影や留萌の耳にイヤホンをセットし、ホワイトボードに字を書き、喉が渇いたからお茶を飲む。幻が質量ではなく実体を持ってないとできない。すごいVR……
な、わけはない。二次元の存在である玲南が富嶽第一想発に実体を伴って存在している! テレビやゲーム上と全く同じ、ごく自然な装いでここにいる。マンガやアニメにあまり興味ない人達も、玲南に不自然さを感じるどころか見とれてしまうと思えるくらいに。
「で、パラノーマル駆除はもう終わったのかい?」
「はい、千影くんも手伝ってくれたおかげで凄く捗ったよ★ だけど、千影くんが自分はフォーサーじゃないって言い張ってて」
「当たり前だー!!」
木南と玲南のやり取りに千影が絶叫する。ある日突然、アナタは想伝蜃奇録に出てくるフォーサーだと言われて信じる人がいるだろうか(反語)。
とにかく、聞き出さないといけない情報が多すぎて追いつかない。この際、自称異世界在住の玲南がどうしてここにいるのか、異世界は実在するのか、といった疑問は後回しにする事にした。昨日から更に酷くなった怪奇現象のせいで、SAN値が既に0どころかマイナスになってプラス転換する気配さえない今の千影に情報を正しく理解できるかどうかも怪しいけれど。
「もしかして、千影くんはまた夢だと思ってるの?」
「……普通夢だと思うだろ」
「ふーん、夢じゃないって証明してあげよっか★」
「うわ何をするくぁwせdrftgyふじこlp」
その、真鍮ブラシみたいな怪しい器具は何に使う気だ。
「さっきグレイくんを摂取してレベルが上ったのに? まだ自分がフォーサーだって自覚がないのかな?」
「そもそも経験値とかレベルアップって何なんだよ!」
「それは千影くんの、フォーサーとしてのレベルだよ★」
「知るかあーっ!!」
それまで2人のやり取りを黙って見ていた木南は、わかる、と言いたげな表情で
「有東木くんが困惑するのもわかる。でも残念だが、キミは既にフォースに目覚めているんだ」
「そ の 件 、 も う ち ょ っ と 詳 し く 説 明 し ろ」
暗黒卿になった覚えが微塵もない千影がつい命令口調で言ってしまった。
「実はフォースは想力エンジニアには必須の能力で、きっかけがあれば誰でも使えるようになるものなんだ」
「いや、オレはフォーサーじゃないし」
間髪入れずに千影が返す。フォースが使えるようになるきっかけと言われても、まるで心当たりがない。
ちょうどその時。
『とぅるるるん、とぅるるるるん』
「んぎゃー! 有東木くん、悪いけどオレはここにいないって言ってくれないか!」
鳴り出した内線電話に、木南は机の下に潜り込んで頭を抑えてガタガタ震えている。
バイト学生にそんな虚偽報告させるのか。千影は呆れ顔で
「木南さん? 怪我人が出たのかもしれませんよ。まさか、手当ほっといて逃げてるわけじゃないですよね?」
「んなわけない。もしも急患なら私のケータイに鬼電が入る……でもレポートが、昨日の件での報告を上げろって催促がひどいんだ。あんな訳わからないレポートを出したら、またやり直しだぁ。また1日48時間は仕事しないといけないぃぃ」
ダメだこの人、と思いながら電話に向かう千影だが、途中で呼び出し音が別の方向から鳴っている事に気づく。会議室には内線電話は1つしかないし、館内放送のスピーカーとも違う場所だ。
音の発生源は会議室の片隅にあった。図鑑やネット検索でしか見たことがないような古めかしいデザインの電話だ。数字の書かれたダイヤルがついている、黒くて大きな電話機だ。昔の電話機はこんなに大きかったのかと驚くくらいの大きさだ。
千影と玲南には、それが着ぐるみに見えた。
呼び出し音みたいな音を口で言っている、電話機の着ぐるみを着た変なおじさん。
『とぅるるるるん……ねぇ、呼び出ししてるんだから受話器取ってよ。居留守されても困るんだけど』
電話機になりきっている変なおじさんに悲しそうな顔で懇願され、千影はやっとの思いで聞き返す。
「ええと、あの……あなたはなんですか?」
『電話機に決まってるんだろが! 全く、最近の若い奴らはダイヤル電話機も知らないのか! これだからゆとりは……』
あ、これは関わってはダメな奴だ。
理不尽な説教にイラッとした千影と玲南が回れ右をすると
『空気読めよ! いいからさっさと電話を取る! 若い奴らは本当に気が利かないな!』
今時の若者を嘆く前に、まず自分の身なりを考えろよ。
喉まで出かかったツッコミを必死に堪える2人に、着ぐるみ電話は受話器を押しつけてきた。仕方なく千影が電話に出ようとすると
『お前じゃないよ、玲南ちゃんだよ! 玲南ちゃんに代われ!』
だったら最初から玲南に受話器渡せよ。
この着ぐるみ電話とコミュニケーション取るのも嫌になっていた千影は、逆らってもしょうがないと玲南に受話器を差し出す。
「……はいもしもし、何か御用でしょうか?」
『はぁはぁ……玲南ちゃん、今どんなぱんつ履いてるの?』
「てめえヘンタイかーッ!!」
『あぼがっ!?』
受話器を通してではなく、耳元で玲南に直接囁いていたヘンタイ電話を千影がハリセンで張り倒した。
To Be continued>
ようやく世界の核心に
次の話はできるだけ早くあげられるようにがんばります。




