第十六話 遊戯脳
■その16
結成当時メンバーの人数が10人だったアイドルユニットが、新規メンバーをどうやって獲得するか神Pに助言を求めた。
降臨された神Pは、新規メンバーを無限増殖で増やしたらどうだと神託を与えた。
その結果、メンバーの人数は127人にまで増えた。
そして128人目を獲得したその時、メンバーの人数がオーバーフローして、たった独りを除いて全員卒業となってしまった。
それを見た神Pは8ビットじゃなくて16ビットだったらと悔やみ、どうせならと128ビット表示にしてみた。
その結果、全人口の9割がそのアイドルグループの一員になってしまい、世界は滅亡した……
■
「どう、わかったでしょ? 無限増殖の危険性」
「そりゃ単に増やしすぎなだけだろ!」
「だから、異世界のネットワークにおいて無限に残機増やすのは禁止されたんだよ」
禁止されるのも当然だ。こんな事で世界が滅ぶとか効果が危険すぎる。
「そもそもゲームみたく残機を増やすって概念がおかしいんだよ!」
「えー? ゲームに例えて説明した方が千影くんもわかりやすいかなって思ったんだけど★」
「むしろわけわかりみが増しただけだわ! 富嶽第一想発は横スクロールアクションゲームみたいな世界じゃねえだろ!」
「え……?」
「えっ」
「……もしかして、気づいてないの?」
「え?」
どういう意味? 千影は思わず玲南を見る。
壁□□□□□□□□□□□□壁
壁白板□□□□□□□窓窓□壁
壁白板□□□□□□□窓窓□壁
扉千玲□□机机机机□□□□壁
扉影南□□□□□□亀□□□壁
床床床床床床床床床床床床床床
――しばらくお待ち下さい――
何か恐ろしいものを見てしまった気がした。千影の視界に映る景色が、往年の横スクロールアクションゲームみたいなドット絵になっている。
その、ドット絵で表現された会議室に千影と玲南もいる。
わけがわからない。どうして、会議室にいる玲南と千影を、テレビの画面を通して見ているように千影が見ているのか?
千影が周囲を見回す。普段通りの会議室の景色がそこにある。目前に二次元そのままな容姿の玲南がいる事を除けば。
なのに、あのドット絵の世界が千影の脳裏から離れない。会議室のあちこちを見ていた千影が右腕を突き上げると、ドット絵の会議室にいる千影も、同じ様に右腕を突き上げるのが見えた。
一流のボクサーは、対戦相手と闘う自分の映像を俯瞰して見る事ができるという。
今、千影が見ているものもそれなのか?
おや? ドット絵の会議室に何か見慣れないものがいる……
そして千影と玲南の視界に落とされた巨大な影。影の主は玲南の背後に現れた、とても大きな亀だった。いつの間に会議室に入り込んだのか? 緑色の甲羅のてっぺんを千影と玲南が見上げる程の大きさの亀が、地響きをあげながら近づいてくる。ドット絵でも亀が近づいてくる様子が映し出されている。流石に、亀の美味しそうなごちそうを見たような目や、よだれを垂らしながら大きな口を開けてこちらに迫っているところまでは、ドット絵では再現できていないけれど……
これぶつかるんじゃね?
咄嗟に千影と玲南が真横に大きく跳ぶ。直後、2人が立っていた場所を巨大亀がくるくるスピンしながら通過していき、会議室の扉に強烈な体当たりをお見舞いした。回転の止まらない巨大亀は、まるで八つ当たりしてるように扉に体当たりを繰り返す。
「な、何なんだアイツは! 危ないじゃないか!」
「千影くん、あの子は千影くんを美味しそうなおやつだと思ってるよ!」
「それを早く言えーッ!」
千影の意識が玲南に向いていた、僅かな時間に。
回転を止めた巨大亀が、ずしーん、ずしーんという音と共に、再び2人の前に立ちはだかる。
「うーん、あんな大きな亀さん、玲南さんも見るの初めて★ この世界には大きな亀さんがいるんだね」
「いやいや、こんな亀はいないから! どこか異世界から来たんじゃないのかよ!」
亀の重量で会議室の床が抜けそうなほどの大きさだった。
「えー? 玲南さんも知らないよ。こんな大きな亀さん。この近くに住んでるんじゃないの?」
「会議室に亀がいるはずないし、アンタさっき見知らぬ亀の気持ちを代弁してただろ!」
「えー? 玲南さんは音使いだから動物の言葉まではわからないよ★ 表情や視線、口の動きを読んだだけで……」
「もっともらしい事言うなーッ!」
そもそも、千影が知っている亀という動物は頭を甲羅に引っ込めて回転なんてできないし、空も飛ばない。千影達に体当りしない! 勢い余って資料が入っている窓際の棚をひしゃげさせたりしない!
「夢だ夢! これは全部夢だー!!」
「千影くん、現実しっかり受け止める、おっけい?」
頭を抱えて錯乱したような叫びを上げる千影に、玲南はやれやれと言いたげな仕草をする。
ちょうどそんな時だった。
会議室のドアが開いたのは。
「何だ何だ? 随分騒がしいけど……」
姿を現したのは、診察相手に逆に病魔を伝染しそうと評判の、疫病神みたいな雰囲気を持った勤務医だ。
「んー? 有東木くんか」
事情を飲み込めていない様子の木南を、ぽかんとした顔で見る千影と玲南の横を通過して、口から滝のようにヨダレを垂れ流した巨大亀が木南に襲いかかる。今度は木南を美味しそうな御馳走だと思ったらしい。
木南の目前に、巨大亀の巨大な口が迫る。間に合わない!
食べられてしまうか、体当りされて吹っ飛ばされて壁に叩きつけられるか、そのどちらかしかありえなかった。
ばぁん!
人間が巨大質量と正面衝突する、嫌な音がした。衝突の激しさを物語るように、床にひっくり返った巨大亀は目をグルグルうずまき状態にして口から泡を吹いている。その先で、何事もなかったような顔をして立っている男がいる。
「ふぅー……何なんだいきなり……」
おかしい。あんな大きな亀と正面からぶつかったのに、木南はまるで無傷状態で、逆に亀の方が大ダメージを受けているのはどういう事だ?
木南を凝視する千影。
違和感にはすぐに気がついた。
木南の周囲に浮かび上がる、おどろおどろしい雰囲気を持った般若達は何だ?
To Be Continued>
本来の予定分まで加筆しました。




