★第十五話 家族と会話しているだろうか?
■その15
「ところでアナタは……千影くんのお友達?」
「幼馴染。千影と一緒にここでバイトしてるんです」
「ふーん、そうなんだね★ 千影くんと仲いいのかな」
「まあ幼馴染だからね」
「ふーん」
何か言いたげな表情で玲南が千影を見る。
「ところで業者さんって、想伝蜃奇録に出てくる関之沢玲南そっくり……」
「やだなあ、玲南さんそっくりじゃなくって、玲南さん本人ですよ★」
「あ、そうなんだ。本人だったんだ」
「いや留萌、そこ疑問に思えよ!」
思わずツッコミを入れる千影。二次元が三次元を歩いてる今の状況、留萌は何とも思わないのか。
「え、本人だって言ってるしそうなんでしょ? 声も見た目もそっくりで、すごくカワイイし」
「そうそう、玲南さんは本物の玲南さんですよ?」
「お前、歳取ったら絶対拙者拙者詐欺に引っかかるぞ」
自分か? おかしいのは自分の方なのか? 千影は自分の正気を少しだけ疑い始めていた。
午前中の片付け時から汚染区域を小さな虫達が飛び回っていた。そのうち離れたところにいる千影の周りにも虫達が来たので虎野に報告したところ、すぐに害虫の駆除業者が手配されて一安心したのも束の間、やって来たのが二次元そのままの姿をした千影の推しキャラだったのだ。
もしかして、富嶽第一想発は知らないうちに二次元から侵略されていたのか? アニメやゲームの登場人物が三次元にいる……というより、職場がアニメやゲームの世界になってしまった、みたいな感覚だ。そのうちゲームみたいに画面にパラメータが表示されたりしないだろうか。家族と話してるだろうか?
玲南に管理棟を案内するように虎野に指示された際に事情を問いただしたが、時間がないから後にしてほしいと言われてしまい、仕方なく玲南を案内する。物置や使われていない部屋に潜むハエみたいなパラノーマル達を2人で一緒に駆除する間も、千影の頭から懸念が離れない。自分は最早取り返しがつかない運命を歩み始めていないか?
管理棟に潜むパラノーマル達の駆除をあらかた終わらせた2人は、最後に二階会議室に立ち寄った。
会議室正面のホワイトボードを見て、千影は絶句した。
『第1回目のログイン!』
1日目【(〇〇)】
「ログインボーナスへようこそ★ 毎日ログインしてくれたら、千影くんに色々な御褒美をあげちゃうよっ★」
ぽかんとしている千影の前で、玲南はホワイトボードに描かれた【(〇〇)】という謎のマークに手を伸ばす。
「そういうわけで、第一回目のログインボーナスはこれっ! 千影くんのレベルを上げる【経験値+50】だよ★」
玲南の手で謎のマークが実体化する。全身灰色で、大きな頭に黒くて大きな目が2つ。手に乗るほどの大きさをした、やたら手足が長い人型はどう見てもグレイ型宇宙人だ。
「どうしたの? 千影くん」
「あの、そもそも……ログインボーナスって、何?」
「え、千影くんはログインボーナス知らないの!?」
「いや、知ってるけど」
聞きたかったのは何故ログインボーナスもらえるのか、なのだが、玲南には伝わっていなかったようだ。
「知ってるなら何で聞いたのかな? ログインボーナスはログインボーナスだよ。はい、それじゃこれプレゼント★」
そんな手のひらグレイを貰ったとしても扱いに困るんだが……
「あの、これってグレイ型うちゅーじんだよな?」
「うちゅーじんじゃないよ、経験値だよ★」
「え?」
思わず聞き返す。
「千影くんをレベルアップさせる経験値だから、早く使って損はないよ★ ちゃっちゃと使っちゃいましょう★」
ぐいぐいとグレイを千影に薦めてくる玲南だが、そもそも経験値を使うってどうやって?
「あ、あの……使うって、どうやって?」
「え、使い方知らないの!?」
呆れ混じりに言われても、知らないものは知らない。
「じゃあ仕方がありません。グレイくん、キミは千影くんの経験値となるんだよ★」
グレイは胸の前で両手を組み、そっと瞳を閉じた。人身御供になる気満々な様子だが……それでいいのか?
「っておい! やっぱグレイじゃないk……あば、あばばばばーっ!?」
そしてグレイは千影の血肉となった。
たらららったったったったー♪
聞き覚えのあるファンファーレが鳴り響く。どこで鳴ってるんだろうか。
「おめでとう! 千影くんはレベルが上ったよ★」
『千影はレベルが41→42になった!
フォース熟練レベルが4→5になった!
フォース防御レベルが1→2になった!
HPが10増えた!
MPが7増えた!
SAN値が20下がった!』
「やかましいわっ!!」
レベルアップとSAN値低下は多分関係ない! そんな千影の反応に、玲南は驚いた顔で
「うーん、レベルアップを告げる声にもツッコむ人なんて、玲南さん見るの初めてだよ。普通はみんな嬉しいはずだけど」
「レベルアップを告げる声ってなんなんだよ!」
「うーん……天の声?」
ツッコミどころが多すぎてツッコミが追いつかない!
「ちなみに明日はこれ★ MPが全回復するけど服用24時間後真っ白に萌え尽きる! タノシイ★ドリンク!」
「ドリンクなんだから、せめて液体だそうよ……」
見せられた禁忌なドリンク(玲南曰く)に千影が滂沱する。
「ちなみに7日間ログインしてくれたら1UPできるよ★」
「1UPってどういう理屈だよ!」
「残機が1つ増えるよ★」
「だから残機って何だーッ!」
「一回ミスしても、その場で復活できるんだよ★」
「ミスってどんなミスだよ!」
本気でゲームと区別がつかなくなってきた! この流れは危うい。
「借金が返済不能になった時に、自己破産しないでも借金チャラにできるよ★」
「そりゃ凄いわ!」
「でも、ミスからの復活には願いを叶えてくれる7つの宝玉を集めるか、教会に行ってお祈りを捧げないとダメだけどね★」
「それじゃ残機の意味がないだろ! ってか、残機って増やせるのかよ! どうやって!」
玲南はホワイトボードに字を書き始めた。残機を増やす方法のようだが……
●残機を増やす方法
1 階段を降りてくる亀さんに向かってタイミングよくジャンプして、連続で踏んづけましょう。
2 亀さんを蹴って、敵を8匹以上跳ね飛ばしましょう。
3 忍法を盗む泥棒猫に、手裏剣を8発ぶつけましょう。
「それでどうして残機が増えるんだよ!」
「残機が増えちゃう仕様なんだよっ★」
「全部仕様で説明できると思ったら大間違いだ……そもそも、残機を増やすって発想自体がわからないんだけど!」
しかも実際にやったら動物虐待で怒られかねないシロモノだった。
「……千影くんは神話をあまり知らないみたいだね」
そして玲南は語り始めた。想伝蜃奇録で語り継がれる、恐ろしい昔話を。
To Be Continued>
2019年8月11日追加 休日返上で仕事になったので、第16話は8月16日以降にアップします。




