第十一話 非実在的ドゥーマウス
■その11
「ウマシカ以外にも未知の存在や物質が発見されたりして大騒ぎ★」
「へぇー、うん、そうなんだ。実際どんなものが」
なげやりな反応をする千影。真面目に聞いたら損するパターンなのは承知済みだからだ。
「存在を知られていなかった合金とか、異界の書物とか」
「ル○チタ○ウム合金とか?」
「うん、大正解★ 良くわかったねー」
当てずっぽうに言ったら大正解だった!
「……mjdk! って、どうやって合金の正体突き止めたんだよ!」
「もちろん成分や構造とか分析したからでしょ。変な病原菌とかウィルスがついていたら困るから、検査前の除去から大変だったみたいだよ★」
「じゃ、じゃあ! 作る事ができるのか! ガ○ダ……」
「はいストップ★ それ以上は口にするなー?」
急に真顔で返事された。合金の名前は良くて巨大ロボの名前はダメなのか!
「とにかく、凄い合金が発見されたんだよな。何に活用されてるの?」
「発見されたのつい最近だから、実用化以前に研究全く進んでないよ★ そもそもどうやって製造するのかもわかってないから」
そういうオチか。仮に製造方法がわかったとしても、最初の活用先はおそらく兵器から。次に乗り物や建造物。人々の生活に身近な存在になるまで、気が遠くなる時間がかかるのだろう。夢なのだからそういうところがリアルでなくてもいいのに。
「……では、異界の本ってどんなもの?」
ル○チタ○ウム合金発見に匹敵する異界の本。長い歴史の中で失われていった、源氏物語の原典全巻や風土記とか、あるいは読んだだけで魂が穢れてしまう禁断の魔法書類を千影は想像したが
「ええと……アニメやゲームキャラクターのあれこれを描いた、薄い本が多数見つかったんだって★」
「同人誌かよっ!」
ル○チタ○ウム合金からの落差が凄まじすぎた!
「あのさ、同人誌って、そんな重大な発見……なのかな?」
「重大に決まってるだろ!」
仕切りの外にいる榛名だ。千影が驚いたのを察したのか、咳払いをして落ち着いた口調で話し始める。
「ま、まあ、あたしはその薄くてやたら高価という本は見た事ないけれど、耐性がない人間が読んだら発狂しかねない禁断の書物だと大騒ぎになったってさ」
榛名は何故、やたら高価な本だと知っている?
「……あの、発見された同人誌が異界の書物って、どうしてわかったの?」
「だって、あのカップリングありえないもの!!」
力説する榛名。しまったと思った時には既に遅し。衝立の向こうで始まる大騒ぎ。
『『『フォーッ!』』』
『この腐女子ぶり……やっぱり榛名だ!』
『乙女な小説や漫画、同人誌を本棚いっぱいどころか部屋のいたるところに隠して悦に浸る榛名だ!』
『バレてないと思ってるけど、実はモロバレな榛名d』
パラノーマル達の黄色い歓声は、そこでブツッと途切れた。
破壊音も断末魔もない。不自然すぎる、完璧な沈黙にビビっている千影の脳裏に雉も鳴かずば撃たれまいという諺が浮かんだ直後、長い沈黙を破って榛名がまくしたてた。
「いいい言っとくけど、あたしが衝撃を受けたのは未来からやってきたお世話ロボットと居候先のいじめられっ子が、いじめっ子のガキ大将を奪い合うという冒涜的な内容にだからな! その辺勘違いするんじゃねーぞ!」
「……榛名ちゃんがそう思うならそうなんだろ★ 榛名ちゃんの中ではな★」
そんな話聞くんじゃなかった! 千影は布団を被って慟哭する。
「まあ、そんなわけです。想力発電が実用化された数々の異世界で、本来その世界にいないはずのウマシカみたいな動物や未知の合金が発見されて大騒ぎになっていた時に、千影くんが富嶽第一想発からやって来ちゃったのです」
「ウマシカみたいな動物はマジで知らないぞ! というか、さっきからまるでここが異世界みたいに言ってないか?」
「え、異世界だよ★」
玲南にあっけなく肯定された。もちろん千影が信じるはずもない。
「またまたごじょーだんを」
「玲南さんや榛名ちゃんの住んでいる世界から見れば、千影くんは異世界からの来訪者、って事になるね★」
「んなわけねーだろ」
「もしかして、まだ千影くんは夢だと思ってるの?」
「そりゃ、普通はそうだろ」
想伝蜃奇録の登場人物が、二次元そのままな容姿に存在感を伴って、アニメやゲームと全く同じ声でリアルに話しかけてくる。この状況が夢でないなら何だと言うのか。
「夢なわけないよ。千影くん、今日だけで3回もこっちの世界に来てるのに。現実だったらとんだねぼすけさんだね★」
『てめー、夢だって言うならオレと代われ! 今から玲南とネチョネチョしてやるんd』
「また、つまらないものを斬ってしまった……」
こうしている間も、パラノーマルの襲撃は待ったなしで続いているのに(そして榛名に瞬殺されるところまで含めて)玲南は現実だと仰るのか!
そりゃ、玲南と話すのは楽しいし、これまで見てきた玲南と榛名のやり取りもすごく自然で、本当に想伝蜃奇録の世界に迷い込んだ気になったのも事実だけれど。
まさか、この危機的な状況全てが現実だと思い知る事になるなんて。
布団から顔を出して玲南と話していた千影が、彼女の隣に映った影を視認した。
榛名とは違う影。横を見た玲南も衝立に映った影に気づいたようだ。
「伏せて!! 今、顔を出さないでッ!!」
玲南が悲鳴に近い声を上げる。その時千影は既に危険を察知して、影の正体を考える事さえ拒絶して布団を頭から被っていた。あの影についてあれこれ考えて行動が遅れていたら千影はどうなっていたのだろうか。
外が見えないように設置された仕切りが全く意味をなさなかった。見えるはずのないソレが千影の目に見えてしまった。もしも千影が布団の外に頭を出したままだったら眼球を頭蓋骨ごと破裂させられていたのかもしれない。液体が床に落ちるビチャビチャという音が響く。
「玲南、気をつけろ! こいつはやばいぞ!」
「そっちに行った、衝立も突破される! 逃げて!」
「何やってんだよ、早くそこから逃げて! 早く!」
外から榛名の悲痛な叫びが聞こえる。外をうろつくナニカにやられてしまったのか?
しかし、布団のそばにいる玲南に動揺した様子はない。
「一つ、言っていい? 榛名ちゃんの声真似、全く似てないし、虫酸が走るからやめてくれないかな……」
いつもの明るい調子ではない、恐ろしく冷淡な玲南の声だった。
『何言ってるんだよ、早くそこから逃げて! 早く!』
『イ可言ってゑソだよ、早くそ乙から逃げて! 早く!』
『イ可ヰっ乙るんだよ、早<そこかラ逃げ乙! 早ぐぅぅぅぅx……』
To Be Concluded>
第十二話で前半部分終了します。




