表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第三章 Crazy Gonna Crazy
101/177

★第十五話 パン焼き器は美少女戦士の夢を見るか?(中編)

2021年7/31 修正完了


2024年1/7 挿絵追加

■その15



「ふむふむ、どうやら留萌くんは出会ってしまったみたいだね★」

 振り向くと、食堂の入り口には午後の騒動で疲れ切って倒れてしまい、医務室で休んでいたはずの玲南が訳知り顔で立っていた。

「玲南、もう動けるの? 大丈夫?」

「ちょっと休んだら動けるくらいにはなったよ★」

 駆け寄る榛名に玲南はいつもの明るい口調で返した。どうやら気分が悪いのは治ったようだ。と言っても、今日一日はフォースを使ったり戦ったりはできないだろうが。

「玲南ちゃん、あのヘンタイオジサンの正体を知ってるの?」

「もちろんだよ零比都ちゃん★ 謎は全て解けてるんだよ! ジッチャンになりかけて!」

 なりかけてどうするんだよ! 思わず出そうになったツッコミを千影が必死に呑み込む。調子が悪いにも関わらず玲南は敵の正体を教えに来てくれたのだ。

 尤も、パン作りを邪魔したヘンタイオヤジの正体など容易に想像はつく。パラノーマル以外ありえない。そう思っていた千影達であるが、玲南が口にする内容は全く想定を超えたものだった。

「留萌くん達が出会ったのは、異界創世記に登場した夜なべしてパンを作ってくれる妖精さんだよ★」

「「「「は?」」」」

 4人の目が点になる。



――捏ねたパンを発酵させずそのまま焼き上げていた大昔。人々がパンを発酵させるプロセスに気づいたのはパン生地を一晩放置した手違いによる怪我の功名である。明け方大きく膨張したパン生地を見た職人達は最初悪魔の仕業だと恐れ、パン生地を膨張させる悪魔の手先をやっつけようと寝ずの番をした。

 そして彼らは出会ってしまった。

 夜な夜な、パン工房に入り浸ってパン生地を発酵させて柔らかくて美味しいものに変えているちいさなちいさな妖精(おじさま)の存在に――

(未冥書房刊・異界創世期から引用。該当部分の翻訳はオイシーモ・タベリューによる)


「こうしてパン生地を発酵させると更に美味しくなると妖精さんから教えてもらった大昔の人々は、これは悪魔の仕業ではなく神様の贈り物だと喜ぶようになったんだよ★」

 玲南の説明を聞いていた4人は、大昔のパン工房でパン生地を捏ねまわす小さなヘンタイオジサン(妖精)の集団を幻視し、もう本当にげっそりした顔になっていた。

「あの変質者オジサンが太古の妖精とか、人類の歴史への冒涜だろ!」

「玲南さんはその妖精さん見てないからよくわからないけれど、きっと榛名ちゃん達が見たのは異界創世期に出てくる美味しいパンを作ってくれる妖精さん達に違いない★」

「見てないのに何でわかるんだよ!! もしかしてヘンタイオヤジがクローニングして繁殖するヘンタイオヤジ世界線から来た妖精かもしれないだろ! あのナリのどこに先人の経験や知識の概念あるのぜ!?」

「えー? パン作りにチャレンジする留萌くんがとっても良い子だから、働き者の妖精さんが来てくれたんだよ★」

「むしろ人類を皆殺しに来た異世界の侵略者だったらどうするんだよ!」


「いいえ、玲南ちゃんの推測はあながち間違いではありませんよ!」


 ずいぶんと低い位置から発せられた、聞き覚えのない声に千影と留萌が振り向く。視線を下にずらした2人の目にまず入ったのは、見慣れない黒髪の少女だった。ボブカットの童顔な少女が四つん這いになって、手にした大きな虫眼鏡で床を凝視している。大きな白衣を羽織っているが、白衣の下は玲南や榛名と同じ白いブラウスと茶色セーターとプリーツスカートの制服姿で、零比都と同じくらい小柄な体格。

挿絵(By みてみん)

 床を這って周囲を隅々までチェックして少女が立ち上がった。最初は誰と思った千影と留萌だが、玲南や榛名、零比都と同じく二次元からやって来たような顔立ちを見て、すぐに彼女の正体に気がついた。

「あ……あの、そこで何をしていたんですか? 真田(さなだ)傍陽(そえひ)……さん?」

 千影は想伝蜃奇録に登場する人物の名前で彼女を呼んだ。作中では玲南や榛名と一緒に行動するが、とにかく神出鬼没で奇怪な行動が目立つ、彼女の名前は真田傍陽だ。

「そんなのは見ればわかるでしょう。ヘンタイオジサンについて調べていたんですよ。そういうあなたはどうしてこの私の名前を知っているのですか? ははあ……もしかしてあなたが有東木千影くんですか? そしてそちらが大谷留萌くんですかねえ。どうも、初めまして」

「「アッハイ、初めまして」」

 傍陽がニヤリとした顔を千影と留萌に向けたが、すぐさま真面目な表情をして丁寧にお辞儀をした。2人とも呆気にとられたが、すぐに挨拶を返す。

「どうしてオレの名前を?」

「そりゃ、玲南ちゃんから色々お話は聞かせてもらってますからねえ……最近の玲南ちゃん、本当に楽しそうにあなたの事を話すもんですかrふがふが」 

「それで傍陽ちゃんは何がわかったのかな?」

 有無を言わさぬ調子で、玲南が傍陽を黙らせるように背後から口を塞いだせいで、それ以上傍陽から話を聞けなかった。

 何だ? 玲南は周りにどんな話をしてるんだ?



「い、いいですか? 榛名ちゃんや零比都さんが出会ってしまったおじさまの正体、それはパン作りに欠かせない存在、すなわち酵母菌の妖精です!」

「「「「は?」」」」

 玲南を除く4人が聞き返した。

「いつまでも美味しくて柔らかい最高のパンを産み出す秘訣、それは酵母菌にあり。つまりあのオジサマ達は酵母菌だったのです」

 もう二度とパンが食べられなくなりそうな話だった!

「発酵がパンを美味しくするのは同意するけれど、その割にはあの変なオジサン達はワキでパンを捏ねたり厨房を大規模炎上させたり最悪な行いをしてたよ?」

「零比都さん、それはきっと、パン生地に含まれていた酵母菌を助けようとしたからに違いありません。つまりこれは、パン酵母による人類への反逆なのです!!」

「パン生地が爆発すれば結局酵母菌も助からないだろ! パンを作る酵母菌をヘンタイ扱いしてんじゃねえぞ傍陽! 全宇宙のパン屋さんと酵母菌に謝れ!」

 ツッコむ榛名の隣で、留萌はヘンタイオジサンの手にかかった焼成前クリームパン(クリームを包んだ後オジサンのワキで捏ねられた廃棄予定品)にフラフラした足取りで歩み寄り

「そ……それじゃあ、残ったクリームパンを焼けば、超美味しいクリームパンが出来上がるのさ……?」

 大慌てで千影と榛名に制止された。

「留萌、それは廃棄予定のクリームパンだろ!」

「千影の言う通りなのぜ留萌! ヘンタイオヤジがワキで捏ねた逸品だぞ!」

「でも、クリームパンだよぅ?」

「「クリームパンだったらなんでもいいのかお前は!」」

「当然でしょ! 何を言ってるの千影も榛名ちゃんも!!」

 まさかここで逆ギレされるとは思わなかった!

「せめて、残った生地と材料を使ってやり直す方向で、な。オレも手伝うからさ」

「100人のヘンタイオジサンに台無しにされちゃって、もう材料ほとんど残ってないのさ」

 気落ちして涙目の留萌と実体化した影が、廃棄予定であるクリームパンが置かれたテーブルの空きスペースを見た。千影と玲南も、榛名や零比都、そして傍陽もつられる様に空きスペースを見る。

 テーブルの上で、人間と同じくらいの大きな物体が動いたような気がした。

 というか、それはまさしく人間そのものであった。全身真っ白だが、お腹はだらしない三段腹で頭部は見事な落ち武者ヘアのヘンタイオヤジがテーブルの上で跪き腕を巧みに動かして恍惚の表情でポーズを取っている。

 留萌達が見たヘンタイオジサンそのままの人型と千影達の目が合った。合ってしまった。


 ――目と目が合う瞬間 ()()だと気づいた――


 台所を這いまわる黒い悪魔に遭遇してしまった主婦のように。

 あるいはついうっかり人間に遭遇してしまった黒い悪魔のように。

 両者とも固まったまま微動だにしない。


「……ええと、パン酵母さん?」

『はい』

 沈黙を破る留萌の問いかけに、ヘンタイオヤジはポーズを取ったまま返事した。次に留萌は傍陽や玲南に顔を向け

「こちら、パン生地さんとクリームも入っているのかな?」

「爆発でやられたと思われたパン生地とクリームですね、これは。廃棄予定の汚染された物質ではありませんので安心してお召し上がれる逸品です」

 傍陽の回答に、留萌と影はなるほどなるほどと頷いてクリームパンを見た。

 まるで何日も食事をとっていない飢餓難民みたいな目で。


「じゃあ、このクリームパンをパン焼き器で焼成すれば美味しいクリームパンに」

『さらばだっ!!』

 机の上でポーズを取っていたセーラー服美少女戦士(ただし性別詐欺と年齢詐欺)は脱兎のごとく逃げ出した。しかしCBD(クリームパン欠乏症)を発症していた留萌と影から逃げられない。テーブルの上で急激に失速し、足がもつれるようにパン焼き器の中に転がり込む。影縫いでセーラー服美少女戦士を麻痺させ動きを封じた留萌の影が、そのままパン焼き器の蓋を閉めた。

「……なんで」

「?」

 今まで何か言いたげな顔だった千影が口を開く。どうしたのかなと視線を向ける玲南に

「何でクリームパンの生地が愛製造機(ラブマシーン)そっくりなんだよ!」

「えぇ? つまりあのヘンタイオジサンが、千影くんの愛のカタチ?」

「気持ち悪い事言うのやめい! おぞましい!!」

 そう。あのセーラー服美少女戦士(ただし性別詐欺と年齢詐欺)は、ツブツブバーサーカーのバッドステータスがついた千影に正気を取り戻させるために玲南が見せた愛製造機と瓜二つだったのだ。外見だけでなく、ポーズも表情、声色に至るまで!

「え? 愛製造機? ヘンタイオジサンが愛製造機って何?」

「それはね零比都ちゃん。千影くんの愛が具現化してできた存在が愛製造機、つまりあのヘンタイオジサン★」

「誤解を招く説明すんなーッ!!」

「うわぁ……自己顕示欲が激しい愛製造機だなあ。時と場所を選ばないと露出狂だぞ?」

「榛名さんも真に受けるんじゃねえよ!」

「流石はウマシカ原産の異世界! まさかモームス理論をこのようなカタチで実用化するなんて……」

「びっくりだよねー傍陽ちゃん★」

「モームス理論って何だ! いい加減な事を言うなーッ!!」

「しかし千影くんがあのような愛の形を持っているとなると、玲南ちゃんこれから苦労しそうでsもごもご」

「はい傍陽ちゃんストップ★」

 また玲南が強引な手法で傍陽の口を塞いだ。何を言おうとしたんだろう……?


To Be Continued>

第一章第三話から名前だけ語られていた真田傍陽がついに本編に出てきました。

最初は千影と玲南、留萌と傍陽、裏音と榛名の3組で話を進めていくはずだったのですが。

遅れに遅れて今回からの登場となりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ