第十四話 パン焼き器は美少女戦士の夢を見るか?(前編)
2021年8/17 修正しました。
■その14
千影と玲南が迷い込んだ異世界で恐ろしい怪物に遭遇し、命からがら逃げ帰った8/6(火)の夕方。玲南が疲れてダウンしてしまったが、萌えるゴミや発電所で生成されたTPF(処理済みの萌えるゴミから製造された高カロリー固形燃料)の計量作業も無事に終わった。
事務室へ生還できた千影達は、帰還後直ちに研究施設でクリームパン製作に挑戦していた留萌の状況を確認してもらった。千影の人生で三番目くらいの恐怖。得体が知れないナニカが留萌達の前にも現れやしないか、幸いにもそれは取り越し苦労で済んだ。
帰りがてら留萌の課題進捗を見ようと富嶽第一想発の研究施設に立ち寄った千影は。
千影と玲南が味わった恐怖とは、また別モノの惨劇を目の当たりにした。
「うわーん」
美味しいクリームパン製作に全く相応しくない、破壊や殺戮が花開いた地獄で泣いている留萌の姿に千影は絶句する。パンの材料である小麦粉やクリームの原料、調理用の器具類がぶちまけられ、掃除するのも難儀する惨状だった。パンを焼く時のいい匂いと形容しがたい酸っぱい嫌な臭いがコラボした、嗅覚から吐き気をナイアガラさせる危険な刺激臭が充満する中、実体化した留萌の影が悔しそうに床をダンダン叩き、榛名や零比都も呆然と立ち尽くすのを見て
「えー……あー……うん。とりあえず、何があったのか教えて」
千影は何とかそれだけ問いただす。
「とっても変なオジサンのせいで、美味しいクリームパンが台無しになったのさ……」
「……つまり、反想発の過激派みたいな連中が研究所に立てこもったの?」
こんな惨状を引き起こす中年男性と言われたらテロリストくらいしか思いつかない。パンを作ってる留萌達はパラノーマルに襲われていないと虎野に確認してもらって安心していたけれど、過激派に襲われるのも大事件だ。
「そんなお行儀の良い連中が押し寄せてきたら、あたしや零比都さんが叩き潰してるのぜ」
「過激派なのにお行儀がいいとはこれ如何に!」
それも物理攻撃特化型の榛名と零比都が大苦戦したみたいにボロボロになってるし! 不本意そうに、零比都が口を開く。
「中のクリームは問題なくできたんだよ。問題はクリームパンの生地を作ってる時に起きちゃったんだ」
「生地作成で零比都さん達が手を離せない時にテロリストが襲ってきたんですか?」
それも、日本に潜伏中の国際手配テロリストみたいな。しかし零比都はそれを否定する。
「もっと恐ろしいオジサンがやって来たんだ」
「もっと恐ろしい? それ、どんなオジサンです?」
千影は怪訝な顔で問い返した。テロリストや過激派ではない中年男性に、零比都や榛名が恐れるイメージが全く思い浮かばなかったからだ。
しかし、この時彼はすっかり忘れていた。零比都が苦手意識でワナワナと肩を震わせるほど、斜め上に恐ろしいものがある事を!
「それはこの世で最も恐ろしいオジサン。すなわち、変質者だよ!」
「ゴメン零比都さんが何言ってるのか本気でわからない」
間を置かず真顔で返した千影だが、零比都の口から語られたあらましは想像をはるかに超えていた。
「クリームを作りながらパンの生地を捏ねていたら、いつの間にか一人増えてたんだよ。忙しくて最初は怪しいと思わなかったんだけど……セーラー服の襟がついたレオタードを着た、スネ毛ボーボーな頭頂部スキンヘッドヒゲ面三段腹落ち武者がパン生地を捏ねてて」
「へへへへヘンタイだーッ!?」
千影は口を菱形にして絶叫する!
「最初は見た目だけで人を判断しちゃいけない。もしかしてそんなナリだけど通りすがりの一流パン職人かも……って思ったんだけど」
「通りすがる前に不審者として通報されますよ!」
現代の道徳において、そのような自由人は存在が確認されたら即通報だ!
「その変なオジサンが、パン生地を麺棒を使わずワキで捏ねだして」
「はいアウトォ―!?」
どうやって? パン生地を、麺棒なしで、ワキでどうやって捏ねるの!? あまりのおぞましさに千影の理性は想像と理解を拒絶する。食材を粗末に扱う愚行への怒りもこみあげてくる!
「何とか追い払って改めてパン生地を作り直そうとしたら、目を離した隙にホイップクリームの中に特別な……ミルクを入れられちゃって」
「特別な……ミルクって何だよーッ!」
聞きたくない、それ以上は聞きたくない! 『特別な』『ミルク』の間にどんな修飾語が入るのか、知りたくない!
「それで、蛮行に激怒した留萌くんと影さんがセーラー服ヘンタイオジサンをそこにある業務用大型電子レンジに押し込んでチンして、それでパン作りを再開したんだけど」
「……それでヘンタイオジサンをやっつけたんですよね? それなのに大惨事が起きたんですか? まさか、電子レンジで大爆発が起こってこの有様? レンジでゆで卵を作ろうとしたみたいに?」
レンジで生卵をそのまま加熱した結果と言われれば、この惨状も納得できる。正体のわからないヘンタイオヤジを問答無用でレンジに投入する、留萌と影の激怒ぶりには軽く引いてしまったが。レンジは処刑道具ではありません!
榛名は思い出すのも忌々しいと言った表情で零比都の続きを話す。
「大爆発なんて生易しいものじゃねえ。アイツらレンジの中で100人以上に大増殖して電子レンジをぶっ壊し、一瞬の隙を突いて焼成前のクリームパンや残っていた材料に殺到して全部台無しにしやがったのぜ」
「 だ か ら 何 で そ う な る ん だ よ ! 」
訳がわからない! どうしてそうなる!
To Be Continued>
転職活動が予期せぬ方向に進み始めて困惑中です。




