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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第一章 Boy Meets Girl
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第十話 うま……しか……

■その10



 クレーマー宅配員が沈黙した後、衝立に人影が映し出された。童顔な割に千影と同じくらい背が高い玲南と比べると小柄で、長いポニーテールをなびかせている。

「玲南、一個貸しだからね」

「おっけー★ ありがと榛名ちゃん」

「……榛名? 榛名ってもしかして、岳南榛名(たけなみ はるな)?」

 玲南が口にした名前に、布団の中にいる千影が反応する。想伝蜃奇録を知っている人なら聞き覚えがあって当然な名前である。衝立に映るシルエットも、元気が良くて周囲に響きそうな声も作中の人物と一致する。

 茶髪というより赤に近い色の髪の毛をポニーテールに結び、見るからに気の強そうなツリ目に整った顔立ち。身長は玲南よりも一回り低く、かなり華奢な体格。

 彼女の名前は岳南榛名。想伝蜃奇録で玲南と一緒にパラノーマル退治をしているフォーサーだ。

 仲間へのバフ能力に優れた玲南と違い、榛名のフォースは攻撃型である。突きや蹴りの威力を壁や床に伝導させて予期せぬ場所から攻撃を繰り出すといったトリッキーな戦いや、壁の向こう側にいる敵を壁を無視して直接殴るといった戦いを得意とする。玲南達のやり取りから察するに、壁や床、天井を無視して敵を攻撃できる榛名が自称ピザ屋を撃退したようだ。

「何だよアンタ、あたしの事知ってるみたいだけど」

「榛名ちゃん、千影くんは富嶽第一想発で働いてるみたいだよ★」

「……あぁー、そっか、そういう事か」

 まるで千影のアルバイト先と、榛名の個人情報を知っている件が繋がっているみたいな言い方だが、榛名の名前や見た目、性格は想伝蜃奇録を見ればすぐに分かる。


『榛名だ』

『榛名だ……』


 静かだった医務室で、また何かがザワザワと騒ぎだす。


『やっぱり榛名だ……リンゴみたいな、腐女子の香り……』

「はぁー? いきなり変な事言い出して、お前らヘンタイか!」

『玲南といい榛名といい、二次元って本当いい匂いするんですね……すーはーすーはー』

「あんたら、自分が知らないうちにヤバイ物質被爆してない? お前らの脳味噌から、正気が地球の裏側まですっ飛んでるだろ……」

『おいおい榛名、オレは先月のジューンブライドイベントでお前と結婚するって誓ったの、忘れたのk』

 騒ぎ立てるパラノーマル達を何の前触れもなく完全に沈黙させる榛名の手際はお見事だが、こうまで見事すぎると不気味さが増大する。

 もちろん、こうした沈黙は長く続かない。再び、棚の置かれている壁を叩く音がした。

「何か御用ですか?」

『すみません、関之沢玲南さん宛に小包です。印鑑かサインお願いします』

「荷物は何ですか?」

『はい、【株式会社俺と玲南の愛あふれる楽園】さんから、パソコン部品です』

 それ絶対パソコン部品じゃない! 玲南が顔をひきつらせながら返答する。

「そんなもの、頼んだ記憶ないですけど」

『そんな意地悪言わないで下さい! 代引きで35000円なんです! 払ってもらえないと困ります!』

 何というテンプレート的悪徳通販! 妖しい商品を一方的に代引きで送りつけるとは! その上壁に理不尽な暴力まで振るい出した!

 ドンドンドンドン! ドンドンドン!

『こらっ! 玲南さんいるんでしょ! こっちも商売なんだ! 早く出てきなさいっ! 玲南さんのハンコを、ハンコを早く! 直筆のサインでもいいですよ! 早く、この婚姻届にサインと……はぁはぁ……ハンコをぉぼぉおーっ!!』

 コート一枚で公衆の場をうろつく変質者が股間を蹴り潰されたような絶叫だった。


「本当にしつこいパラノーマルだな……」

「まだまだ続くよ。あいつら弱いけどマジでしぶとくてしつこいから★」

 辟易した表情でベッドから顔を出した千影に、玲南は顔色変えずに言い放つ。

『はぁー? 弱いって何だおい、一回顔を出して言ってみr』

「手も足も出ずにひねられてるの、どちらさんだっけか?」

 また言い終える前に榛名に撃退されたようだが、変質者の自己主張は終わらない。

『手を出したいんです……。二次元女に……俺達の気持ちは俺達にしかわからねえ!』

『だから早くハンコを! 婚姻届にハンコをくだすあぼぼぼー』

「生憎、あたしや玲南、傍陽の婚姻届不受理届は提出済みだよッ!」

『『なっ、なんだtt』』

 また榛名に返り討ちにされている。いい加減学習すればいいのに。

 衝立の中から戦いを見守る千影も玲南も、既に遠い目状態だ。


「ねえ、あいつらって一体どこから湧いてくるんだよ……」

「どこからって、千影くんがアルバイトしてる、富嶽第一想発からだよ★ 気づいてなかったの?」

「え、マジで? でも、そんな」

 心当たりは……ありすぎた。勤務時間中に遊び呆けるニート達とか!

「それに、あのパラノーマル達を連れてきたの、千影くんだよ?」

「はぁ? 何だそれ、どういう事だよ、知らねえよそんなの!」

 すると玲南は心底驚いた顔をして

「本当に、気づいてなかったのかな? かなっ?」

「全然知りません」

『ほぅほぅ、知りたいと申すか。それじゃ富嶽第一想発にまつわる昔話から始めようか。事の起こりは900年前。時の法皇が萌え絵師にえっちな漫画を描かs』

「どこから話したらいいのかな。とてもじゃないけど信じられない気がするし……よっし決めた★」

 仕切りの向こうから聞こえたパラノーマルの声を自然にスルーして、玲南は想力発電の歴史を話し始めた……




 かつてこの世に存在した、あらゆる恵みに祝福された大地。

 かの地に降り立った神は、二人の人間を作った。一人は特攻兵器・イケメンリア獣。そしてもう一人は引きこもり、コミュ・ショー。そして、そんなイケメンリア獣とコミュ・ショーがオッスオッスする毎日に大喜びする伝説の戦闘民族・フジョシもその地に降り立った。

 しかし、その地はリア獣とコミュ・ショーが殺戮しあう地だった。

 リア獣は銃を持った。一方コミュ・ショーは有名アイドルの解散総選挙投票券100枚でリア獣の頭を殴打した。一方フジョシはリア獣とコミュ・ショーの繁殖の神秘を探り始め、そしてついにリア獣とコミュ・ショーにだけ伝えられる伝説の聖なる儀式「YAOI」の秘密に辿り着いた。

 神はその様子を見て、投票券100枚を購入する事にした。

 しかし、それらのチケットは全て使用済みだった。騙された神は怒り狂い、コミュ・ショーに女性にモテなくなって悶々とする呪いをかけて制裁とした。

 こうして、コミュ・ショーは女性にモテなくなる代わりに、妄想の力をエネルギーに変える能力を手にした……




「と、こういった経緯で誕生したのが想力エネルギーなんだよ★」

「そんなわけあるかぁーッ!!」

 真面目に聞いて損した! これほど無意味なひとときがあっただろうか!

「まあ、これは神話だから、誇張も多分に含まれてるみたいだけど★」

「神話の時代から想力発電があったのかよ! 大体、そんな神話は聞いた事もないよ!」

「現代語訳があまりにも意味不明で、過激派の若手将校達が怒り狂って原典を焼却処理しちゃったんだって★」

「そりゃ怒り狂うわ!」

「まあ、こうして色々な異世界で広がっていったのが想力発電なんだけど……」

「へー、はー、そうですか……」

 当然、千影は全く信じていない。異世界の実在を前提にしたような話を唐突にされて信じられるはずもない。

「想力発電技術が実用化された世界同士での交流は最低限度にされてきたんだけど、最近それらの異世界で次々に奇妙な事が起こり始めて、連携して対処に乗り出したんです」

「……奇妙な事?」

「玲南さんもお話でしか聞いた事がなかったけれど、その世界に本来存在しないはずの物質が発見されたり」

「存在しないはずの物質って?」

「そうだね……例えば、千影くんのいる富嶽第一想発からは、恐ろしい生き物が異世界に来てしまって大問題。駆除が大変だったみたいだよ★」

「えっ、何だそれ。どんな生き物だ」

 純粋に千影の好奇心を刺激するような話だった。異世界の実在は置いておいて。鯉とかブラックバスみたいに大食らいで生態系を脅かす動物とか、あるいはオオスズメバチみたいな獰猛な生き物か?

「その動物のお肉はワックスのかかったモップみたいな味と歯ごたえで、食べるとお腹壊すって」

「そりゃお腹壊すだろ! というか味の表現がやけに具体的だけど、まさか食べた人がいるのかよ!」

「食肉加工されたものなら食べられるけど、気をつけてないとお肉に頭から齧られるそうだよ?」

「肉がどうやって食べる人に噛みつくんだよ!」

「口を開けて、噛みつくんだよ?」

「食肉加工された肉に口なんてないだろ!」

「うん、だから口もないのにどうやって噛みつくのか聞きたかったんだよね。千影くんはその動物知ってるでしょ? どうやって噛みつくのかな?」

「知らねえよ! むしろこっちが聞きたいわ! なんて名前の動物だよ!」

 食物連鎖の順番を逆転させられる奇跡の動物なんて初耳だ。

「馬みたいだけど馬じゃなくて、鹿みたいだけど鹿でもない。すなわちウマシカ★」

「……玲南さん? もしかしてオレを馬鹿にしてる?」

「え? なんで? 玲南さん大真面目なのに……本当に恐ろしい生き物なんだよ★ 野良わんちゃん達が次々にウマシカに襲われて、一時期大問題になったんだから」

「そりゃ恐ろしいわ! 本当にいるなら!」

「結局、ウマシカが口をあんぐり開けた時に辞書とか図鑑みたいな文化的書物を口の中に大量に押し込んで何とか駆除したらしいけど」

「……それ、窒息して死んだだけじゃないの?」



To Be Continued>

うま……しか……

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