五話
村を出て2週間。予定通り、テロトルテへとたどり着いた。
「さあ、着きましたぞ」
「はい……」
僕が勇気と希望を持って訪れ、そして全てを失って逃げ帰った土地。
パーティのみんなはどうしているだろうか? みんな、無事に冒険者を続けられているといいけど。
街の入り口には、門番がいる。セバンスさんは馬車を降り、そちらに近寄った
「通行証を」
「こちらを」
「こ、これは、領主様の……失礼いたしましたっ!」
「いいえ、お仕事ご苦労様です」
「はっ!」
やりとりを見ると、セバンスさんは本当に領主様に仕えているんだなとわかる。と同時に、僕はえらいことに巻き込まれているのではと一気に不安になって来た。
「それでは参りましょう、我が主人の館へ」
「は、はい。よろしくお願いしますっ」
「緊張なさらなくても大丈夫ですよ……これだけは言っておきましょうか。別にレッジさんを裁こうと連れて来たわけではございません、どうかご安心ください」
「は、本当ですか?」
「ええ、本当は何も申し上げるなと仰せつかっておりましたが、内緒ですよ?」
「そうなんですか。すいません、ありがとうございます」
「いえいえ、では」
馬車は街中に敷かれた石畳を進む。
よく整備されているためか、相変わらず振動は少ない。
賑わいは相変わらず、日中のためか人通りも多い。
街の人が、馬車の両横についている領主様の紋章を見て、頭を下げる。
いや、僕人違いですけど……
ゆっくり15分ほど走ったのち、大きな館の目の前で馬車は足を止めた。
「では、お降りください」
「はい、ありがとうございます」
セバンスさんが開けてくれた扉から、馬車を降り、目の前の館を見上げた。
やはり大きいなあ。
小高い丘の上に建てられているため、街の入り口付近からでも見えるくらいだからな。
「では」
セバンスさんは大きな門の横にある小さな門を開けた。
ごくり。
セバンスさんのいうことが本当なら、僕は別に罰せられに来たわけではない。だが、この門から一歩足を踏み入れれば、完全に領主様の権限の中に閉じ込められることになる。この建物では領主様のいうことが一番、何があってもおかしくはない。
「……よしっ!」
僕はこの街に来た時と同じよう、勇気を振り絞り足を踏み入れた。
「こちらです」
「は、はい」
セバンスさんの案内で、庭を歩く。
苗木や木々は綺麗に整えられており、春の花々が咲き誇っている。庭の真ん中には大きな噴水があった。
「うわあ」
「ははは、素晴らしいでしょう?」
「あ、すみません。はい、きこりをしていると、どうしてもこういう庭いじりも気になってしまって。たった3週間しかやっていませんでしたが、それでも違いがわかるくらい素晴らしい庭ですね!」
「ありがとうございます、その言葉を聞けば、きっと旦那様もお喜びになられるでしょう」
等、緊張を紛らわす話をしながらも、遂に館に足を踏み入れた。
「おかえりなさいませ、セバンス様」
「はい、ただいま」
使用人用の勝手口から入ると、待っていたのかフリフリの服を着た使用人が僕たちを出迎えた。なるほど、これがメイドさんというやつか。
「こちらの方が?」
「ええ、件のレッジ様です」
「左様ですか。レッジ様、どうぞこちらへ」
「え、はい。セバンスさんは?」
「私は別の仕事がありますゆえ、申し訳ありませんが、ここで失礼させていただきます」
「そうなんですか……あの、2週間どうもありがとうございました」
「いえ、こちらこそ楽しいお話が聞けてようございました。それでは」
セバンスさんは一番最初に見たような、綺麗な礼をして廊下の奥へ去って行った。
「では、私たちはこちらへ」
「わかりました」
メイドさんに連れられて、高級そうな絨毯が敷かれた階段を上がる。
というか、この館のいたるところに高級品があって、一歩歩くのも怖いくらいだ。
ほら、あの壺? 一つでも壊したらきっと人生をかけて弁償しなければならないだろう。
数分歩いたのち、メイドさんは大きな扉の前で立ち止まった。
「それでは、私もここまでですので」
「えっ?」
扉をノックしたのち、彼女は去ってしまった。
「--はい」
代わりに、扉を少し開けて別の女性が顔をのぞかせた。
「あ、あの、レッジという者ですが」
「旦那様、お客様がご到着されました」
と、大きな扉が開かれる。
部屋には何人かの侍女がおり、部屋の最奥ちょうど中央に、これまた大きな机の上にいくつもの書類を広げた中年男性がいた。
「うむ、入りたまえ」
「は、はい、失礼致します」
部屋の真ん中ほどまで歩き、臣下の礼をとる。
「お初にお目にかかります、レッジと申します。本日は領主様からの召喚状に応じて馳せ参じました」
領主様は手を止め、僕の顔をちらりと見た。
「……ご苦労」
だがそれだけいうと、領主様はまた書類仕事に戻ってしまう。
その後数分待ったが、全く声をかけてもらえない。
「あ、あの……」
耐えられず、僕は再び声をかけた。
「……よし、終わったぞ。お前たち、後は頼んだ」
「「「はい」」」
壁際に立っていたメイドさんたちが、書類の束を運び出す。
「さて、待たせたな」
領主様は椅子に座りなおし、深く腰掛ける。
「い、いえ」
「レッジくん、だったな」
「はい」
「君には、あってもらいたい人がいる」
「会って……?」
領主様は椅子から立ち上がり、部屋の右奥にある扉を開けた。
----そこから、とんでもない美人が現れた。