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三十一話

 

「うーん、いてて」


 やはり下戸は辛い……ちょっと飲んでしまっただけでだいぶ酔ってしまった。


 周りを見ると、みんな寝てしまっている。


「はあ、こうしてみると、本当に可愛いよな、ミオン」


 優しく背中をさすってやる。


「レッジ様」


「ひっ!」


 唐突に横から声をかけられ、思わず悲鳴をあげそうになった。


「なんだ、ヴァンテーヌさんか……なんですか?」


「サシャさんが、お呼びです」


「サシャが?」





 言われた通り、村の広場へ行くと、井戸の淵にサシャが腰掛けていた。


「どうしたんだ、こんな夜更けに。なんの用事だ?」


「・・・レッジ・・・」


 お酒を飲んだせいでほんのりと赤い顔が、月明りに照らされている。銀髪の髪の毛に光が反射し、とても綺麗だ。まるでおとぎ話に出てくるお姫様みたいな雰囲気が漂っている。


「お酒、思ったより飲んでいたな」


「・・・結構美味しかった。これからも、飲んでいい?・・・」


「ほどほどにな。若いうちから飲みすぎると、年取った時に病気になりやすいんだぞ」


「・・・それは困る。魔法の探求ができなくなるのは辛い・・・」


「わかっているならいいさ。何か用事があるって聞いたけど?」


「・・・レッジは、あの絵本みたいになりたい?・・・」


「それは……3人で仲良くしたいか? ってことだよな」


 サシャが言っているのは、あの本棚にあった『僕と幼なじみと女の子』のことだろう。ちなみに挿絵はサシャの力作である。


「・・・うん。これ、今日の分の・・・」


 交換日記だ。きちんと毎日交換しているんだぞ?


「ああ、また明日返す。僕は、もちろん出来たらそうしたいさ。せっかくまた仲良くなれたのに、離れ離れはさみしいからな」


「・・・わたしは・・・最近、少しわかってきた・・・」


「恋愛についてか?」


「・・・今日も、レッジとミオンが親公認になったのをみて、胸のあたりがチクチクした。わたしはまだわからないことだらけなのに、2人はどんどん先に進んでいるから・・・置いて行かれている・・・」


「サシャ……それは、きっと嫉妬だよ」


「・・・嫉妬。この前教えてもらった・・・けど、この前のはもやもや、今日はチクチク。何が違うの?・・・」


 サシャは、隣に立つ僕の顔を見上げる。その瞳は潤っていて、一瞬どきりとした。


「そうだなあ……もやもやは、この前の状況から察するに、『私の方が先に同じことをしていたのに』という優越感を否定されたいらだちで、チクチクは、『2人の恋愛が一歩先に行ってしまった』悔しさと虚しさからじゃないかな?」


「・・・むむう、むずかしい・・・」


「どちらも嫉妬という点では同じだ。だけど、その性質が違うんだよ。ただ一つ言えることは、サシャにも本当はそういう気持ちがあって、それが表に出てきた。つまりは進歩したってことだ」


「・・・これも、恋愛レベル?・・・」


「そうだな。上がったな」


 頭を撫でてやる。


「・・・レッジに頭を撫でられると、やっぱりぽわぽわしてくる・・・これは、好きな人にしてもらったから? それとも、レッジが特別?・・・」


「はは、僕にそんな特別な力はないからな。好きな人……にしてもらったからだろう」


 自分で言うのが一瞬恥ずかしくなった。だが、サシャのためだ。自らの恋心を理解し、愛とは何か、異性を好きになるとはどう言うことか。それらが完全に理解できた時に初めて、ミオンと戦える環境に立てるのだ。

 そこからミオンがどう折り合いをつけるのかはわからない。だが、本人のいう通りあの絵本みたいに仲良くしたいと思っているのは間違いないのだ。


 サシャに可能性を感じたとミオンは言っていた。ならば僕はそのサシャの可能性にかけてみる。より良い未来のために、僕はサシャの力になろうではないか。


「・・・レッジ・・・」


 サシャが立ち上がり、ぽんぽんとお尻を払った。


「どうした、もう寝るか?」


「・・・わたし、キス、してみたい・・・」


「き、きす? あの、唇と唇をくっつける?」


 こんな美少女から言われると、この歳になってもどぎまぎしてしまう。本人がその行為の意味がわかっているのかどうか……


「・・・ヴァンテーヌ様から教えてもらった・・・そ、その・・・2人が夜に何をしていて、それがどのような意味を持つのか・・・」


 あ、これは意味わかって言ってますわ。


「え、うそっ、恥ずかしいんだけど……なにしてんだよ、ヴァンテーヌさん……」


 ってか、なんで僕たちの夜のこと知ってんだ?


「・・・どう?・・・」


「ううう、うむ、ちょっと待て」


 これは浮気、になるのか?

 でも、ミオンはサシャの恋を応援するつもりだし。だがその相手は恋人である僕な訳で……


 ちょっと、男として違う女性とのキスというものに興味があるのは事実だ。ただ、良心が邪魔をするというか、超えちゃいけないラインを守れと理性が警鐘を鳴らしているのだ。


 サシャの唇を見る。

 ピンク色で、プルプルしている。それに、普段は意識していなかったが、こうして静かな夜に改めて2人きりで対面すると、全身から女の子特有のいい匂いがしてくるのを意識させられるのだ。


「くっ、決めるんだ、迷っていちゃ人生前に進まないぞ!」


 ……………………



 ----・・・ちゅ・・・



 ………………え?




「いま、なにを」


「・・・しちゃった・・・」


 サシャの顔は、お酒とは違う、紅に染まっていた。




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