二十五話
「レッジ、聞いて聞いて」
「なんだ」
ミオンとイチャラブした後、ベッドで横になっていると、彼女がこっちを向いてそう話を切り出した。
「私のつくった団体、あ、レジオン財団って言うんだけどね--」
「おいちょっと待て」
「な、なに?」
僕は上半身だけを起こす。
「話の腰を折るようで悪いが、今、"レジオン財団"って言ったか?」
「う、うん」
「それ、まさかとは思うけど、僕たちの名前くっつけたんじゃないよな?」
「……さあ、ナンノコトデスカ?」
目をそらすな、こっちをみろ。
「分かる人にはわかるぞ。まるで自分も設立に関わっているみたいで、気がひける。それにヒモなのに名前だけ貸すなんて、と思われるかもしれないぞ」
「大丈夫よ大丈夫。レッジがいることで、私の仕事も捗る。実質レッジの働きによって、この財団は作られたのよ」
なんだその斜め下過ぎる超飛躍理論は。
「僕が心配しているのは、ミオンが男に肩入れしすぎていると悪い噂を流されるんじゃないかってことだ。そもそも、こんなこと言えた義理じゃないけど、あまり僕のことばかり見ていると、商売も貴族の仕事も疎かになるぞ」
僕に尽くそうとするがあまり、この伯爵家が立ち行かなくなるのは困るし僕の気も重くなる。
「……レッジは、私の愛、重過ぎるかしら?」
「ミオン、そういう話をしているんじゃない。離れ離れになってからもずっと想ってくれていたその気持ちは嬉しいし、僕もその気持ちに負けないくらい君のことを好きなつもりだ。だけど、今後何か失敗すれば、『だから女は』とか、『男の言いなり』とか未だに言われることになるだろう。僕もただ冒険者をやっていたわけじゃない、12年間も街にいると、いろんな人生を歩んできた人を見てきた。どんだけ働こうが、人が立てるあらぬ噂一つで人生が潰れることなんて幾らでもある。この国は、そんなに優しくはできていないんだ」
「……言われなくても、わかっているわよ」
「じゃあ聞くけど、なぜサシャの気持ちを煽るようなことをするんだ? この前本棚でたまたま見つけた絵本を読んだけど、あの絵本もサシャに描かせたと聞いたぞ。確かに、サシャの精神的な成長は嬉しいし、過去の話を聞くと人並みの恋愛をしてほしいと思う。
だが、僕には君という大切な女性がいるんだし、複数人と同時に関係を持てるほど甲斐性があるわけではないことは自分でわかっている。ヒモな僕がいうのもなんだけど、何より今のミオンは職権濫用と言われても仕方ないようなほど僕にのめり込んでいる気がする。僕は、君の人生を狂わせるために付き合っているんじゃない」
「…………なんで」
と、ミオンは俯く。
「なんで、そんなこと言うの!? 私は、レッジのことが好きだから、レッジのためならなんでもしてあげたいから、こうして一緒にいるの! 私個人の評判なんてどうでもいい、レッジが私といることで幸せだと思ってくれるなら、それで全て報われる……なのに、たった一つ、レッジの名前を使っただけでなんでそんなに言われなきゃいけないのよ!」
「み、ミオン、僕は別に怒っているわけじゃなくて、本当にミオンのためを思って」
「うるさいうるさい、ううう〜〜大好きだけど、大嫌いっ!!!」
「あ、ちょっ、ま……」
--バタン
脱ぎ散らかした服を持って、隣の自室へと逃げてしまった。
「しまったな、こりゃ……」
僕は別にミオンを責めたかった訳ではない。ただ、最近の彼女の態度を見ていると、僕たち2人の恋愛がどうこうと言うよりも、僕の機嫌を伺うような雰囲気を感じるのだ。
離れたくないのは僕も同じことなのに、ここ数日この屋敷で暮らしていて、一方的に尽くされると言うのはこういう気持ちになるものなのかと知らされた。
僕は服を着て、ミオンの部屋へ向かう。扉続きではなく、一度リビングを経由しなければ行くことができない作りになっているため、扉を開ける。
「おーい、ミオン。待ってくれ、悪かった。もう一度話をしよう」
部屋の扉を叩く。が、なにも反応がない。
一か八か、扉を押すと、鍵はかかっておらずすんなりと開いた。
「……ミオン?」
彼女の部屋は明かりがついてなく、かろうじてベッドが盛り上がっているのがわかるくらいだ。
「ぐすっ、ううっ、レッジのばかっ」
すすり泣く声が部屋に響く。
「ご、ごめん。でも、これだけは聞いてもいいか?」
「な、なによ……」
「なぜサシャに、僕のことを好きになるように仕向けるんだ。ミオンは、僕がミオンと付き合うことに何か不満があるのか? もし、直して欲しいところがあったら頑張って正すし、もっと愛して欲しかったからと言うならば、僕ももっと君に愛情を注ぐ。一体なにが目的なのか、そろそろ教えてくれないか?」
ジリジリとベッドに近づきながら、そう問いかける。
「……ピンときたのよ」
「え?」
「サシャを見たとき、私の神能でピンときたのよ。この娘は将来、きっと私たちに良いことをもたらす存在だって。実際、様子を見ているとレッジのことが好きなのに、その感情を理解できていないだけのようだとわかったし。あの娘がどのような存在になっていくのか、今はわからない。けれど、きっとレッジのためにも、サシャ自身のためにも、こうしたほうがいいと私は判断した」
「だから、あんな絵本を?」
「別にあんたのことを取り合いたいわけじゃない。けど、きっとあの子は自らの感情を完全に理解したとき、私の強大なライバルになると確信したわ。実際、レッジもサシャには甘々じゃない?」
「そ、それはそうだけど」
だってなんか、妹みたいな感じなんだよな。見ていて守ってあげたくなるような。まあ実際守られたのは僕の方なんだけど……
「サシャには、魔法という恋人がすでにいた。けど、私は思ったの。好きな人を好きなままでいられること、そして互いに愛し合うことまでできる。こんなに幸せなことはないんだって。好きな人がいるのに、そのことがわからないって、なんだか寂しくない?」
「んまあ、そうだな」
「だから、彼女を煽るようなことをした。ヴァンテーヌ曰くの恋愛レベルを上げるために、秘書長にも任命した。レッジは、迷惑だった……?」
「いや、僕もその考えは間違ってないと思う」
そういって、ミオンの隣に腰掛ける。




