二十四話
次の日から、サシャは正式に僕の秘書長となった。
と言っても、僕は周知の通りヒモだ。働いているわけではないし、家事も全部使用人達がやってくれている。
ミオンと一緒にいて、彼女と幸せを共有することが、唯一やるべきことである。僕も進んでイチャイチャしてるから、まわりの人間は砂糖を丸呑みしたかのような表情をしているが。
「・・・おはよう・・・」
「ん、おはよう。ほら、日記書いておいたぞ」
と、昨日渡された交換日記を差し出す。
「・・・おおー・・・」
なぜに驚く?
「・・・これが、交換日記。新鮮・・・」
「僕も初めてやるからな。取り敢えず、その日一日なにがあったかくらいは書いていこうと思う。他に何か書くことはあるか?」
「・・・じゃあ、レッジのその日一番喜怒哀楽を感じたときのことを書いて欲しい。ヴァンテーヌ秘書長が、恋愛経験値を上げるためにも、相手のことをもっと知るべきだって言ってた・・・」
「なるほど、わかった。じゃあそれも織り交ぜて記すことにするよ。で、今日は何をするか、決まっているのか? 僕と一緒にいても、することないと思うぞ」
「・・・じ、実は・・・」
サシャはひざをもじもじさせる。
「ん? なんだ、言ってみてくれ」
「・・・わたしがまずレッジを膝枕する。レッジはお礼にわたしのことを抱っこしてほしい・・・」
「膝枕……? サシャも面白いことを考えるな。秘書長の最初の仕事が、膝枕か」
「・・・この前おんぶしてもらったとき、なんだか胸のあたりがふわふわしていた。抱っこだとどうなるのか、試してみたい・・・」
「ふーむ、わかった。じゃあ、お願いしよっかな?」
これくらいなら、いいよね? ね?
サシャはベッドに腰掛け、自らの膝をポンポンと叩く。
「・・・はい・・・」
僕も隣に座り、そして頭をそっと乗せた。
「・・・んっ・・・」
そうすると、サシャはいきなり色っぽい声を出した。
「な、なんだ、ごめん」
頭を離そうとすると、自らの手でそれを抑えてくる。
「・・・ちょっと、思ったより感触が伝わったから、びっくりした。大丈夫、続けて・・・」
「そ、そうか。わかった」
サシャの太ももは柔らかく、それでいてほんのりと暖かい。
「・・・どう?・・・」
「ああ。なんというか……いいな」
「・・・そう・・・」
サシャは僕の髪の毛をすきはじめる。
「・・・レッジの髪の毛、サラサラ・・・」
「ああ、この屋敷に来てから、使う石けんも変わったからな。冒険者時代は、ボサボサだったが」
身の回りに気を使うならば、酒を飲むか武具を整える方に金を使っていたせいで、ミオンがプリプリ怒りながら"身だしなみ矯正"をし始めたのだ。
お陰で服も増えたし、見た目もだいぶマシになった(と思う)。
「・・・わたしは、どっちのレッジも似合っていると思う・・・」
「ありがとう、サシャ」
そうして30分ほど経ったのち、今度はサシャのことを僕が抱っこする番となった。
「じゃあ、するぞ。ほら」
と、僕は膝を叩く。
「・・・うん・・・」
銀髪少女のお尻の感覚が伝わる。や、柔らかい……ミオンとはまた違う感触だ。
「どうだ?」
「・・・ちょっと楽しい・・・」
「はは、そうか? ゴツゴツしてて、そんなに座りごこち良くないと思うがな」
「・・・レッジ・・・」
サシャは、僕のお腹に背中を預け、自らのお腹に腕を回させる。
「なんだ?」
「・・・わたし、これからレッジを甘えさせてあげる。膝枕もいっぱいしてあげる。だから、見捨てないでそばにいてほしい・・・」
「どうしてそんなことを……見捨てるわけ、ないだろ? それに、ここにはミオンもアナステもいるんだ。たとえ、この前の様な事があってもみんなと一緒になって絶対に守ってやるさ」
「・・・でも、わたし客観的に考えた。レッジには伯爵様……ううん、ミオンさんがいる。もし、わたしが恋というものを理解できたときに、あの人の敵になるかもしれない。わたしの居場所がなくなる可能性は高い。そのときに、レッジのそばにはいられなくなる。だから、約束してほしい・・・」
「サシャ……」
ミオンが何を考えているかはわからない、聞こうとしても、はぐらかされてしまう。
ただ、あいつがサシャを追い出すとは思えない。そんなメソメソした性格のやつじゃないからだ。たとえ自らの恋敵であっても、適材適所でその人の能力を引き出してやる。そんな女なのだ。
「・・・レッジがわたし達のパーティから抜けたとき、本当に寂しかった。どうしてこんな気持ちになったのか、その時はわからなかったけど……周りの人たちから教えてもらって、少しずつ理解できてきた。恋愛レベル、少しは上がった?・・・」
「さあな。でも、僕もそうだったよ。ミオンを残して村を出たとき、まさに断腸の思いだった。冒険者をやっているときも、辛い時はあいつのことを思い出したし、村に帰ってきこりをやっていた時も同様だ。そして、ミオンと再開してわかったんだ。愛って、その人との精神的なつながりなんだと」
「・・・精神的なつながり・・・」
「立場的に、サシャの恋を応援することは、表立ってはできない。せいぜいこうして秘書長と主人として、やり取りをするくらいだ。だが、その分これからは僕の近くにいる時間が増える。好きな人の近くにいる幸せ、そういった感情を育てることは、サシャの今後の人生にとって絶対にいい糧になる。大人になるっていうのは、ただ体が大きくなる事、外に出て働くことだけじゃない。人として、考える生き物として、成長することが最も必要なことなんだよ」
「・・・わたし、頑張る。何回も言う。好きって気持ちをわかりたい。レッジに対すること気持ちが本当に恋なのか、それを確かめるには、今はそうするしかないから。だから、応援してくれる?・・・」
「心のなかでならな」
「・・・よかった。でも疲れた・・・」
「ははは、最近本当によくしゃべるよな」
これも、いい兆候ではなかろうか。コミュニケーションをあまり取らなかった彼女が、ここまで話すようになるなんて。
「・・・すー、すー・・・」
「え、おい」
いつの間にか、サシャが寝てしまっていた。
揺すってみたが、起きる気配はない。
「……仕方ない、もうしばらく座らせてやるか」
明日から
6時、12時、18時の三回更新に固定します




