二十三話
「……おい、起きてるんだろ」
背負うサシャに声をかける。
「・・・ばれた・・・」
「当たり前だろう、お前の癖は殆どわかっているつもりだ。眠たい時は突然ねむりだすだろう? あんなに"眠そうなフリ"はしない」
「・・・レッジ・・・」
「なんだ?」
サシャはもぞもぞし、肩にあごを乗せ顔を覗かせる。
「・・・わたし、レッジが攻撃された時、とてもムカついた。わたしの中にある大切な何かも一緒になって傷つけられているみたいで、嫌だった。だから、叫んだ・・・」
「サシャ、ありがとう。お陰でみんな助かった。君の勇気がなかったら、今頃どうなっていたことが、想像もしたくない」
僕が怪我をしたことで、事態を解決に導くきっかけとなったならば、骨の2、3本くらいどうってことないさ。
……聞くならば、今がチャンスか。
「……なあ、サシャ」
「・・・なに・・・」
「おまえ……僕のこと、好きなの?」
他の女性を口説くような真似をしたくはないが、サシャに芽生えかけているであろう気持ちを応援したくもある、二重の心が僕の中で渦巻いている。
だから、聞いてみた。
「・・・・・・わからない・・・」
「……そうか」
うーん、やはり、ミオンの思い過ごしなのでは?
「・・・わたし、孤児院で暮らしていた時は、周りの子は男の子とか女の子とか関係なく、みんな家族だった。協力して孤児院で生活していて、仲は良かったけれど、恋愛ごとは全然なかった・・・」
なるほど、サシャにとっては孤児院は実家だもんな。
その中にいる人たちは全員家族なんだ。
「・・・それに、神能を授かってからは、そっちを優先したから、同年代の異性と遊ぶ時間もなかったし、わたしは魔法にのめり込んでいってそのままアナステと冒険者になったから、恋愛のことは全然わからない・・・」
「サシャにとっては、ある意味魔法が恋人だったわけだ、何かに夢中になれるって、本当にいいことだと僕は思う」
「・・・でも・・・」
サシャは何かを言いたくて言いづらそうにしている。
「なんだ、言ってみたらどうだ」
立ち止まり、続きを促してみる。
「・・・レッジと話している時は、楽しい。もっと話していたい・・・今まで、こんな気持ちになったことはなかった。孤児院やアナステといる時とはまた違う、心がムズムズする感じ・・・」
「ムズムズ?」
「・・・これが、恋や愛、なのかはわからない。でも、レッジともっと話したい、ずっと一緒に居たいって、最近はよく考えるようになった・・・」
「それは……」
「サシャ、それは、恋の始まりです」
と、後ろに控えていたヴァンテーヌさんが言う。
「恋の始まり、ですか?」
「そうです。誰かのことが気になる、いつも目線でおってしまう、いつまでも話をしていたくなる。いわば、恋愛レベル1です」
恋愛レベル1。面白い表現だ。
「ですが、サシャの場合はこの手の小さい頃から積み重ねる感情がほとんどない。恋愛ゼロ歳児なのですよ」
「・・・恋愛、ゼロ歳児・・・」
「恋愛は人それぞれ。中にはそのひとのことが好きな故に、思わず遠ざけてしまうような行動をとる、"ツンデレ"と呼ばれる人たちもいますが」
「ツンデレ」
「サシャには、そのような様子は見受けられません。恋愛レベル1の方がツンデレを発症すると、ややこしくなることが多いのです……が、自らの感情をきっちり認識できているこのまま頑張ればきっと、恋とは何か、愛とは何かを理解できる日が来るでしょう」
「あなたは、間違いなくレッジ様に恋している。ですが、それが人と人との"愛"につながるかどうかは、あなたの想いの強さや行動にかかっています。因みにわたしの恋人は昔は戦場で流れる敵の血、今はこの仕事ですので、レッジ様のことを好きになることは決してないでしょう、悪しからず」
「べ、別に求めてませんよ、ははは」
何もしてないのに振られた気分だ
ヴァンテーヌさんの言う、『想いの強さが愛につながる』。僕は既に経験している。
「・・・私の、想いは・・・レッジ・・・」
「ん、なんだ?」
「・・・わたし、レッジのこと好きになりたい・・・」
サシャの顔は、ほんのりと赤く染まっていた。
「サシャ……わかった、頑張れよ」
「・・・うん・・・」
そういって彼女は、僕を抱きしめる腕の力を強くする。
「・・・疲れた・・・」
「サシャがこんなに話すなんて、珍しいもんな」
「・・・でも、レッジと話しをしていると、楽しいから、いい・・・」
そうして再び歩きだし、間も無くサシャの寝泊まりしている部屋の前に着く。サシャを優しく床に降ろしてやる。
「・・・レッジ、ちょっと待ってて・・・」
「ん? いいぞ」
言われた通り扉の前で待つ。
彼女はそのまま自分の部屋に入り、何かをごそごそと探している。
そして持ってきたのは、一冊の本だった。
「これは?」
「・・・日記・・・」
「日記?」
「・・・まずは、恋愛レベルを上げる。孤児院にいた時、交換日記というものがあると耳にしたのを覚えていたから・・・」
「ふーん、わかった。やってみようか」
僕はその本を受け取る。表紙には、可愛い絵が書いてあって……って、この絵の中で見たことがあるぞ?
あっ! あの絵本の絵柄だ!
「サシャ、もしかして、絵を描くのは得意?」
「・・・うん。ちなみにレッジの部屋にある絵本は、わたしが書いた・・・」
「やっぱり……」
ということは、あの絵本はもしかしてミオンが作らせたってことか?
あんな内容のものを作らせるなんて、本当に一体何を考えているんだ。
「・・・日記は毎日交換できる。これからは、わたしがレッジの秘書長だから・・・」
口調がドヤ顔だ。
「そうだな、わかった。よろしくたのむ、サシャ秘書長」
「・・・了解・・・それじゃ・・・」
「ああ、おやすみ。ヴァンテーヌさんも」
「はい、おやすみなさいませ、レッジ様」
さて、サシャの想いはどこまで進化するのか。ミオンとの関係がギクシャクしないか不安でもあるが、同時に楽しみでもある。
あれ?
僕、客観的にみたら本命のほかにキープを作ろうとしているクズ男なんじゃ……




