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二十話

 

 更に数日後、僕は自室のベッドでゴロゴロしながら、考え事をしていた。

 ミオンのサシャに対する態度についてだ。


 何故、わざわざ他人の恋心を煽ろうとするのか?

 今の僕にはまだ理解できない。


 なお、そのサシャはヴァンテーヌさんの元で一から礼儀作法や事務処理の仕方を学んでおり、またアナステはミオンとともに書類作りに勤しんでいる。まずは孤児を保護する団体の創設から、国に上奏しなければならないからだ。

 

「僕が恋人じゃ不満だとか? まさか、そんなことはないとおもいたい」


 それに僕自体、ミオン以外の女性と付き合う気は無い。たとえ、ミオン以上の美人で金持ちの女性から言い寄られても、この滾る気持ちに勝ることはできないだろう。


「サシャは確かに可愛い」


 白い肌に銀色の髪、それに青い目。身長も小柄で、いけない嗜好の人達ならば我先にと飛びつきそうな見た目ではある。


「だがそれは妹的な、世話を焼きたくなる可愛さであって、女性的な魅力とはまた別なんだよなあ……」


 それに、サシャが興味があるのは、魔法だけだと本当にそう思っていたのだ。ミオンのことを疑うわけでは無いが、寂しいと言ったり、抱きついてきたりするのも、僕のことを兄貴分と思っての行動じゃ無いのか?

 年齢も11歳も離れている。人生経験も違うし、男女の性差関係なく世代の持つ感性も違う。自分で言うのもなんだが、よく聞く大人のお兄さんのことをかっこよく感じるアレを勘違いしているだけだと思う。


 7年間一緒に居たわけだが、サシャが僕にべったりするようなことは一度もなかったので、この前からの行動には正直驚いている。が、果たしてそれが本当に恋するが故のサシャなりの表現なのかはわからない。

 わざわざ聞くわけにもいかないし……だから、サシャがいなくなった後、内緒話のようにミオンは言ったのだろう。


「はあ、女心ほど扱いが難しいものはない。まるで秋の空だ」


 移ろいが激しいものほど輝く一瞬はより目立つ。


「本でも読むか」


 ミオンに買ってもらった本棚から、これまたミオンに買ってもらった本を適当に選ぶ。


 僕も、少しはヒモらしくなってきたかな?

 世間体とか、プライドとか、他のものがその分失われている気がするけど……今更だし、今の僕には必要のないものだ。ミオンと一緒に居れればそれでいい。


「ん、これは?」


 本棚の下の方に、幾つの絵本が置いてあるのを見つけた。


「この絵本……」


 その中の一つ、『ぼくと幼なじみと女のこ』。

 表紙に男の子が1人と女の子が2人描かれており、男の子の両腕を互いに引っ張り合っている。


「……少し読んでみるか」


 なんとなく、今の状況との既視感を覚え、手に取りソファに腰掛ける。


「なになに----」



『ある村に、男の子と女の子がすんでいました。

 ぼくくんとあたしちゃんの2人はなかよしでいつもいっしょ。

 あそぶときも寝るときも、ごはんを食べるときも、かたときもはなれることはありませんでした』



「ふんふん、まあここまではよくある話だよな」


 次のページをめくる。



『そんな2人はある日、町へと出かけました。

 たくさんの人に、たくさんのものがあふていて、お互いに目をかがやかせながら歩きまわります』



「そういや僕たちも昔、教会に啓示を受けに行った帰り、町中を見て回ったっけ。楽しかったなあ」


 僕の好きな思い出の一つだ。



『そんなとき、1人の女の子が広場のいすにすわっているのを見つけました。

 2人は声をかけます。

「ねえねえ、なにしてるの?」

 とあたしちゃんが聞くと、女の子はしょんぼりとした顔で、

「お友だちがいないから、ひまなのよ」

 と答えました。

 2人は顔を合わせてうなずき合います。

「じゃあ、ぼくたちとあそぼうよ!」

 女の子は、とたんにえがおになりました』



「いい話だなあ」



『3人はすぐさまなかよくなり、2人が町に出かけた日には必ず遊ぶようになりました。

 女の子も、2人の村へあそびにくるようになりました。

 しかし、こうして時がすぎていったある日、そのかんけいはおわりをむかえたのです』



 ん? 雲行きが怪しくなってきたぞ……



『あたしちゃんは、ぼくくんをあそびにさそおうとしましたが、見つかりません。

 仕方なく、1人で町に出かけると……そこで、見てしまったのです。

 たてものの陰で、2人が口と口を合わせているしゅんかんを!』



「ええっ、そりゃ大変だ。もちろんあたしちゃんは怒るんじゃないか?」


 僕は恐る恐る次のページをめくる。



『「なにしてるの!」

 あたしちゃんは2人にせめよります。

 すると、町の女の子は言いました。

「早いものがちよ!」

 あたしちゃんは、上からめせんでわらう女の子に、げきどします。

「なんですって!!」

 ついに、女の子2人はケンカをしはじめてしまいました。

 すると、すぐにぼくくんが2人の間にはいり、こう言いました。

「2人とも、ケンカはやめてよ!」

 女の子がぼくくんに言います。

「わたしとあたしちゃん、どっちにするの、いまこの場で決めて!」』



「いや、これ絵本だよな……? ドロドロすぎるだろ」



『「わたしよね?」

「いいえ、わたしよ」

「ちょっと、いたいよ、やめてよ!」

 女の子に右と左りょうほうのうでを引っ張られるぼくくん。

 耐えられなくなったぼくくんは、ついに、こう言いました。

「わかったよ、ぼく、どっちとも付き合うから!」』



 いや、なんでそうなるんだ、色男にも程があるぞ、ぼくくん。

 っていうか、そもそも子供になんて決断させてんだよ、親はなにしてんだ?



『「ほんとう?」

「やった!」

 女の子たちはよろこびだきあいます。


「ぼくくん、大すき!!」


 そうして、恋人どうしになった3人は、なかよく暮らしましたとさ。


 おしまい----』



「えぇ……オチが酷すぎるだろ……」


 裏表紙には、2人から頬にキスをされて喜んでいるぼくくんの絵が描いてある。


「なんか、読んで損した気分だ」


 いや、ないない。僕が好きなのはミオンだけなんだから。それに、二人の女の子と付き合う甲斐性もないしね。


「はあ、余計と訳が分からなくなってきた……」




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