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十九話

 

「ミオン、なにを言ってるんだ?」


「えっ」


「・・・レッジの、秘書?・・・」


 斜め上の提案だ。僕の秘書だなんて。そもそも、ヒモになってダラダラ生活をしているだけの人間に、秘書が必要なのだろうか?


「あなたの攻撃魔法を極めたいって考えはわかるわ。確か、炎系の攻撃魔法系神能使いだったわよね?」


「・・・そう・・・」


 サシャは炎を使って敵を燃やすことに特化している。

 そういう点では、氷系の使い手のヴァンテーヌさんとは正反対だ。


「実は、ヴァンテーヌが有名な冒険者だったことは、私知らなかったの」


「そうなのか?」


 雇用主なのに、過去のことを調べてないのか。


「ええ。ヴァンテーヌとは、ある街の酒場で働いているところを見つけて、拾い上げたのが初めて。それまでなにをしていたかは私は興味がなかったから、聞かなかったの。けど、私の"カリスマ"が反応していたのよ、この人は必ず忠臣になる、雇うべきだって」


「なるほど、神能の力で見極めたのか」


「私の勘通り、立派な働きを見せてくれている。感謝しているわ」


 ミオンはヴァンテーヌさんに笑いかけた。


「私の方こそ、素晴らしい主人の許に使えることができ、幸せです」


 いつもの通り無表情だが、声色が心なし喜んでいるように聞こえる。


「ヴァンテーヌが有名な冒険者で、その人から技術を学びたい。属性は違っても、得られるものは沢山あるし、間違った考えでは無いと思うわ。でも、今のヴァンテーヌは氷の死神ヴァンナではなく、トラペレッタ伯爵家の秘書長として働いている。なら、まずは今の彼女に学ぶべきじゃないかしら?」


「・・・一理ある・・・」


「彼女は私の護衛も務めているの。この前の素早い対応、見たでしょう? サシャさんもアナステさんを助けたいのであれば、戦闘以外にも学ぶことは沢山あるわ。秘書はいわばオールラウンダー、あらゆる事態に対応し、主人を助ける責務があるの。

 それに世界最強の攻撃魔法使いになるには、ただ魔法をぶっ放していれば良いと考えていれば、それは間違いよ。まずは、ヴァンテーヌを超えないといけないわけだからね」


「・・・ヴァンナさんを・・・」


「どっちの意味でも、私はサシャさんにレッジの秘書長についてもらうことが一番賢明な判断だとおもいます。なので、頼めるかしら?」


「サシャ、受けるのか? 別に断っても良いんだぞ。僕と一緒にいても、ほとんどはただ自室でダラダラ過ごしているだけだし」


 秘書になってなにもすることがないのであれば、冒険者を続けたほうがいいと思うが。


「その点は大丈夫よ。しばらくは、ヴァンテーヌの下で働いてもらうから。要は肩書きだけ与えようって話。肩書きには責任が伴う、まずはそのことについてしっかりと学んで欲しいから」


「・・・わかりました、受けます・・・」


 サシャは、大きく頷き、答える。


「そう、良い返事が聞けて嬉しいわ!」


 ミオンはサシャと握手をした。

 これで決まりか……まあ、形だけなら、別にいいかな。


「アナステさんも、よろしくね。まずは、細かな打ち合わせをするから、あとで私の執務室に来て欲しい。良いかしら?」


「はい、お願いします」


「それから、2人とも。今のこの瞬間から、私の部下ということになるから、その点だけきちんと意識しておいてね」


「畏まりました」


「・・・了解・・・」


「サシャさんはヴァンテーヌに任せるわ。大丈夫だわよね?」


「仰せのままに」


 ヴァンテーヌさんは臣下の礼を取る。


「アナステさんとレッジはこのまま残って。2人は行っていいわよ」


「畏まりました。では。サシャさん、付いてきてください」


「・・・はい・・・失礼します・・・」


 2人が応接室から出て行った。


「あの、何か?」


 アナステが不安そうに聞く。


「ねえ、サシャさんのことなんだけど。彼女、レッジのことが好きなんじゃないの?」


「はあっ!?」


「え?」


 いきなりなにを言いだすかと思えば。荒唐無稽だ。


「ミオン、そんなわけないだろう。サシャが興味あるのは魔法のことだけだ。それに、まだ16歳なんだぞ?」


 ちなみにアナステは20歳だ。いつぞや言っていたが、サシャは妹分なのだそうだ。


「そんな、サシャとは同じ孤児院で育ち、冒険者生活も共にしてきましたが、男性に興味を持ったそぶりを見せたことは一度もありませんでしたよ?」


「でも、サシャさんはレッジのことを気に入っているようだわよ? この前、レッジに抱きついたことがあったでしょ」


「ああ、あったな」


 百貨店での話か。


「そんなことがあったんですか? レッジさん、変なことしてないでしょうね」


 アナステはジト目で僕のことを見てくる。


「し、してないよ、本当だ」


「あの時、レッジに会えなくて寂しいと言っていたわ。それに雰囲気も、友達と会えなくて悲しかったというよりは、気になる異性に会えて嬉しいという感じだったし」


「そうかなあ?」


 サシャは全然感情を表に出さないから、わからなかった。7年間も一緒にいた僕でもわからなかったのに、よくわかるな。


「職業柄、そういう見極めは得意なのよ。交渉には絶対に必要な能力だからね。というわけで、アナステさん。しばらくこの家にいて、サシャさんの想いをそれとなく探ってみてくれないかしら?」


「え? でも、伯爵様はレッジさんの恋人なのでは……それに、個人的にも出歯亀みたいな行為はあまり好きではありません」


「大丈夫大丈夫。私の見立てでは、サシャさんが自らの恋心に気づくのはそう遠くないわ。それに、親友の恋愛を応援するのは嫌? レッジが相手じゃ不満かしら?」


「そ、そういうわけでは……」


「じゃあ決まりね」


 だがミオン、一体なにを考えているんだ?

 自らの恋敵を作るような真似をするだなんて、おかしいぞ……



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