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十八話

 

「ミオン、帰って来たのか」


 ヴァンテーヌさんも一緒だ。


「ええ、ようやく交渉がまとまったわ。で、ステイヤンから客が来てると聞いたから、まさかと思って急いでここに来たのよ……こんばんは、2人とも」


「これは、伯爵様。こ、こんばんは」


「・・・どうも・・・」


 アナステは立ち上がり、礼をする。

 しかしサシャは僕に引っ付いたままだ。あれ、これ誤解されたりしない?


「あらあら、モテモテですなあ、旦那」


 杞憂だったようで、ミオンはニヤニヤしながら僕たちのことを眺める。


「いや、違うんだ。これは」


「わかってるわよ。やはりサシャさんあなた……」


「・・・?・・・」


 ミオンはサシャと反対側の僕の左隣に座る。


「それで、話はどこまで進んだの?」


「えっと……」


 先程までの話を、かいつまんで説明した。


「ふーんなるほどねえ。あいつらの方こそ、クズね。レッジなんて夜でも私にどれほど優しくしてくれるか」


「おい、ミオン」


「よ、夜……」


 アナステは顔を赤くしてしまった。


「・・・どういう意味?・・・」


 一方のサシャはよくわかっていないようだ。


「私とレッジは恋人なのよ」


「・・・それはわかる。優しくするのは当たり前では?・・・」


「サシャさんは相当な初心のようね。逆にアナステさんはどこで知ったのかしら?」


「あぅ」


 こいつ、絶対に面白がって言ってるだろ。


「恋人同士の夜っていうものはね……ごにょごにょごにょりん」


 と、サシャの耳元で詳しく説明するミオン。


「・・・!?!?!?・・・」


 話を聞いた途端、サシャも顔を真っ赤にし、僕の体からババっと離れた。


「あはは。わかったかしら?」


「さ、サシャ?」


「・・・えっち・・・」


 赤い顔で上目遣いをする。なんか可愛いな、いつもは全然感情を顔を出さないのに。

 サシャはアナステの横に座りなおし、クッションを両腕で抱きしめた。


「で、その条件っていうのはなんなのかしら?」


「は、はい。こほん……伯爵様、お願いします。私に、孤児院のアレコレを任せて欲しいのです」


「というと?」


「人、建物、内容。全て私が中心となってやりたいのです」


「それは、私にお金だけ出させて、後はアナステさんが主導する。そういうことでいいのかしら?」


「失礼なことは承知の上で。ですが孤児に必要な養育環境は、わかっているつもりです。お世話になった孤児院は、ただの収容所ではなく、孤児一人一人のことを考えてくれていました。ですから、私もこうして冒険者をやれているのです」


「孤児にしかわからないことがある、と言いたいわけね」


「平たく言えば、ですが」


「ふーむ」


 と、ミオンは考え込む。孤児院を経営するには、沢山のお金が必要だ。人の命を預かるため、失敗した時のリスクも高い。商人として、投資すべきかどうか判断が難しい案件なのは当然だ。


「よし、わかったわ。でも、こちらも条件があります」


「な、なんでしょうか?」


「そう堅苦しい話じゃないわよ。私が選んだ数人を、あなたの補佐につけさせてってだけ。もちろん、他の人選は全てお任せするわ。でも、この数人はあなたの監視役兼財務状況監視役をしてもらうの。もし、何かあれば私に全て報告が行くし、経営に失敗したと判断されれば、その時点で団体は私の直接管理下に置かれる。どう?」


 なるほど、もしもの時はアナステの意思に関係なく、ミオンが経営に当たるというわけか。それならば、いざという時のストッパーとなる。ミオンが選ぶ人間ならば、変なことはしないだろう。


「はい……そういう条件でしたら、理解できます。私がその団体を私物化したり、表では良いことを言って裏では孤児にきつく当たったり、そういうことをしないか見張るということですね」


「わかっているようね。幾らレッジの知り合いであって、強い信念を持っていようとも、完全に信用するわけにもいかないし、まだあなたはなんの信頼も勝ち取っていない。

 それと、申し訳ないけど、レッジに対する今までの態度は私は許していないの。あなたなりに自分の生活を守る為、仕方なくやったのかもしれない。けど、レッジは私がこの世で一番大切な人なの。その人のことを傷つけておいて、やすやすと許すほど私はお人好しではないわ。同じ女なら、わかるわよね?」


 ミオンは後半についてはかなり厳しめの口調で言った。それだけ僕のことを想ってくれているということか。


「はい……そのことについては、再度謝らせていただきます。レッジさん、誠に申し訳ありませんでした」


 そう言って、アナステは深く頭を下げる。


「さっきも言ったけど、僕はもういいんだ。結果として、冒険者生活に見切りをつけられたし」


「だそうよ。アナステさん、頭を挙げて。なにも許されるまでひたすら謝ってって言ってるわけじゃないのよ。あなたがそれほど大切にする孤児院と孤児への想いを、働きをもって証明して見せてって話。今は難しいことであるけど、いつかは分かり合える日が来るはず。その日まで、精一杯働いて」


「はい。あの、本当にありがとうございます!!」


 アナステは再度、頭を深く下げる。


「サシャは、どうするんだ?」


 2人で話し合ったと言っていたが、アナステについて行くつもりなのだろうか?


「・・・私は・・・ヴァンナさんの弟子になりたい、です・・・」


「私の、ですか?」


 壁際に立っていたヴァンテーヌさんが反応する。


「なるほど、そうきたか……」


 ミオンは再び考え込む。


「……わかったわ」


 そして、頭をあげ、こう宣言した




「サシャさんを、今日付けでレッジの秘書長にします!」




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