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十六話

 

「・・・え? ・・・」


 サシャは驚き目を見開く。


「私のもとで働かない? 勿論、その分レッジのそばに居られるわよ」


「おい、ミオン。サシャは冒険者なんだぞ? それに、この店に来ているってことは、それだけ稼ぎがあるってことだ。僕が抜けてからパーティの調子が良くなったと考えるのが妥当だな。わざわざ軌道に乗ってきた仕事を辞めるわけがない」


 少なくとも、僕が居た当時は、こんな店に来られるほど稼いでは居なかった。一人抜けてそれぞれの取り分も増えたろうしな。


「どうなの、サシャさん。冒険者を続ける? それとも、伯爵家の家臣になる?」


「・・・わたしは・・・」


 サシャは僕の顔とミオンの顔を交互に見ながら、口元をもごもごさせる。


「--サシャ!」


 と、そこにアナステが走ってきた。


「なにしてるの、行くよ!?」


「・・・えと・・・」


 サシャはさらに彼女も含めた3人をチラチラと見、どう返事をするか迷っているようだ。


「返事は待つわ。もし、受け入れてくれるのであれば、私の屋敷を訪れなさい。しばらくはこの王都にいるのでしょう?」


「・・・・・・」


「レッジさん、なんの話をしていたんですかっ?」


 アナステが僕を睨む。


「いや、その……」


「勧誘していたのよ」


 ミオンは隠す気がないようで、堂々と引き抜きを打ち明けた。


「勧誘?」


「私のもとで働かないかってね」


「えっ。そんな、サシャは大事なパーティメンバーであり、私の親友でもあるんです! 勝手なことをしないでください! 貴族様だからって、なんでも思い通りになるとは思わないほうがいいですよっ」


 アナステはミオンに対して敵対心むき出しだ。


「私はその人の持ちうる力を最大限に発揮させてあげたいだけ。別に貴族だからというわけじゃないわ」


「・・・わたしの力を・・・」


「伯爵様、私達にはそれぞれやるべきことがあるのです。冒険者をやっているのもその為。今、冒険者をやめてしまったら、それが叶わなくなってしまいます」


 アナステ、まだあの夢を諦めてなかったのか。


「知っているわ」


「えっ?」


 ミオンが言う。


「あなた、孤児だったんでしょ」


「な、なんでそれを……!」


 そう、アナステは孤児であり、ある夢を叶えるために沢山のお金が必要な為、ずっと冒険者を続けている。


「サシャさん、あなたも」


「・・・なんでもお見通し? ・・・」


 サシャも同様、アナステと同じ孤児院におり、幼い頃からの親友なのだと以前嬉しそうに語っていた。要は僕たちと同じく幼馴染な訳だな。


「だ、だからなんだと言うのですか? 人は生まれる環境を選ぶことはできません、だから私は」


「孤児を救いたい。違うかしら?」


「そんなことまで……レッジさん、あなた喋ったんですね?」


 アナステは一瞬たじろぎ、僕のことを先ほどよりも険しい表情で睨みつける。


「えと、その……ごめん」


 王都に来るまでの馬車の中で、冒険者時代のことを詳しく話すなかで、パーティメンバーのことも紹介していた。


 --アナステの夢とは、孤児院を建てること。

 自らの生まれた孤児院に仕送りをしつつ、将来は各地に孤児院を建てて回るつもりなのだ。そのために、頑張ればその分だけいくらでもお金が手に入る冒険者を続けている。


「その通り、人は生まれる親も土地も選ぶことはできない。中には厳しい環境で幼い頃を過ごさなければならないものもいる。でも、その環境は周りの人間の手で変えることができるわ。偽善と言う人もいるかもしれないわね、実際孤児を一人残らず救うことなんてたとえ国王であろうともできないわ。でも、出来る範囲で全力を尽くしたい、あなたのその姿勢はなにも間違ってはいない」


「…………」


 アナステは、思いがけないところからの援護に動揺している。


「わ、私は……」


「ならこれはどうかしら、私があなたのその想いの強さに対して全面的に援助するわ。お金も土地も、人もね。あなたは私の設立する団体の代表になる。あなたがやる気を出している間は、なにも惜しむところは無いわ」


「援助を?」


「勿論、私の商人としてのルートも駆使してよ。なんなら学校運営に手を出したっていい。ちょうど、貴族としてもう少し頑張らないといけないと思っていたところだし。法衣貴族の世界にも色々あるのよ」


 たしかにミオンの力ならば、出来ないことではなさそうだ。


「それに、あの自分がこの世界の主人公だと思ったそうなキザったらしいリーダーと、見るからに荒くれ者な格闘家のことも、あまり好きじゃないでしょ」


「でも……うう、し、失礼します!」


「・・・あ〜れ〜・・・」


 サシャの手を引っ張り、下の階へと降りてしまった。


「アナステっ」


「はあ、なかなか首を縦に振らなかったわね。私の見立てでは、きっと承諾してくれるはずだったんだけど」


「ミオン、無理強いをしたらダメだろう」


「いいえ、違うわ。サシャは間違いない、あなたのことが好きなのよ」


「はあ? なにを言ってるんだ、そんなわけないじゃないか。サシャが興味を持つのは、攻撃魔法で敵を倒す快感なんだ」


「それも知ってるわよ。あなたが話してくれたじゃない」


「そりゃ、そうだけど」


 サシャの持つ夢は、この世に存在するあらゆる魔物を一撃で倒せる攻撃魔法を使えるようになること。ああ見えて結構戦闘狂で、魔物を倒すときには率先して攻撃魔法を放っていた。


 神能は神からの啓示によって与えられるものであるが、その後の努力によって使える能力を伸ばすことができる。

 攻撃魔法の場合は、その人の持つイメージ力や魔力に左右されるが、極めればサシャの夢も叶えることができるだろう。


 僕はそう言うところにも、人の可能性というものを感じている。本当は、神能によって人を区別することがないような世の中になって欲しいのだが……


「とにかく、あの二人には是非私の力になって欲しい。"カリスマ"がそう反応しているのよ」


 ミオンのカリスマの神能は、人を惹きつけるだけではなく、その人のポテンシャルも見極めることができるのだ。そのおかげで、部下にも有能な人間を揃えることができているという。


 サシャとアナステにも、大商会の会長が雇いたくなるような力があるというのか。

 果たして、ミオンの誘いに乗るのかどうか、その答えは割とすぐにやってきた。




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