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十五話

 

「ヒモ……? レッジ、なんの冗談だい? 流石の君でも、そこまで落ちぶれてはいないだろう」


「ヒ、ヒモ、ぷクククククっ!」


「……見損ないました」


「・・・びよよーん・・・」


 四者四葉の反応をする。サシャ、それはギャグなのか?

 アナステは目の光が消えているし。まあ、当たり前か。


「ひゃハッ、乞食より酷えや!」


「なんとでも言ってくれ。だが、僕は決めたんだ。ミオンと一緒にいると」


「ふうん、そういう関係なわけか。伯爵様も趣味が悪いね」


 こいつ、僕じゃなくミオンの悪口を……!


「おい、訂正しろ」


 ロイムの胸元を掴み、持ち上げる。


「な、なんだい急に」


「僕に対して何を言おうと、別に構わない。そもそも既にあんたらとの関係は切れているからな。だが、ミオンは違うだろう。こいつは、僕のことを思って、尽くそうとしてくれている。僕もまずはその想いに答えようと決めたんだ。それにヒモになるのは一ヶ月だけだ。その後のことはまだ何も決まっていないが、人の可能性を信じるという僕の信念は変わらない。罵倒したけりゃ罵倒すればいい、みんなに迷惑をかけ続けたことも謝る。しかし、それはそれ、これはこれだ。僕はこの件に関してミオンの悪口を言われることは決して許さない」


 ロイムは僕が反発してくると思ってなかったのか、目を見開き驚きの表情を浮かべる。僕は手を離し、リーダーを3人のメンバーの立つところへ突き返した。


「男気ぶってんじゃねえよ、クズ。ヒモって、お前自分で働きもせずに俺様が守ってやりますーってか? 甘ったれたこと言ってんじゃねーヨ」


 しかし、入れ替わるように再びクジュスが僕の目の前までやってくる。


「僕は君とは違う。言葉や物理の暴力で人を傷つけはしない」


「偉そうなこと……言ってんなヤ! シネ!」


 クジュスがノーモーションで本気の蹴りを繰り出してきた!


 あ、これ死んだな----




「----お静かにお願い致します」




「ヴァンテーヌさん!?」


「ヴァンテーヌ、あなた……」


 と思ったがその瞬間、なんとヴァンテーヌさんが目の前に現れ、クジュスの蹴りを片手で受け止めてしまった!


「なっ! このアマ……!」


「そのような言葉遣いはこの百貨店では不適切です。みなさま、速やかにお引き取り願います」


「くっ、なんで、動かねえンだ?」


 クジュスが必死に足を引こうとしているが、手で固定されている方だけでなく、床についている方の足も全く動かすことができないようだ。一体どうなっているんだ?


 ん? よく見ると、足元にそれぞれ薄い氷が張っているのがわかった。なるほど、凍らせて張り付かせたわけか。余程強力な神能みたいだ。


「ヴァンテーヌ……氷……あっ!」


 アナステが叫ぶ。


「も、もしかして、氷の死神、ヴァンナさんでは!?」


 その名前は聞いたことがあるな……


「死神? ……ああ、そういうことか!」


 わかったぞ!


「なに、レッジ何か知っているの?」


「ああ勿論、冒険者をやっている者ならば、誰でも知っているさ。どんな敵でも一撃で倒してしまう、氷の神能使い、ヴァンナ。僕が冒険者を始める結構前に引退したって聞いていたけど、まさかそれがヴァンテーヌさんだったとは……」


「こんなのデタラメだ、なにが氷の死神だっ! こうして、こつして、アレ、なんでなんだよォ!」


「デタラメなのはあなたの方です、全然なっていませんね」


 クジュスは諦め悪く、両手でそれぞれパンチを繰り出したが、ヴァンテーヌさんが足を持つとは反対の手で瞬間的に張った氷の膜にあたり、足と同じく張り付いてしまった。これにより、クジュスは完全に四肢を拘束された。


「凄い……」


「・・・尊敬する! ・・・惚れ・・・」


「そんな、引退したはずの無能な冒険者が、伯爵のヒモで、しかもその伯爵のお供が伝説の冒険者だったとは……はは、はははは! 下手な子供向けの絵本より、よっぽどおかしな話だ!」


 ロイムは高笑いをやめない。


「はあ……わかった、わかりましたよ。みんな、帰ろう。家具は他の店で買えばいい」


「はい……」


「わかればいいのです」


 ヴァンテーヌさんはそう言って、微動だにせずクジュスのことを突き飛ばした。一体どんな技なんだあれは。ワクワクするぞ!


「くそが、覚えてろヨォ!」


 3人は下の階へと逃げ帰って行った。




 あれ? 3人?




「・・・あの、サイン・・・」


「はい、どうぞ」


「ちょ、サシャ、なにしてんの。それにヴァンテーヌさんもなんで普通に答えてんの……」


 サシャは何故か一人残りヴァンテーヌさんに厚紙を手渡し、サインを書いてもらっていた。


「・・・同じ攻撃魔法系神能使いの頂点の一人。貰えるものは貰っておく・・・」


「そ、そうか、うん」


「ファンサービスは大切なことです。こういう小さな積み重ねが、巡り巡ってミオン様の元へ帰ってきますから」


 マイペースすぎるだろ、仲間に置いていかれてるんだぞ?


「・・・じゃ・・・」


「お、おう」


 サシャは大事そうに色紙を抱きしめながら、ホクホク顔で帰っていく。


「ちょっと、あなた」


 が、ミオンが帰ろうとしたサシャの前に立ちはだかった。


「・・・なんですか・・・」


「本当のところ、レッジのことどう思ってるのよ? 好きなの、嫌いなの、それともどうでもいいただパーティが一緒だっただけの存在?」


「おいミオン、やめてくれ。この場はもう収まったはずだ」


 だが、サシャはそれに応じるよう、こちらに振り向いて返事をした。


「・・・世間知らず・・・穀潰し・・・」


 だろうな、今更聞いてもどうしようもないことはわかっていたさ。

 ミオンはなにがしたいんだ。


「ほら、前にも言っただろ。パーティのみんなからは嫌われているんだ、だからもういいんだよ」


 今更僕の評判なんてどうでもいいのに。


「あなた、私たちを目の前にして、堂々と言うのね? 私の力を使えば、処罰を与えることなんて簡単なのよ?」


「おい」


「冗談よ。本当にそれだけ?」


「・・・実は、頑張り屋さん。パーティの雑用を引き受けてくれていたし、あの二人と違って私たちへの気配りもできる。個人的には、嫌いじゃない・・・」


 サシャが珍しく、長めにしゃべっている。ミオンの"カリスマ"の力なのか?


「でも、あの時一緒になって……」


「・・・ごめんなさい。でも、クエストの貢献度や稼ぎから考えたら、穀潰し同然だったのは本当。思ったことを言っただけ。そしたら、本当にいなくなっちゃったから・・・寂しかった・・・」


 サシャはそう言って、なんと僕に抱きついてきた。


「ちょ」


「ふーん、そう言うことねえ……」


 ミオンは口元に手を当て、なにやら思案している。


「ねえ、あなた」


「・・・はい・・・」


 そして僕の胸元に顔を埋めるサシャの隣に立ち、こう言った。


「私の部下にならない?」




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