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十三話

 

「本当にすごい街だ、王都というところは……」


「どうしたのよレッジ、そんな哀愁漂わせて」


「いや、ちょっといってみたかっただけだよ」


 翌日、朝から僕たちは王都観光へと出かけた。馬車はもちろん伯爵家の紋章付き。ここに来る時になったものよりは控えめだが、それでも十分貴族様の馬車だとわかる。

 あと、何故か秘書長のヴァンテーヌさんも一緒だ。


「これが私の仕事ですから」


 とは彼女の談。

 監視されているような気がしなくもないが……私の存在は空気だと思ってくださいと言っていたから、そうさせてもらおう。

 ミオンも何も言わないし、貴族にとっては観光の時も秘書が付いてくるのが当たり前なのかな?


「まずは、中央道にあるお店から見ていくわよ」


「ああ、頼んだ」


 馬車は貴族街を抜け、商業区画へと向かう。


「それにしても、全面ガラス張りのお店がこんなにたくさん……違う世界に迷い込んだみたいだ」


 純度の高い透明ガラスの奥には、商品が飾られている。

 台座の上に置かれた宝石、人型に服を着せている店や、果物を立体的に並べて興味を引くようにしている店もある。


「あれはショーウィンドウって言うのよ。因みに広めたのは私」


「そうなのか? 流石だな。どうやって思いついたんだ?」


「色々な貴族の邸宅を見て回るうちにね。高級品って、だいたい見えやすい置き方をして、自慢するように飾ってあるからね。普通の商店は、同じ品物を所狭しと並べているけど、ごちゃごちゃして見栄えは良くない。だから、どのような商品があるのかをわかりやすく、かつ高級感溢れるように飾ればいいのではと思いついたのよ。まあ、スペースに限りがあるから、大抵はオススメ商品や売り出したい商品を押し出しているんだけどね」


「確かに、一つ一つの商品が目に入りやすいな」


「特に服なんかは、季節のものや流行の柄を飾れば、それだけお客さんの目にとまる。アクセサリーも同じね。神能の力を借りて腕利きの盗賊も破れないようにしてあるから安心だし」


 こういうところでも、神能が活かされているのだな……


「さあ、付いたわ。ようこそ、ミオン商店王都本店へ!」


「ここが、ミオンのお店……」


 馬車は中央道に並び立つお店の中でも、ひときわ大きな建物の前で停車した。ざっと見た感じ6階建のようだ。横幅も広く、入り口も四箇所設けられているほどだ。

 人の出入りも激しく、入店する人は品物との出会いを期待するような表情で、出てくる人は紙袋をぶら下げホクホク顔だ。


「これも私が考え出した形態なんだけど、百貨店って言うのよ。文字通り、様々な品物を取り扱っている総合商店なの。勿論1階から6階まで、全部私が経営しているお店」


「はえー」


 馬車を降り、その百貨店を見上げる。外観は煉瓦造りで、一回の入り口部分だけ全面ガラス張りになっていた。

 入り口にはそれぞれ店員が立っており、出入りするお客さんに挨拶をしている。


「さあ、行くわよ」


 ミオンの先導で、百貨店へ足を踏み入れた。


「こ、これは、ミオン様! それにヴァンテーヌさんも……そちらの男性は?」


 と、入ってすぐに、頭が寂しくなっている一人の男性が駆け寄ってきた。


「あら、店長じゃない。レッジ、紹介するわ。ここの百貨店を取り仕切っている、店長のボナンケーモよ。この人は、私の幼馴染のレッジ」


「左様でしたか、初めまして、レッジ様。私、ミオン様からこの百貨店を任されております、ボナンケーモと申します、よろしくお願い致します」


「どうも」


 互いにペコペコと頭を下げる。やたらと謙ってくるので、少しやりにくいな。


「ボナンケーモ、今日は私の故郷からやってきてくれたレッジに王都を案内しているの。私が直接するから、あなたは自分のやるべきことをやっておいてね」


「そういうことでしたら……失礼いたします、ごゆっくりどうぞ」


 ボナンケーモさんは腰を低くして去っていった。


「はあ。腕はいいんだけど、なんかへこへこし過ぎてやりにくいのよね」


「あ、ミオンもやっぱりそう思う?」


「まあ、多少変な人でも、仕事ができれば問題はないから、いいのよ。それより、1階から順に案内するわね。1階は雑貨屋なのよ。あらゆる日用雑貨が取り揃えられているわ」


「へえ、そりゃ楽しみだ。じゃあ、行こう」


 彼女に連れられて、店を見て回る。ヴァンテーヌさんもちゃんとついて来ているよ?


「食器に調理器具、掃除用具に置物、本当に色々あるんだな。しかもどれも高そうだ……」


「この百貨店は、平たく言えば金持ちがターゲットなのよ。彼ら彼女らは細かいものまで、耐久性に優れ安心して、また人にも見せられる見た目の高級品を欲しがるからね」


「なるほど、確かに中央道を歩く人たちも、お金持ってそうな人多いもんな」


「ショーウィンドウは、そういう人たちに清潔なお店という印象を与えることもできる。このお店も、外観はがっしりした煉瓦造りで、でも入り口はガラス張りで店の中まで自信を持って見せることができる透明感を演出しているのよ」


 お店の設計って、色々と考えられているのだな。ただ箱を立ててものを置けばいいってもんじゃない、その層に合わせた店の作りが大切なんだ。


「そろそろ二階に行きましょうか?」


「そうだね。上には何が?」


「家具屋よ。ついでに、欲しい家具があったらなんでも言ってね? レッジは私のヒモなんだから、お金に関しては本当に遠慮せずに言ってくれていいから」


「まあ、そうなのかな……」


 一ヶ月はヒモになってみるって決めたんだから、決めた以上はヒモらしくした方がいいか。でも、やっぱり未だにヴァンテーヌさんから圧力を感じるような……


 僕たちは階段を上り、2階へ上がった。




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