十二話
「すごい豪勢な食卓だなあ……」
食事に呼ばれた僕は、一階にある食堂に呼ばれた。
部屋の大きさに合わせたように、長い机が配置されており、それだけで1年間の食費が稼げそうなテーブルクロスがかけられている。
左右それぞれ10人分の椅子が置かれ、その上に贅の限りを尽くしたような食事が並べられていた。
机にはキャンドルや花など、食事の場に雰囲気をもたらすアレコレが置かれている。
そして上座には、既にミオンが座っていた。
「今日だけは、ここで食べましょう。明日からは、あの部屋で食べてもらって構わないから。さあ座ってちょうだい?」
「そういうことなら……どこに座ればいいんだ?」
合わせて22席もあるのだが。
「勿論ここよ?」
ミオンは、自分の右隣の席を指した。
「失礼します」
「あ、すみません」
と、すかさず窓際で待機していた執事の一人が、僕の椅子を引いてくれた。
「こんなにたくさんの食事、食べられないよ……?」
「大丈夫大丈夫。あとで使用人達が食べるのも含まれてるから。それに、再開できた記念を祝いたくてね」
「そうか……ありがとう、ミオン」
「んーん、私の気持ちだから、遠慮しないでね?」
「そういうことなら。いただきます」
「はい、どうぞ。あ、マナーとか全然気にしなくていいから!」
「それは助かる。冒険者やってると、食べ方なんて二の次だったからな」
僕はとりあえず目に付いた料理を小皿に取り分ける。
一方、ミオンはメイドさんにあれこれ指図して取り分けさせていた。
これも貴族のマナーなのだろうか?
「うん……うまい!」
野菜、肉、さらには魚まで。片手では全然数え切れない、様々な料理が用意されているが、そのどれもが逸品だ。
味付けも素材の味を生かしたもの、あえて濃くしたもの。口に含むたび、料理人の食べる人にとことん喜んでもらうという思想が見えてくるようだ。
「うふふ、お口にあったようで何より。あとで料理長に伝えておくわ」
料理長は恰幅のいい口元にヒゲを生やした男性だ。この屋敷では料理長含め7人の料理人が雇われている。使用人の食事を作るのも全て彼らの仕事だ。
「本当に美味しいよ。今まで冒険者をやってきたけど、クエスト先ではいつもは干し肉か、街に帰っても酒屋で宴会するくらいだったからなあ」
「レッジ、下戸だもんね」
「うげっ、そんなことまで知ってるのか?」
「私に隠し事はできないわよ」
「遠視の神能、便利すぎるだろ……」
一度その使い手とやらと会ってみたいものだ。
「でも、ミオンが知っていることは、その雇った神能持ちも知ってるってことだよな?」
「口封じはしてるから、大丈夫よ?」
「そういう問題じゃないと思うけど」
僕にだって、知られたくないことの一つ二つはある。と言っても今更か。
その後もあれこれと会話をしながら、食事に舌鼓をうった。
「はあ、もうお腹いっぱいだ」
左棟3階、自室へ戻った僕は、プライベートルームで休んでいた。
まだ家具は少ないとはいえ、見た目からして高級な机や椅子、クローゼット、ベッドくらいは置いてある。
ここに来て1日目が間も無く終わる。明日からは王都の案内をしてくれるらしい。楽しみだ。
だが、その前に父さんや母さんに連絡しなければ……帰郷が遅ことをきっと心配していることだろう。
--コンコン
「はい?」
「私よ」
「どうぞ」
執務の残りを片付けてきたミオンが、帰ってきた。領地持ちじゃないのに、それでもたくさん仕事があるなんて遅くまで大変だなあ。
「レッジ、私の提案を受け入れてくれてありがとう」
「いや、僕の方こそお世話になるよ」
ミオンはベッドに座り、僕もその隣に移動した。
「私が最初にレッジに提案した時の言葉、覚えてる?」
「ああ」
僕の手をそっと握ってきた。
「でも、レッジのことを見ているうちに、守ってあげたくなった。今の社会に抗おうというレッジの心意気はわかるわ。でも、通用しなかったのも事実。この世の中は、神能の良し悪しによってどうとでもできるし、なってしまうのよ」
「それは、痛いほどわかったさ……」
「私には、幸い、人を惹きつける神能があった。これは商売に活かせると思って、実際にうまくいった。だから、レッジの"投石"も、きっと上手く使いこなせるようになるわ」
「そうかな……」
パーティから追い出された時のことを思い出す。
みんなの顔は、まさにゴミを見る目をしていた。
僕の"わがまま"によって、負担をかけ続けていたことは自覚している。
あのパーティに入って7年ほど一緒に活動していたが、その間に積もり積もった結果がアレなのだ。
「だから、まずは心身を休めて、それから今後のことを考えよう? 私としては、本当に一生ヒモでいてくれても、全然構わないけどね」
「僕としては、いつかは出て行くつもりなんだけど……」
僕が一ヶ月ヒモ生活を許可したのは、ミオンと12年分の想いを確かめ合いたいからだ。でもやっぱり、一生ヒモっていうのは受け入れられないな。
「れ、レッジ」
と、彼女は瞳を潤わせ悲しそうな寂しげな顔をする。
「いや、泣き落としされても……」
ちょっとどきりとしてしまったじゃないか。
「とにかく、今後のことは生活の良し悪しにかかわらず僕自身が決めるよ。人が持つ可能性を諦めたわけじゃないし、ミオンの言う通り僕の神能にもきっとつかいようがあるはずだ」
「……余計なこと言うんじゃなかった」
と、今度は唇を突き出しすねた。
「ハハハ」
僕は頭を優しく撫でてやる。
「レッジ、私のこと好き?」
「いきなりなんだよ、好きに決まってるだろ」
「じゃあ……わかるわよね?」
ミオンはベッドに仰向けになり、両手を広げた。
「もちろんさ」
その後、慰めイチャラブをしたのだった。