決戦、そして決着
今日は三本投稿です。これは一本目です。
遥かなる上空で殺戮の神と調和の神が激突する。白を宿した光線が放たれ、黒の瘴気がそれを打ち消す。堕天使が雄叫びを轟かせ、熾天使が慈愛に満ちた輝きを放つ。
互いに妥協を許さず、更なる加速を促す。翼が羽ばたく度、二対の羽根がひらりと舞い落ちる。
飛翔の後には互いに纏うオーラの残滓が残り、黒と白の螺旋が描かれる。雷鳴轟く天空で死の舞踏が繰り広げられる。
それはある者には神秘的な物に見え、ある者には世界の破滅を予感させる物に見えた。数千年に一度の神々の騒乱に大地は鳴動し、海鳴は割れ、天空に罅が入る。
そんな天変地異の中、俺はもう周りの事など忘れ、ガルシャだけを視界に据える。そしてもう何度目かわからない攻撃を放った。
「聖天烈光」
俺の翼が黄金に光り、無数の羽根の刃となり奴に襲いかかる。しかし奴は眉ひとつ動かさず、無機質な声とともに詠唱した。
『黒夢消激』
その瞬間、奴の前に黒い渦が現れ、羽根の刃が全てそこに吸い込まれていく。そして闇を咀嚼しながら、次第にその渦が消えていく。後に残ったのは無傷のガルシャだけだった。
『人に堕ちた熾天使よ 貴様では我に勝てない』
黒に包まれた右手を俺目がけて薙ぎ払う。どす黒いオーラを纏った闇の衝撃波を、俺は光を宿した右手で払う。それぞれの攻撃が衝突し、辺りには光と闇の残り香が舞う。
「闇に呑み込まれた魔王に言われたくはないな」
俺がそう言うと、その仮面のような顔がピクっと動く。何か気に触ることを言ったのだろうか。そう思って俺は続けて畳み掛ける。
「禁術で得た魔神の力なんて、本物の女神の力には敵わない」
『······だまレ』
「所詮は借り物の器だ」
『······だマレ』
「自分の欲望に従って生命を奪うなんて魔物と変わらない」
『······ダマレ!』
そこまで言った瞬間、初めてやつの鉄仮面が剥がれ、感情らしい感情を露わにする。怒りを滲ませながら叫んでくる。
『キサマニナニガワカル!シテンシゴトキニ!』
「俺はただの熾天使じゃない。仲間の······みんなの思いを背負ってる。だからこそ、絶対にお前には負けない」
『······キサマダケハゼッタイニコロス!』
「やってみろよ。ペテン使が」
そうしてガルシャが翼を震わせて高速で俺目がけて飛翔してくる。そのまま目にも止まらぬ速さで奴の右手が振るわれる。
もちろん漏れなく闇のオーラを纏っており、直撃すれば変身した俺といえど大ダメージを受けてしまうだろう。
しかし避けることなどせず、俺は奴の拳を左手の人差し指一本で止める。それだけで渾身の一撃を防がれたガルシャは驚きを顔に浮かべ、困惑した表情で叫ぶ。
『ナゼッ······ナノダ!』
「魔神も聖神も生命と言う概念を超越した存在だ。無駄な雑念など持っていることは無い。しかし、お前は不完全な器だ。心のバランスは容易に崩れ、力は半減する」
『ダマレッ······ダマレェッ!』
そう叫びながら奴が連続で攻撃を放ってくる。しかし俺はそれら全てに反応し、防御し時には受け流す。そして一瞬の隙が出来た奴の顔面目がけて右ストレートを叩き込む。
黒い血をまき散らしながら奴が吹き飛ばされていく。そして後方にあった山の斜面に激突し、爆発が起こる。
その衝撃によって、遠くからでも視認できるほどの大きなクレーターが出来ていた。その中央で奴が痛みに呻いている。
『ガハアッ······』
「······」
俺は近づいて無言でガルシャを見下ろす。黒い翼は片方が折れ曲がり、もう片方はもげて既に存在していなかった。身体中から黒い血を流し、何か喋ろうとするが喉に血が溜まってろくに声すら出せていなかった。
最早その姿は堕天使と呼べるような見た目ではなかった。そんな痛々しい奴に向けて、俺はそっと両手を添え、トドメを刺すべく必殺技の構えを取る。
「これで終わらせる。もう誰も殺させやしない」
『グガァッ······!フザ······ケルナ!』
必死に羽根を羽ばたかせて飛ぼうとするが、片翼を失いもう片方も使い物にならない状態では何も起こらない。辺りにガルシャの聞き苦しい悲鳴が聞こえる。
『ワレハッ······コンナトコロデ······』
「消えろ。殺戮と破壊を司りし魔神よ」
それだけ告げ、俺は最後の一撃を放った。
「神魔裂空撃」
黄金の光に包まれた光線が痛みに悶えている奴に直撃する。眩い光が輝き、ガルシャを形成していた闇が浄化されて行く。
そして完全に闇が消え去った後には、元の姿に戻って息絶えているガルシャのみが残っていた。それを確認し、俺は俺を待ってくれている皆の元へ戻って行った。
その死に様に映した、清々しそうに微笑んでいたガルシャの表情は、妙に俺の記憶に残ったのだった。
突然ですが、最終回まで残り二話です。(笑)
それも含めて今日投稿します!




