魔極撃滅陣
「なるほど······私の相手は魔法使い五人か」
「そうよ。多勢に無勢とでも言いたいの?」
「いいや、そうではない。どんな事が起こるか分からないのが戦いだからな。だからこそ、全てに対応できるようにしている」
「なんか······魔族のわりに落ち着いてる人ですねー」
「魔族全てが血気盛んな訳では無い。それなりの知性を持っている物もちゃんといる。まあ······闘争心は共通だがな」
そう言ってギルヴァンが、自分を包む殺気をいっそう濃密にする。圧にあてられ氷炎杖を握る両手が震える。思わず意識を手放してしまいそうになるが、何とか気を保つ。
「流石は魔族No.2ね······殺気だけ人を殺せそう」
「正直君達では私を倒すことは出来ないだろうな」
暗黒の大鎌を肩にぶら下げながらふふっと笑う。その振る舞いに怒りが募るが、彼の言ったことは本当だ。
勝てるとは思わない。時間稼ぎさえ出来れば······
「君達の考えは大方見当がつく。戦闘を長引かせて勇者と魔王の一騎打ちの時間を稼ぐつもりなのだろう?」
一瞬で考えを見抜かれ、頬を冷や汗が伝う。それを拭っていると、ギルヴァンが肩にぶら下げていた大鎌を持ち上げ、体の前に構えて臨戦態勢に入った。
「長話は終わりにして、そろそろ始めさせてもらおうか······!」
私達も武器を構え、同じく臨戦態勢に入る。そして暫くして、私達は一斉に魔法を放った。
「氷柱撃!」
「雷矢!」
「獄炎!」
私達三人がそう叫んだのと同時に、リルットとニタもギルヴァン目がけて二人の合体魔法を発動する。
「「風刃激烈掌!」」
三つの上級魔法相当と、超級魔法相当の威力を持つ魔法が佇んでいるギルヴァンに飛んでいく。
しかし特に動く素振りを見せる事もしない。直後、四つの魔法が奴に直撃し、炎と氷と雷と風が激突し、混ざり合う。そして、その場で大爆発が発生した。
荒れ狂う砂塵や撒き散る突風につい膝をついてしまうが、なんとか踏ん張って飛ばされるのを拒否する。
そして穏やかになった周りを見ると、まるで何事も無かったかのように奴······ギルヴァンがその場に立っていた。
「な······」
「まさか······無傷とは······」
私達が絶句していると、奴は服に着いた砂埃を払いながら、私達を褒めるように話した。
「ははは。思っていた以上だよ。まさか超級魔法とはね」
「······絶対そんなこと思ってないでしょ。あなた」
「確かに想像外だったけどね······想定外ではない」
「······やっぱりあんたも例に漏れず化け物ね」
そう言いながら私達は思わず顔を合わせてくっくっと笑う。はっ!と思って頭をぶんぶんと振り、思考を戦闘モードに切り替える。
並んで立っている私とラミアの元に他の三人が合流したのを確認して、私は他の皆に小声で作戦を伝える。
「一人一人じゃ勝てないわ······合体魔法を使いましょう」
「私とニタだけでは駄目なのですか······?」
「違うの。あいつが強すぎるから、最高火力をぶつける他ないわ」
「わっかりました。けど······それまで待っててくれますかね?」
「さあ······っ!?皆避けて!」
瞬時に危険を察知し皆にそう叫ぶ。驚きながらも皆が左右に飛び退く。すると先程まで私達がいた場所を、黒い斬撃波が通り過ぎた。空間を抉り、かなり後方の岩に当たって消滅する。
「あ······危なかった······」
「話し合いをしている暇があるなら、相手にも注意を向けるべきでしたね。敵がのうのうと待ってくれるとでも?」
「くっ······!」
このままではまずいかもしれない。個々の力では間違いなく勝てない。それならばと五人の合体魔法をぶつけようとしても、その間を待ってくれる気配がない。八方塞がりだ。
どうすれば······と思った瞬間───。
「せあっ!」
「おっらぁ!」
そんな叫び声が聞こえ、直後二つの斬撃がギルヴァンを襲う。ダメージは皆無だが、その衝撃で後方まで吹き飛ばされる。
私は頼もしい援軍の二人に声をかける。
「レオ!ロダンさん!······他の二人の魔眷属は?」
「あいつらは倒した。残るはあいつだけさ」
「そうだぜ!やったんだぜ!」
そう笑顔で言ってくる二人に笑みを返しながら、しかし思案顔になる。あいつには物理攻撃が聞かない。二人がいても······。
······いや、もしかしたら。
そうして私は、皆と素早く合流して、作戦を伝えた。
「全く······もうあの二人殺られたのですか······」
突然の乱入者達に吹き飛ばされたが、特にダメージはない。物理攻撃無効のアビリティがあるからな。
「まあいいです。とにかく全員倒しますか」
そう言って彼等の元へ走ろうとした瞬間、先程と同じ二人が突っ込んできた。二つの剣と一つの鎌が衝突し、そのまま鍔迫り合いの体勢に入る。
「私に······そんなものは通用しないっ!」
「へへっ!知ってるぜぇ!」
「だからこそ······本命は!」
思わせぶりなことを二人が叫んだ直後、同時攻撃で鎌ごと吹き飛ばされる。受身を取り、彼等を見据えようと前方を見ると、二人の剣士ではなく、五人の魔法使いが目に入った。
その瞬間、彼等の作戦を理解した。
「時間稼ぎ······ですか」
見事な連携を見せてくれた彼等に敬意を表し、避けることはせず、今から放たれるであろう魔法を受け止める体勢に入る。
そして次の瞬間、彼女等が叫ぶのが見えた。
「魔極撃滅陣!」
放たれたそれは絶級魔法に匹敵する、いやそれ以上か。と半ばどうでもいいことを考えながら私はその魔法の直撃を受けた───。
ギルヴァン戦は次話まで続きます。
勇者と魔王のアレはもう少しお待ちを...!笑




