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自由気ままな異世界冒険譚  作者: 鈴野 白
最終章
64/75

燻る闘志

「なるほど······そんなことがあったのか······」

「まあ、痛み分けってとこですね」



 そう笑いながらも、ロダンの顔は痛々しく苦痛に歪んでいる。今も左腕から滴り落ちている血が、その痛みを如実に表していた。


 四肢を切断される経験などない俺は、彼が今感じている苦しみを想像することすら出来ない。そして、俺達が気まずい雰囲気の中黙りこくっていると······。


 不意に視線を感じ、そちらに顔をむける。すると俺達を射殺さんとばかりに睨んでくるノアと目が合う。とりあえずとどめを刺しておこう、と思いながら俺は左手を彼らに向けた。



煉獄フレア······」



 そこまで唱えた瞬間、俺達と奴等の間に漆黒の大鎌が突き刺さった。詠唱をやめ、何事かと鎌の飛んできた方を見る。他の三人もつられてそちらの方へ目を向けると、そこには浮遊魔法で宙に浮いている人物がいた。


 そのままゆっくりと降下してきて、地面に着くと傍に刺さっていた大鎌を抜き、そのままお辞儀をして自己紹介をしてくる。



魔眷属ヴァニタス最後の一人······冥王ディースギルヴァン」



 そう言った瞬間、彼の纏う雰囲気が一変する。ごく普通の戦士のそれから、歴戦の猛者のそれへと。ぞくりという悪寒が俺の背中を走り、冷や汗が流れる。そして少し言葉に詰まりながらも、ロダンが聞いた。



「で······その冥王さんが······なんの用だよ」

「馬鹿二人を連れ戻しに来た」

「おいギルヴァン······誰が馬鹿だって?」

「今のは心外ですね。ノアはともかくとして」

「おい」

「相手の実力も、引き際も見極められない者を他にどう言えばいいと?」

「んだとてめぇ!」



 そうして彼等は俺達がいることも忘れ、何故か戦場のど真ん中で口論を始める。その様子を見ながら、横にいたロダンが俺に耳打ちしてくる。



「アルマさん······今攻撃すれば倒せるのでは······?」

「······俺もそう思うよ」



 そう言いながら、俺は彼等に気づかれないように静かに、絶命斬デスブレイザーの体勢に入る。そして、無防備なその背中目がけて漆黒の斬撃を放った。




「セッ!」




 斬撃はそのまま飛来し、隙だらけなギルヴァンに直撃すると思った瞬間、突然見えない壁にでも阻まれたように斬撃が失速し、やがて霧散した。



「なっ······」

「何が······」



 その光景に俺達が絶句していると、こちらを振り向いたギルヴァンがぽつりと呟いた。



「残念だが、私には物理攻撃の一切が効かない。闘気や斬撃の類もな。無駄な努力というわけだな」

「······とんでもない規格外だな」

「流石に俺にはお手上げですね······」



 ロダンの言う通り、彼ではギルヴァンには太刀打ちできないだろう。魔法もそれなりに使える俺ならともかく、剣技一辺倒のロダンには無理な注文だ。


 俺がそこまで考えていると、ギルヴァンは他の二人に目を向け、退散する旨を伝えた。


 いささか不本意そうな二人だったが、渋々と右手人差し指にはめられた赤い指輪を掲げると、目にも止まらぬ速さで自陣へと戻って行った。


 彼等から追撃が来ないことを確認し、俺達も王様達と仲間の元へと走って戻った。



 兵士達の横を通り抜けた時にちらっと様子を見ると、先の戦いでの傷は完全に癒え、再出撃の時を今か今かと待ちわびているようだった。熱気が高まっていく。



 そうして王様に労いの言葉をかけられ、治療を受けながら王様に今後どうするのかという旨を聞いた。


 王様曰く───。



「戦力を分散させて戦っても意味が無い。よって、残っている七千数百人の兵士、冒険者全員で総攻撃を仕掛ける」



 との事だった。俺と同じパーティーのソフィーナ達は参加しないようだが、他のメンバーはほとんどがその攻撃に参加するようだった。



 そして魔族達の方を見ると、向こうの魔王らしき人物も、兵士達に命令を下していく。その異様な盛り上がりを見るに、こちらと同じような命令なのだろう。


 それを視界に収めながら、俺はソフィーナ達と一応認識の共有をしておいた。



「すぐに来るとは思わないが、次は恐らく魔眷属ヴァニタス全員で攻めてくるだろう。その時は、皆も一緒に戦ってほしい」

「当たり前ですよ。パーティーなんですから」

「私の弓にどーんとおまかせください!」

「俺が敵大将の首を取るんだ!」

「けれど、油断は禁物ですね。お兄さま」

「もちろんだ。必ず······勝つぞ!」



「「「「おおー!」」」」



 戦場に、朗らかな四人のかけ声が響いた。そして数分後······。










 この人魔大戦において、最後の乱戦が始まった───。

今回少し短めで申し訳ありません...!

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