戦闘開始
残酷な描写が一部あります。
その点は了承ください。
《人魔大戦》の最初の攻撃は連合軍側の火炎魔法だった。上級魔法の獄炎を魔族達に向かって放つ。しかし次の瞬間、即座に放たれた暗黒魔法でその魔法を相殺する。
獄炎の残り香を踏みしめながら、雄叫びを上げて戦士達が突進する。
剣と剣が共鳴し、魔法と魔法が激突する。
連合軍二千に対し、魔族軍五百。
普通に考えれば魔族が勝てる道理はない。しかし戦局は互角、むしろ魔族側が優勢であった。四倍もの物量差をものともせず、連合軍を押していく。
それも全て《暗黒魔法》が要因であった。魔族が中級にあたる闇嵐を放つ度、同じ中級魔法の氷柱や炎熱が掻き消される。
そしてそのまま魔術師たちを攻撃し、再起不能に陥らせていく。人界軍が負傷者を続出させているのに対し、魔族達はほとんど無傷だ。そうして魔族がどんどん侵略を進めるかと思われた瞬間。
「ゼァッ!」
「シッ!」
突然飛び出してきた二人が剣を振るい、魔族達を吹き飛ばしていく。驚愕に目を見開く魔族達を尻目に、剣を振り切り体制を立て直した俺は、後方の連合軍に指示を送った。
「ここは下がれ!一旦俺達が奴らの相手をする!」
そう言って渋々ながらも一時撤退していく兵士達を見ながら、俺とロダンは顔を合わせて頷きあった。
「アルマさん。本当に二人でやるんですね?」
「ああ。俺達ならやれるさ。奴らに遅れはとらない」
「アルマさんらしいですねっ!」
「そっちこそな!」
軽口を叩き合い、俺達は魔族達の所へ突っ込んだ。
急接近する俺達に、慌てて魔法を詠唱する魔族。だが遅い。
目の前にいた奴を薙ぎ払いで切り裂き切断する。生々しい感触と鉄のような血飛沫の匂いに一瞬顔を歪めるが、即座に切り替え連続で斬撃を放つ。
運悪く近くにいた魔族達を三人、四人と斬り伏せていく。ロダンの方に目をやれば、彼も敵を屠りまくっている最中だった。
このまま一気に倒しきれるかと思ったが、次の瞬間、危険を察知し即座に飛び退く。ロダンも脅威を感じたのか、俺と同じようにその場から離れていた。
少し離れた所で俺達が見上げると、空には二人の魔族が浮いていた。恐らく浮遊魔法だろう。
そうして降りてきたと思ったら、唐突に自己紹介を始めた。
「魔眷属が一人、雷帝ノア」
「同じく魔眷属が一人、風帝グノ」
そう言った二人の言葉を聞き、俺はロダンに耳打ちする。
「おいロダン······魔眷属ってことは······」
「恐らく魔族側の最強戦士達でしょう。中ボス登場ですね」
「中ボスって······やっぱりお前も転生者だったんだな······」
「ははっ。まあそうですね。それより······」
そこで話を終え、俺達は彼等に目を向ける。体を射抜くような鋭い視線を浴びた後、魔眷属の二人は後方の魔族達に向かって俺と同じことを叫んだ。
「こいつらは俺等で対応する!お前達も一旦下がれ!」
そう言われた彼等は、足早に自陣の方へと退散していった。そうしてその場に残ったのは俺、ロダン、ノア、グノの四人だけになった。すると、ノアと名乗った奴が話し出した。
「と、いうわけだ。雑魚兵は戦闘にはいらない。思う存分遊ぼうぜ?お二人さんよォ」
「全く······あなたはもう少し言葉遣いを改めてください。それはさておき御二方、ここからは私達がお相手させて頂きます」
「ふん。魔族のくせに礼儀正しい奴もいるもんだな」
「まあ、あんまり関係ないことだけどな?」
「ははっ。それもそうですね」
そんな軽い会話をしながらも、お互いに得物を構え攻撃のチャンスを狙う。辺りを静寂が包む中、俺は事前に打ち合わせしていた通りに、ロダンに合図を送る。
彼が軽く頷いた瞬間、俺はノアに、ロダンはグノに突進し攻撃を仕掛けた。しかし流石は魔眷属、超人的な反応速度で攻撃を防ぎ、剣は奴らの体までは届かない。
しかし俺達の狙いは別にあった。
互いの武器による鍔迫り合いの瞬間、俺とロダンは薙ぎ払いを放ち相手を別方向に吹き飛ばす。
突然の衝撃に少しの動揺を見せた魔眷属達だったが、すぐに体制を立て直し即座に武器を構え直していた。
そうして相当の距離を取りながら、俺達は一体一でノア、グノと相対していた。
「なるほどな〜。俺達を分断してタイマンでやろうってか」
「何か不都合でもあったか?」
「いいや?むしろ好都合だよ!」
「奇遇だな。こっちもさ!」
そう言って俺とノアは疾駆し、互いの武器を振り下ろす。
妖精剣と迅雷魔槍が邂逅し、激震が大地を轟かせた。
「私の相手はあなたですか」
「ああ。アルマさんには劣るかもしれないけど、少なくともあんたには勝てるぜ」
「寝言は寝て言ってはどうですか?」
「こっちのセリフだよ!」
ロダンとグノも疾走し、剣戟を交わし始める。
光細剣と轟風剣が高速で交錯し、風切り音が空気を無数に切り裂いた。
戦場の真ん中で、二対の豪傑達による、死闘が始まった。
第6章は丸々全部、大戦編になると思います。
誤字脱字等あるかもしれませんが、
生温かい目で見ていただければ嬉しいです(笑)




