《剣豪》対《剣聖》
「······298!······299!······300!」
両親に秘密を打ち明けた次の日。俺はいつもと同じようにガルアの準備が整うまで素振りをしていた。
毎日素振り300回はガルアが俺に課したノルマだ。最初こそ辛かったが、今は難なくこなすことが出来る。
「ふぅ······」
「おぉ、終わったかアルマ」
「うん、終わったよ」
「よし、じゃあ今日は実践練習を主にやるぞ!」
「え?筋肉トレーニングとかしないの?」
「せっかく《剣聖》なんてスキルがあるんだ。実践を積まなきゃ宝の持ち腐れだろ?」
「確かに······それもそうだね」
そうしてガルアは、俺と少し距離を置いて立った。
ゆっくりと振り返り、剣を鞘から抜く。
ガルアの表情が、父のそれから、戦士のそれに変わる。
剣を両手で持ち、体の真ん中で構える。
アルマも気持ちを切り替え、集中力を高める。
相手と同じように剣を構え、臨戦態勢に入る。
二つの闘志が膨れ上がり、空気が軋む。
一歩踏み出す度に砂埃が舞い、彼我の距離が詰まる。
とても長く感じられた数瞬を経て、アルマが疾駆した。
「セアアッ!」
「ぬんっ!」
「瞬足」で距離を一気に詰め、上から下へ振り下ろす。
当然のごとくガルアも反応し、横薙ぎを放つ。
互いの剣が十字に邂逅し、甲高い音が空に轟く。衝撃が二人の体を包み、撒き散る火花が瞳に映る。
しかし均衡は続かず、アルマは次第に押され始めた。
「くっ!」
「ふんっ!」
ガルアがもう一度剣を薙ぎ、アルマを弾き飛ばす。
アルマは直ぐに着地し、再度攻撃を仕掛ける。
だが、避けられ、いなされる。ガルアに刃は届かない。
袈裟斬り。切り上げ。振り下ろし。全く掠りもしない。
アルマは剣を振るが、ガルアはそれを防ぎ攻撃に転じる。
ガルアが剣を振れば、アルマを守る鎧に亀裂が走る。
《剣豪》と《剣聖》
スキルに差があろうとも、元々の身体能力が違う。
力も、素早さも、体力も、全てにおいて劣っている。
自分の攻撃は届かず、敵の攻撃のみが皮膚を抉る。
剣戟の度に、アルマの剣が悲鳴をあげる。
余裕を失った表情で、アルマは己の無力を思い知る。
そして······
「ぁ」
ガルアの切り上げでアルマの剣が弾き飛ばされ、
喉元に剣先を突きつけられる。
「······俺の勝ちだな」
「······負けた」
勝利を宣言され、戦いの幕が閉じる。
ガルアは傷一つついておらず、対して俺はボロボロ。
これ以上ない完全敗北だった。
「確かにお前のスキルは凄い。だが、使う本人に力がなければ全く意味が無い」
「······」
「それを知ってもらうため、俺も本気でやった」
本気か······そりゃ勝てないわ。
「けどな、お前はまだ五歳だ。これから色々な経験を積み、いつか俺を超えるような男になって見せろ」
「父さん······ああ!絶対超えるさ!」
そうさ。負けっぱなしじゃいられない。特訓を重ね、いつか必ず勝ってみせる。俺は改めてそう心に刻んだ。
「さて、じゃあもう一戦やるか」
「······はぁ!?またやるのか!?」
「当たり前だ。厳しく行くと言ったからな!」
「ま、待ってくれ······!」
「行くぞ!うおおおお!」
「このクソ親父ぃぃぃ!」
案の定俺は死にかけた。もっと強くなろうと思った。
そしていつか仕返ししてやろうとも誓うのだった。
初めて戦闘シーンというものを書きました。
案外難しかったです笑(いつも言ってる)