思わぬ出会い
ガルア達と別れ、俺達は行きと同じ道を通ってキャメルナ王国に向かっていた。面倒事が何も起こらなければおよそ三日で着くが、早いにこしたことはない。そう思い、少し急ぎ足で俺達は馬車を走らせていた。
「アルマ様の御両親、良い方達でしたね」
「うん。それに稽古もつけてくれたし。たった2日間だけだったけど、かなりレベルアップ出来ました」
「そんなにか?」
「はい。いずれお見せしたいですね」
そう言ってラミアがニコッと笑う。俺も笑みを返し、穏やかに談笑していた。そうしていると、前方から悲鳴が聞こえてきた。
なんだと思い窓から顔を出して見ると、数人の冒険者がレッドウルフの群れに襲われていた。その数は五十を超えており、どう考えても普通ではなかった。
俺は皆とアイコンタクトを取り、騎士様に馬車を止めてもらった。レオを護衛役に残し、全員で馬車から飛び降り全速力で襲われている彼等の元へ向かった。
「くそっ!こいつら何匹いるんだよ!」
「知るか!とにかくダンテ!一匹でも倒すんだ!」
俺は満身創痍の状態で剣を振るう。目の前に立っていたレッドウルフを真っ二つにし、魔物の死体が地面に転がった。
一息つく間もなく、他のレッドウルフが襲いかかってくる。無我夢中で剣を振り、それを迎撃する。
しかし、奴らの数は減らない。それどころか戦闘が始まった時よりも増えていた。逆に俺達のパーティーは俺とアレク以外の三人が致命傷を受けてしまい、戦える状況ではない。何とか俺達が注意を引き付け、三人の方にレッドウルフが行かないようにしていたが、それも限界だ。
死角からレッドウルフの頭突きをくらってしまい、俺は固まって蹲っている三人の方へ吹き飛ばされる。最後まで戦っていたアレクも剣を折られ、同じように俺達の元へ吹き飛ばされた。
気がつくと、俺達は無数のレッドウルフの群れに囲まれていた。鮮血に染まった牙を剥き出しにしながら、じりじりと近寄ってくる。
「くそっ······ここまで······なのかよ······」
「ごめん······なさいっ······私······の······せいでっ······」
パーティーの回復役であるメルルが謝ってくる。実はこんなことになったきっかけは、彼女が一匹のレッドウルフを刺激してしまったからであった。そしてあっという間に追い詰められ、このような状況になっていた。しかし······。
「お前は······悪くないっ······仕方ない······さ······」
「ダンテ······」
冒険者である以上、常に死と隣り合わせだ。誰が悪いわけでもない。強いて言うなら実力不足。それだけだ。
俺達はそうして諦め、剣を手放そうとした───。
瞬間。
レッドウルフ達が悲鳴を上げ、次々に倒れていく。切断され、焼き尽くされ、次々にその体を魔石に変えて消滅する。そして先程まで俺達を囲っていたレッドウルフの群れは、もう一匹も残っていなかった。
「な······なにが······」
「どうなって······やがる」
そのとんでもない光景に俺達が動けないまま面食らっていると、不意に誰かから声がかけられた。
「大丈夫か?」
良かった。何とか間に合ったみたいだな。
レッドウルフの群れを撃退し、蹲っている冒険者の一人に声をかけながら俺は心の中で安堵した。
「あ······頼む!メルル達を······みんなを助けてくれ······!」
「······っ!致命傷を受けているな······」
そう言ってメルルという、おそらく回復役の女の子を抱き抱える。体温は低く、今にも死んでしまいそうな程に衰弱していた。
俺は完全回復魔法を彼女にかける。すると傷が塞がり、衰弱していた彼女の体に熱が戻ってくる。顔色も良くなり、何とか窮地は脱出したようだった。
彼女をその場に寝かせ、俺は他の四人にも完全回復魔法をかけて彼等を元気にした。
だいぶ落ち着いた後で、ダンテと名乗った冒険者がお礼を言ってきた。
「あの······助けてくださり、本当にありがとうございます」
「気にしないでくれ。たまたま通りかかっただけだからな」
そうしてダンテ以外の四人、アレク、メルル、ミイシャ、カエデ達からもお礼を言われた。俺は素直にそれを受け取って、気になっていたことを質問した。
「それで、なんでこんな所に?」
「俺達、キャメルナ王国に向かってるんです。三カ国合同の連合軍に参加するために。けど、その途中でレッドウルフに襲われてしまって······」
「なるほど······ちょうど俺達もキャメルナ王国に向かっているところなんだ。なんなら一緒に行かないか?」
「えっ······いいんですか?」
「ああ。いいよな?皆」
そう言ってソフィーナ達の方を見る。全員賛成のようで、首を縦に振っていた。それを確認し彼に向き直る。
彼等も仲間と相談し、助けてくれた人達となら問題ないだろう、的な事を話していた。そうして意見が固まったのか、俺の方を向いて是非同行したいと言ってくれた。
「じゃあ、二日くらいだけどよろしくな」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
こうして、俺達は彼等と一緒にキャメルナ王国に向かうことになった。馬車を見た時にダンテ達はとても驚いていたが、事情を話すと納得してくれた。
そうしてキャメルナ王国までの数日間、俺達は親睦を深め合い、時には一緒に魔物を撃退し、楽しい時間を過ごしながらひとときの馬車旅を楽しんだ。
数日後、俺達はキャメルナ王国に到着した───。
誤字脱字等あれば、申し訳ないです。




