再会と約束事
ガルア達と特訓をしたり一緒にご飯を食べたり、穏やかに過ごして二日。俺はある場所に行く為に準備をしていた。
「アルマ。お前本当に一人で行くのか?」
「ああ。俺一人なら《瞬足》で行けるし、道に迷うこともないしな。それに時間もないだろ?手短に済ませてくるさ」
「じゃあソフィーナさん達は······」
「悪いけど、少しの間頼むよ。よくよく考えたら父さんと母さんに修行してもらったら皆強くなれるだろうし」
「まあ······それもそうだな」
そんな話をしていると、皆が俺達の所にやってきた。
「アルマ様······」
「なに。別に今生の別れでもなんでもないさ」
「ご主人様······なるべく早く帰ってきてくださいね······」
「ああ。わかった。待っててくれな」
そう言うと二人の顔が少しばかり明るくなる。皆に迷惑をかけて申し訳ないと思うが、俺単独の方が効率がいいのは確かだ。皆仕方ないというように納得していた。
「アルマ様ー!帰ってきたら俺とも稽古しようなー!」
「そうだな。楽しみにしてるさ」
「行ってらっしゃませ。お兄様」
「ありがとう。行ってきます」
そう言って手を振ってくれる皆を見ながら、俺は《瞬足》を使い、目的地向かって走り出した。
「はあ······」
「アリア様ー。どうしたのですかー?」
「なんでもないの。けど······ちょっとね?」
気遣ってくれる妖精の子にそう返しながら、私はもう一度大きく溜息を吐いた。まだ不安そうな顔をしていたが、さっきの子は別の所へ飛んでいった。
一人になり、格好を崩して天井を見上げる。
「確かに時々顔を見せて欲しいとは言いましたけど······なんで全く音沙汰無しなのですか!」
そう。私は怒っていた。お礼として剣と指輪、そして加護を与えたきり全く干渉して来なくなったアルマに対して。
「少しくらいは顔を出してくれてもいいではないですか!アルマのばかぁ!こっちの気も知らないで!」
そう言って自分が妖精族の女王と言うことも忘れ、玉座から立ち上がって誰もいない空間で叫び散らす。体面も気にしないで、とにかく言いたい放題言いまくっていた。
傍から見れば、とても一種族の女王とは思えない立ち振る舞いだった。まあ、誰もいないからいいのだが。
「私はあの時から貴方にゾッコンだというのに······乙女の恋情を蔑ろにするなんて······なんて罪深き冒険者······」
挙句の果てには自作の詩まで歌い出した。いよいよ重傷である。もはや目も当てられないレベルだ。
暫くして落ち着いたアリアは、先程までの痴態が何も無かったように平然と玉座に座り直した。そうしてぽつりと呟く。
「アルマ様······早く来てくれないかなあ······」
「アリア様ー!アルマ様が来たよー!」
「ぶっはぁぁ!?」
驚きのあまり素っ頓狂な声を出したアリアであった。
実家を後にした俺は、少し離れた場所にある《魔獣の森》に入り、その最深部に存在する妖精の住処に来ていた。
俺の用とは、女王アリアに挨拶しておくことだった。最初はみんなで行くつもりだったが、あまり時間が残されていない事と、場所を俺しか知らないが故に、結局俺一人でここに来ることにしたのだ。
そうして着いた途端、沢山の妖精達が俺の元に来て、めちゃくちゃ撫で回してくる。頭に乗っかったり、顔をぺたぺた触ったり、肩に乗って寝息を立てる妖精までいた。
歓迎されている事は分かっていたので、特に注意することもなく皆と色々話し、もといじゃれあっていたのだ。
そうしていると、妖精族の女王アリアが俺の目の前まで来ていた。俯いていて、何故かプルプルと震えていた。
「やあ。久しぶり、アリア様」
「······アルマ様ぁぁー!」
そう叫んでアリアが思いっきり抱きついてくる。突然の事に驚いた妖精達が散り散りに離れていく。そうして密着されている俺をさらに強く抱き締めてくる。何がとは言わないが、当たっているから離してほしい。このままでは俺の理性がぶち壊されてしまいそうだ。
「ちょ······アリア様······そろそろ」
「······嫌だ。ずっとこのままが良い」
「は······はあっ!?」
思わず大きな声を出してしまった。いきなり何を言っているんだこの人は。いや妖精か。
「だって······全然顔を出してくれなかったもん······」
「あっ······」
そう言われて俺も黙り込んでしまう。そう言われれば確かにそうだ。完全に彼女達の事を蔑ろにしていた。寂しかったのだろうか。より一層強く抱きしめてくる。
その姿は女王ではなく、華奢な心細そうな一人の女の子であった。その姿にいたたまれなくなり、俺は彼女を抱き返す。
「ごめん······約束を守れなくて」
「ふっ······ううっ······」
そう言って彼女が泣き出してしまったが、俺は静かに彼女を抱き締める力を強めた。そうしてその場には、一人の女の子の嗚咽と、小さな妖精達の静かな飛翔音だけが響いていた。
「··················」
「なあ······アリア様?なんでずっとそっぽ向いてるんだ?」
「······アリア」
「えっ?」
「アリアって言ってくれないと、そっち向かない」
「······ふふっ」
「なっ、なんで笑うの!?」
「いや、アリア様にもそんな可愛らしい一面があるんだなって」
「か······可愛いだなんて······そんな」
そう言ってアリアが頬を赤らめ、身をクネクネと唸らせる。彼女の注意が削がれた瞬間に俺は彼女に近づき、アリアの顔を掴んでこちらに向かせる。
至近距離でアリアと目が合う。彼女の瞳が次第に熱を帯び、とろんとした表情を浮かべるが、気にせず俺は微笑む。
「今までごめん······それと、ありがとう」
「·········っ!」
彼女の顔が熟れた林檎の様に赤くなり、俺の手を振りほどこうと顔を動かす。しかし俺は彼女を逃さず、そのままその綺麗な額に口付けをする。
「───」
「これで許してくれるか?······アリア」
「······アルマのバカっ」
もはや赤いを通り越して紅くなった頬を抑えながら、彼女が不貞腐れたように言う。けれど、その顔から嬉しさが読み取れ、俺も小さく微笑みを返す。
そうして少し落ち着いた後、アリアが聞いてきた。
「それで······その······どうしてここに······?」
「もう少しで次元の狭間が開いて、魔族との大戦が始まるからな。最後になるかもしれないし、皆にも挨拶だけでもしておこうと思ってな」
「最後だなんて······」
「もちろん生きて帰ってくるつもりさ。けど、万が一って可能性も考慮しておかないとな」
そう言って俺は彼女に笑みを返す。するとアリアは少し俯いていて考え事をした後、何かを決意したかのように顔を上げて言った。
「じゃあ······もしその戦いが残ってまた会えたら······」
「うん」
「その時は、私をお嫁さんにしてください」
「······へっ?」
「駄目ですか······?」
そう言って上目遣いで聞いてくる。だからほんとそれ反則技だからな?魅力的すぎて。
「いや······そもそも妖精族と結婚なんてできるのか······?それに、アリアは女王様だろ?」
「その辺は問題ありません······他種族間でも結婚は出来ますし子供も産めます。それに私もそろそろ女王を降りるつもりでしたし······」
「そ、そっか······」
「ま、まあ。その事に関しては全部終わってからまた考えよう?他に二人婚約者がいるし、皆で相談しないと」
「他にも······むう······分かりました」
何とか了承してくれ、俺は胸を撫で下ろした。だがしかし、そこで彼女が念押しをしてくる。
「けど、絶対に忘れないでくださいね!絶対ですよ!」
「わ、わかった。必ずまた迎えに来るよ」
どこか吹っ切れたように強気な彼女に押されながらも、俺はそう返す。なんだか可笑しくなり、二人でくすくすと笑い合い、暫くの間、色々なことを楽しく話し合った。
そして、他にも妖精の皆からの色々なもてなしを受けたりした後、俺は彼女達に別れを告げ、妖精族の住処を後にした。
なんか気がついたらこんなことになってました...笑
どうしてこうなった...?




