談笑
「いてて······やっぱり父さんの剣技は格が違うな」
「そういうお前こそ、かなり上達したんじゃないのか?」
「そりゃあこれでも二大陸を旅したんだ。強くもなるさ······いててっ」
「あっ、アルマ様。動かないでください」
「ごめんごめん」
模擬戦を終えた俺たちは、家で傷の治療をしていた。治療と言っても回復魔法をかけるのではなく、あくまで自然治癒に任せた治療だ。それを薦めたガルアに聞くと、
「回復魔法ばかり使っていると、体の免疫が弱る」
とのことであった。噛み砕いて言うと、生物本来の自然治癒能力が低下してしまい、傷の修復が遅くなってしまうという事だ。そういう面でも元冒険者なんだなぁと改めてガルアに対して尊敬の念を抱いた。
「それにしてもアルマ······さっきのはなんだったの?」
ガルアに包帯を巻いているメーアがそう質問してくる。
「さっきのって、剣魔融合の事?」
「うん。なんか凄い魔力を剣に纏っていたから。やっぱり魔法使いとしては気になっちゃうっていうか」
そう言って、てへっとメーアが笑う。ある程度歳を重ねているのに、どこか可愛げな雰囲気を帯びている彼女はとても魅力的なものであった。何がとは言わないが。
「うーん······話すとなると長いんだよね。皆もいい?」
俺がそう聞くと皆口々に「構わない」という感じだった。了承を得たところで、俺は説明を始める。
「剣魔融合なんて厨二チックな名前してるけど、本質的には魔法剣に近いんだ」
「アルマ様ー。厨二チックってなんだ?」
「······そこは聞かなかった事にしてくれ」
「はーい」
「話を戻すけど、魔法剣に近いってだけで全く同じって訳じゃないんだ。魔法剣は読んで字の如く、剣に魔力を集中させて魔法で剣を覆う感じだろ?例えば火炎魔法でそれをすれば、剣が魔法で包まれて炎を纏う、って感じになる」
「剣魔融合はそうじゃなくて、予め発動させた魔法を剣に《染み込ませる》んだ。剣と魔法を一体化させるって言えばわかりやすいかな。その結果、魔法によって刀身の色や見た目が変わって、より強靭で強力な武器になるんだ」
そこまで説明したところで、皆が頭を抱えていた。ルゥに至っては話が難しかったのか寝ぼけ眼で眠そうだ。
「すまんアルマ。簡潔にまとめてくれ」
「······極端な話、機械を外から操作するか、中に入って操作するかってことだよ」
「なるほどな。てか最初からそう言ってくれよ」
「いきなりそう言っても絶対わかんなかっただろ」
「アルマ様。それは魔法が使えれば誰でも習得できるのか?」
「いや、この特技は俺の魔法創造があって初めて発動することが出来るんだ」
「じゃあ······私達に習得は無理なんですね······」
そう言ってソフィーナが見るからに落ち込む。そんなに使いたかったのだろうか。まあ······こればかりは仕方ない。
「そんな落ち込まないで下さいよソフィーナさん。別の方法でもっと強くなっていけばいいじゃないですか」
「ラミア······そうよね!その通りだわ!」
一瞬でソフィーナが明るくなった。切り替え早いな。そして理解が追いつかなくなったのか終始眠そうにしていたルゥがとうとう寝息をたてて寝てしまった。その光景に思わず笑みがこぼれる。
「難しい話はこれくらいにしておくか。ルゥちゃんも寝ちゃったしな」
「そうね」
「ていうかレオ。お前は眠くならなかったのか?」
「ああ!剣のことなら何でも来いだぜ!」
「ははっ。そうか」
「そうだガルアおじさん!次は俺と戦おうぜ!」
「おっ。威勢がいいな。そんなに戦いたいのか?」
「いつもアルマ様に負けてるからな。たまには勝ちたいぜ!」
「そう簡単に勝てると思うなよ?」
「望むところだぜ!」
俺の知らないところで勝手に二人がそんな事を話していた。休憩中にも関わらず、真剣を手に家を飛び出して行った。二人を追いかけて、俺達も外に出る。
「全く。二人とも本当に似たもの同士だな」
「あら。アルマ様も大概ですよ?」
「ええ?そうか?」
「そうですよ。ご主人様も似たようなものですよ」
「まじか······」
二人にそんな事を言われながらも、俺の顔には笑みが浮かんでいた。それを見た二人も、顔を綻ばせる。
「もうすぐ晩御飯ですからね。できるだけ早く終わらせるように言っておいてね」
「わかった。ありがとう母さん」
「お礼なんていらないのよ」
そう言ってメーアが家の中に戻って行った。
俺達は談笑をしながら、ガルアにボコボコにされながら逃げ回っているレオを見て、はははと笑い会うのだった───。




