親子の死闘
次の日───。
特訓を手短に済ませた俺達は、ある程度の休憩を取りながら模擬戦のを準備をしていた。真剣の手入れをしたり、観戦する皆に被害が及ばないように防御結界を張った。
俺が妖精剣の手入れをしていると、横で素振りをしているガルアが話しかけてきた。
「それが、お前の相棒か?」
「ああ。妖精族の女王様から貰ったんだよ」
「へぇ······相当な業物だな。こりゃ久々に本気が出せそうだ」
「そういう父さんの真剣は、それか?」
「ああ。双蒼剣って言うんだ。カッコイイだろ?」
「名前だけな。というか二刀流だったんだな。父さん」
「言ってなかったっけ?昔はこれで無双したもんよ」
「へえ······まあ、負けないけどな」
「こっちのセリフだ。師匠超えはまだ早いぜ?」
「さあ、どうだろうな」
そう言って準備を終えた俺達は距離を取り向き合う。
俺は妖精剣を、ガルアは双蒼剣を抜いて構える。
剣を真正面で構え静止する俺に対し、ガルアは右手の剣を上に、左手の剣を下に据えて前傾姿勢で構える。
風が吹き抜け、静けさが空間を支配する。ソフィーナ達も喋るのをやめ、俺達の一挙一動に集中しているようだった。
そして風が止んだ瞬間、俺たちは動いた。
「うおおおおお!」
「かあああああ!」
疾走の勢いを乗せたまま剣を振り下ろす。勿論ガルアも反応し、双剣を十字に構えて振り上げる。
キィン!
一本と二本が衝突し、剣が甲高い音をあげる。
その衝突による衝撃波が辺りに撒き散り、木々をなぎ倒しソフィーナ達の防御結界を震わせた。
俺達は額がぶつかる程の距離で鍔迫り合いになっていた。双蒼剣が押し込んでくるが、負けじと妖精剣で押し返す。
いつか戦った時とは違う。完全に互角の実力であった。
「ふんっ······少しは成長したみたいだな」
「おかげさまでな。けど、真価はここからだぜ!」
「なにっ?」
そう言って俺は妖精剣を振り切り、一瞬のガルアの動揺の隙にバックステップで距離を取る。
体勢を立て直した後、再度妖精剣を構える。
ガルアも双蒼剣を構え直し、臨戦態勢に入る。
そして俺は《詠唱》する。
「獄炎!」
「上級魔法か······だが遅い!」
ガルアが双剣を一振りし、十字の斬撃を放つ。
俺はそれを避けることすらせず、そのまま受ける。
瞬間。斬撃が激突し、爆発が巻き起こる。砂塵が舞い、ガルア自信も目を晦ます。
「やったか?」
そう言って徐々に晴れたアルマの方を見ると、そこにはまるで微動だにしていない彼の姿があった。そして発現した獄炎を、左手に纏っていく。
「······何をしている?」
「すぐにわかるさ」
アルマの左手は炎に包まれ紅く燃えていた。それをガルアに向かって放つのではなく、剣に伝えていく。
妖精剣が炎に染まり、その姿を紅く変える。そして俺はその新しい技の名を呟いた。
「剣魔融合」
剣魔融合。その名の通り剣に魔法を伝え、二つを一つにする。いわゆる魔法剣というものを作り出す。俺の魔法創造があって初めて発動することが出来る、オリジナルアビリティである。
そして、俺の右手には、燃え盛るような紅を宿した剣が握られていた。名付けるとするならば───
「魔炎剣」
「······そうか。それが冒険の中で見つけた、力か」
「まあ、これはそのほんの一部にしか過ぎないんだけどな」
「ふっ······相変わらずとんでもない奴だ」
そう言いながらも、ガルアは笑っていた。強敵との血湧き肉躍るような死闘に心踊らせているのだろう。
「いくぜっ!」
俺が魔炎剣を振るうと、獄炎を纏った斬撃がガルアに飛来する。しかし避けることなく、俺と同じように真正面から受け止める。
炎を含んだ爆発が起き、空気を振動させる。それだけでなく、辺り一帯を獄炎が焼き尽くす。そして見ると、直撃を受けた彼の体には無数の火傷のような跡が残っていた。しかし致命傷はなく、平然と立っているようだった。
「そっちも大概バケモンだな」
「お前にだけは言われたくないわ」
「ははっ。それもそうだな!」
そう言って俺達はまた同時に疾駆し、剣戟を交わした。
魔炎剣と双蒼剣が邂逅する度に、地を割り天を裂くような衝撃が轟く。防具は壊れ、皮膚が傷だらけになるのも気にせず、俺達は模擬戦に身を委ねた───。
一体どれほど打ち合ったのだろう。気がつくと俺もガルアも共に疲弊しており、息も切れ切れであった。
そんなガルアと目が合う。次で終わりにしよう、という意思表示。それに俺は軽く頷いて応える。
傍から見ていたソフィーナ達も何かを感じ取ったのか、一層静かに黙りこくる。
そして数瞬後、互いに最強最後の必殺剣を放った。
「絶命斬!」
「双撃斬!」
漆黒の斬撃と十字の斬撃が迸り衝突する。その瞬間、今までで一番の爆発が起こり、辺りに激震が轟いた。あまりの衝撃に防御結界に守られていたソフィーナ達も、思わず顔を背ける。そうしていると、だんだんと視界が晴れてきた。
そして後に残ったのは、剣を振り切った二人の戦士の姿のみであった。
「へへっ······成長したな······アルマ」
「引き分け······だけど······な」
そう言って二人同時にぶっ倒れる。直後、一瞬で意識が途切れ、俺は突然の微睡みに身を委ねた───。
色々とカタカナが出てきて考えるのも疲れました笑
けどやっぱり戦闘回は書いていて楽しいですね。




