故郷
第5章スタートです。
三日間の馬車旅を終え、俺達はローランス王国の、実家の前まで来ていた。そこで馬車から降り、少し離れた場所にある実家を見つめた。
すると胸の中に暖かいモノが込み上げてくる。たった数ヶ月間離れていただけなのに、ここまで懐かしく感じるものなのかと思ったが、同時に実感した。
帰ってきたんだな、と。
そうしていると、ソフィーナが馬車から降りこちらに来た。
「ここが······アルマ様の実家なのですね」
「ああ。十年かな。転生してから、ここで過ごしたんだ」
「ご両親には······その······言われたのですか?」
ソフィーナがそうして申し訳なさそうに聞いてくる。それだけで、俺は彼女の質問の意図を理解した。
「ああ······言ったよ」
「それで······どうなったのですか?」
「ソフィーナ達と同じさ。お前はアルマ、俺達の子供だ。それだけで十分だろう?······ってさ」
「······ふふっ」
「なんだよ······笑うところか?」
「いえ······やっぱりアルマ様のご両親なのだなと思って」
「······そうだな」
そうして俺達が感傷に浸っていると、いつの間にかラミア達も馬車から降りて俺達のすぐ側に来ていた。
「何を話していたのですか?ご主人様。ソフィーナさん」
「なんでもないさ。ただ第一夫人をどうしようかなって話さ」
「なっ······アルマ様······」
「そ······そんな······私を一番に貰ってくださるなんて······」
「冗談だからな?おーい?」
興奮して頬を赤らめて、体をクネクネさせているラミアはとても扇情的で理性が崩れそうになるが、「ごほんっ」と咳払いをして彼女を妄想から引き戻す。
「まあ冗談とは言ったが、真面目に言うとまだ決まってないし、全てが落ち着いた後に皆で考えようと思ってる。だからラミアもソフィーナも······それまで待っていてくれ」
「ご主人様······」
「アルマ様······」
二人が熱の篭った眼差しを向けてくる。俺はそれを受け止め、本気だということを視線で伝えた。
すると二人も納得してくれたのか、少し赤い顔で頷いた。そんな俺達を見ていたのか、レオが唐突に話してきた。
「なーアルマ様。そろそろ中に入らない?」
「あ······そうだな。待たせて悪いな」
「いえ、全然大丈夫ですよ。お兄様」
「早くアルマ様のおとーちゃん達が見たいぜ!」
そう言ってやけに張り切っているレオに苦笑いを返した後、俺は家の扉を開けて言った。
「ただいま」
そう言った途端、急に家の中がドタドタと騒がしくなり急に人影が現れた。俺の父ガルアと母メーアだ。二人とも驚いたような表情を浮かべている。
「ただいま······父さん。母さん」
俺のその言葉に二人は状況を理解したのか、こちらに走ってきた。そうして母のメーアが抱きつき、同時に言った。
「おかえり······アルマ」
久々の母の温もりを感じ、俺は強く抱き締め返した。改めて、帰ってきたんだと実感した瞬間だった───。
「そうかそうか!皆パーティーメンバーなのか!」
「私も驚いたわ。まさかアルマに婚約者までいるなんて······」
感動の再開を果たした後、二人の提案で一緒に全員で食卓を囲っていた。そして全員の自己紹介をすませたところであった。もちろんソフィーナの身分についても、ラミア達が兎人族であるということも。そして、二人が俺の婚約者であるということも。
何かしら驚くかと思ったが特にそんなこともなく、二人は素直に俺を祝福してくれた。そうして箸をつまんでいると、急に真面目モードになったガルアから質問された。
「それで······アルマ。この人達には言ったのか?」
「ああ。もう言ってる。みんなその上でついてきてくれた」
「そうか······なら良い!お前はお前の好きにやれ!」
「······言われなくても、そのつもりだよ」
「けど、皆さんを不幸にするような事はいけませんよ?」
「母さん······ああ。分かってるよ」
そんな感じで、俺達は久々の思い出話に花を咲かせた。七人は少し多かったような気もしたが、それもいいなとも思った。
私達は食事を終え、今は女性陣四人で一緒にお風呂に入っている。同性同士で色々と話したいこともあるだろうという、アルマ様の粋な計らいのおかげであった。ちなみにルゥはのぼせてしまったのか、既に上がってリビングでアルマ様達と一緒にいる。
体を洗い湯船に浸かっていると、メーアが質問してきた。
「それで······二人はアルマのことをどう思っているのかな?」
「どう······とは?」
「あの子のどこに惹かれたのかとか······あの子の事を聞いてどう思ったのか······とかね」
「そうですね······」
そういえばそんな事は考えたこともなかった。改めて何故なのだろうと考えてみるが、パッとは出てこなかった。私がそうして思案していると、横で湯船に浸かっていたラミアがその事に関して話し始めた。
「私は······やっぱり感謝の念です。奴隷だった私を助けてくれた。そして······愛してくれた。ご主人様のお陰で私は救われました。この人の為に全てを尽くそう、と思えたのです。」
「戦闘面ではあまり役に立てない······かもしれない。でもせめて精神面でご主人様······アルマ様の助けになればいいと思っています」
そうラミアが言い切り、私とメーアさんの方を向いた。彼女の瞳からは決意のようなものが見て取れた。それを見て、私は純粋に思った。
そこまで言えるなんて、本当に凄いと。
愛する人の為ならなんでも出来るのかな······と。
私が考え項垂れていると、今度はメーアさんが私に聞いてきた。
「ソフィーナさんは······どうしてだったの?」
「私は······はっきりとはわかりません······。最初に見た時はかっこいい人だな、ぐらいにしか思っていませんでした。」
「しかし······こうして一緒に旅をしてきて、アルマ様の事を知っていくうちに、これは恋だと······確信しました。想いの面ではラミアに劣るかもしれないけど、それでも······あの方を慕い好きである気持ちだけは本気です」
言い切り私は、メーアさんとラミアの方を見る。ラミアは何かを感じ取ったように小さく頷き、メーアさんは納得したかのように笑みを浮かべた。
「二人にこんなに愛されているなんて······アルマは幸せ者だね」
「ですね。なにせこんな美少女が二人もいるのですから!」
「ちょっとラミア。そういうの自分で言うものかしら?」
「ええー?いいじゃない。私達しかいないんだしさ」
「そういえば、それもそうね」
そうして私達は笑い合い、お互いの思い出話などを語り合い、楽しい時間を過ごした。
ソフィーナ達がお風呂に入っている間、俺たち男性陣は武器の見せ合いやステータスを共有してワイワイしていた。
「ガルアさんのスキルって俺と同じなのか!」
「はっはっは。お前さんも《剣豪》持ちとはな!」
「へぇ、すごい偶然だな。同じスキル持ちなんて」
俺達の話すことといえば戦闘関連のことばかりだが、久々にガルアと話すことが出来たから別にいいかとも思う。
「けどなあレオ。上には上がいるってもんさ」
「ああ知ってるぜ。アルマ様がいるもんなあ」
「え?俺?」
「最上位の《剣聖》スキルを持ってるんだ。こん中じゃお前が最強かもな」
「いや、やってみないと案外わかんないぜ?」
「じゃあ、明日久々に一戦やるか?」
「いいよ。今まで一度も勝てなかったけど、今回は勝つぜ」
「抜かせ」
「アルマ様って、ガルアさんに勝ったことなかったの?」
「まあ、毎回負けてたな」
「まだアルマも小さかったからなあ。はっはっは!」
そう言って皆も笑う。そうしているとのぼせて寝ていたルゥがとてとてとこちらに歩いてきて、ぽすっと俺の膝の上に乗った。
「どうした?ルゥ。眠いのか?」
「なんだか変な気分なのです······体がぽかぽかします······」
「そっか。じゃあもう今日は早めに寝るといい」
「そうするのです······」
そう言ってルゥが眠りについた。俺の膝の上で。俺はガルア達に苦笑いを浮かべながら、ソフィーナ達がお風呂から上がってくるまで面白おかしく色んな話をしていた。
そうして次の日───。
第5章始まりました!基本的にこの章は、
振り返りも兼ねた感じでやっていこうと思います。
大戦までもう少しかかりますが、気長に待って頂けると幸いです。m(_ _)m




