家族の温もり
アルマとロダンが、王城の訓練場で模擬戦を繰り広げていた頃───。
キャメルナ王国ヴァレンは悩んでいた。悩みすぎて胃が痛くなっていた。
「魔族の軍勢が押し寄せてくる······か」
そう。二週間後に開く次元の狭間。そしてそこからなだれ込んでくるであろう、豊穣の土地に飢えた魔族達の事だ。
死にものぐるいで襲ってくる奴らに対抗するには、とにかく人数を集めるしかない。個々の実力も物量も普通なら恐らくこちらが上だが、奴らには暗黒魔法がある。
通常の五属性魔法から遥かに逸脱した脅威となりうる最強の、禁忌の魔術。攻撃魔法の威力は飛び抜けており暗黒魔法使い一人に五属性魔法使い五人でようやく相殺できる、と言われている程だ。単純な話、向こうは元々の人数の五倍の戦力がいると考えるとわかりやすいだろう。
ただしデメリットも勿論存在する。暗黒魔法を習得すると五属性魔法の適性を失い、それらを使えなくなってしまう。その上黒紋章を体に刻み込んで後天的に発現するので、一度書き換えると二度と消せなくなる。
そんな禁忌とまで呼ばれている魔法の習得を、全兵士に強制しているのだ。いくら勝つためとはいえ魔王ガルシャはいささかやりすぎている。
だからこそ、絶対に負けてはならない。そんな奴らに侵略されれば人界は間違いなく終わる。歴史に残るであろうこの大戦で暗黒魔法を打倒し、十年後、百年後の子孫たちに人類の可能性を証明するのだ。
改めてそう心に刻み、ヴァレンは玉座から立ち上がり参上させていた部下達にこう伝えた。
「大至急、ウォルテラ王国、ローランス王国と連絡を取り、大討伐部隊の結成を進めろ!」
「はっ!」
そう言って部屋を後にする兵士たちの後ろ姿を見ながら、ヴァレンはぽつりと呟いた。
「頼むぞ、人類の未来を······この世界を······」
模擬戦を終えた俺達は訓練場でロダン達と別れ、王城の個室で疲れを癒していた。ベッドに寝転び、だらしなく四肢を伸びさせる。ソフィーナ達に笑われたが別に気にしない。疲れているからいいのだ。それにしても······
「ロダンの奴、本当に強かったなぁ······」
「傍から見ても、ほとんど互角でしたね」
「でもご主人様。本気を出されてはないのですよね?」
「ん?どうしてそう思ったんだ?」
「だって、ご主人様のステータスは通常の人では到底敵わないレベルです。本気でやれば瞬殺だったのでは?」
「いや、俺は本気だったぞ」
「············え?」
「············ん?」
そう。俺は間違いなく本気でやっていた。決して手を抜いていたりはしていない。そんな余裕もなかったしな。
「そんな······ご主人様と互角に渡り合うなんて······」
「ロダンさんも······相当のバケモノね」
「もしかしたら、あいつも転生者なのかもな」
「その可能性も······ありますね」
考えられるとしたらそれしかないだろう。俺の五桁のステータスと同等に渡り合えるということは、彼もそれ相応の実力を持っているということだ。神の加護的なやつな。
「まあ、ロダンが転生者であろうとそうでなかろうと、そんな問題になることでもないだろう」
「ですね。面白い人でしたし、頼りになります」
「リルットさんもニタさんも、私達と同じくらい強かったですし。案外似たようなパーティーかもしれませんね」
そうラミアが言い、俺達はくすくすと笑った。その横ではレオとルゥがわちゃわちゃして遊んでいた。
「姉ちゃん!グリフォンを倒した俺の必殺技どうだった!」
「焔剣のこと?まあ······いいんじゃない?」
「あー!姉ちゃん顔赤いぞ!素直になれよー!」
「きゃっ!こらっ!レオ!」
「あははー!」
レオとルゥがその勢いで追いかけっこを始める。その仲睦まじい光景に、俺達もつい顔を綻ばせる。
いいな。まさに心温まる《家族》って感じだ。
「魔族なんかにやられないよう、俺達も頑張らないとな」
「ええ。そうですね······」
「私も、もっともっと強くなります」
二人にそう返され、俺は笑みを浮かべる。そしてしばらくの間、その部屋は穏やかな雰囲気で満たされていた。
その後、特に何か事件が起こる訳でもなく俺達は王城で時間を過ごした。訓練に勤しみ、城の人々や城下町の人々と交流を深め、残り数日を精一杯楽しんだ。
そして数日後。キャメルナ王国出発の日───。
第4章ももうすぐ終わりそうです。なんか短いですね笑
もうじき、魔族との戦争も始まると思います。(願望)
引き続き、色々諸々よろしくお願いしますm(_ _)m




