ある日の獣人族
例のごとく余り話が進みません······笑
皆との信頼関係をより深められた日から数日後、俺達はお城の食堂でいつもと変わらない朝食を食べていた。俺が真ん中の席に座り、ソフィーナとアルマが隣に座る。レオとルゥがその対面に並んで座る。普段からこんな感じだ。
「アルマ様。狭間が開くまでの時間は覚えていますか?」
「ああ。確かあと二十日くらいだよな」
「えっ!もうそんだけしかないのか!?」
「こらレオ。お行儀が悪いですよ」
「ああごめん。姉ちゃん」
レオが服で汚れた口を拭う。あまり宜しくないぞ。それ。
「それであと二十日ですけど······これからどうするのですか?お兄様」
「とりあえず三日くらいはここでお世話になって特訓に励もうと思っている。勿論依頼とかは受けながらな」
「そうですね。何もしないというのも失礼ですからね」
「ああ」
そうして俺達が和やかに談笑していると、こちらに向かってくる数人の獣人族達がいた。冒険者だろうか。
「おい!」
その中の一人、黄色い体毛で包まれた、まるで前世にいた虎みたいな男が急に怒鳴って割り込んできた。
「······なんだ?」
「俺達が怒っている理由がわかるか?」
怒る?なんで怒ってるんだ。そう思って他の冒険者達を見るが、他の人達はそんなに怒っているようには見えなかった。なんだこいつ、的な目を向けている。
「なんであんたは怒ってるんだ?」
「決まってるだろ!人間と兎の分際で名誉ある王城に居候しやがって!目障りなんだよ!」
いきなり来たと思ったら、随分な言われようだな。流石に言いたい放題すぎるので、俺も反論する。
「俺達はちゃんと王様の許可も取ってるし、素材の引き渡しとかでそれなりに恩は返してるつもりだけどな?それに、俺達がこの城で寝泊まりしてる事がお前と何か関係があるのか?」
「······ある!あるに決まってるだろうが!」
「へぇ······どんな?」
なるほど、こいつ怒ると単調になるタイプだな。朝からこんなことに巻き込まれて俺も少し不機嫌だった。もう少し意地悪してやろうと思う。内心でほくそ笑んだ。
「獣人族以外が近くをうろついているだけで吐き気がするんだよ!しかも王城にタダで住んでるだと!ふざけるな!雑魚のくせに、人間ごときが調子に乗るな!」
「お前、言ってることが支離滅裂だぞ」
「······っ!」
「しかも勝手に噛み付いてきて邪魔だの目障りだの。なんだ?お前もしかして暇か?構ってちゃんか?」
「───」
「こっちはお前なんかと違ってやることがあるし、時間もない。茶番に付き合ってる暇はないんだよ」
そう言って視線に殺気を込める。先程まで威圧的だった彼が一気に萎縮し、蛇に睨まれた蛙のように怯えていた。
「わかったら、さっさと消えろ」
そう言い放つ。余りの殺気と威圧量に奴は何も言い返せず、とぼとぼ食堂を出ていった。奴が食堂から出る瞬間、こちらを睨んで来た気がしたが、俺は気付かないふりをした。
彼らが完全にいなくなった後、俺は椅子にもたれかかった。
「全く······皆。朝から見苦しいところを見せちゃったな」
「良いのですよ。アルマ様が言わなければ、私がやってました。何なら今でも一発殴りたいです」
「本当に······彼は命拾いしました······ねぇ。ご主人様にあれだけの暴言を吐くなど、首を飛ばそうかと······?」
そう言って二人の笑顔がダークに染まる。こっっわ。
「ねぇ姉ちゃん。二人の背後になんか黒いのが見えるよ?」
「見ちゃダメよレオ。《あれ》は良くないものだわ」
こっちもこっちでハチャメチャしていた。俺は小さく咳払いをし、皆に一応注意を促しておく。
「他国間とのいざこざはなるべく起こさないか、もし起きてもすぐに俺に伝えるようにしてくれ。あんまり皆に迷惑をかけられないからな。それとソフィーナ、ラミア。公共の場ではもう少し柔らかく頼む······な?」
「······分かりました。流石に言い過ぎでしたね」
「了解で〜す」
二人がにこりと微笑む。うん、機嫌が直ってよかった。そうして俺たちは、しばらくの間談笑を楽しんだ。
「クッソ!あの人族どもがぁ······!」
「おいラオ。少しは落ち着け」
「これが落ち着いていられるかぁ!」
そう言って俺は手当り次第近くにあった物に当たる。苛立ちを抑えられず八つ当たりしまくってしまった。
ガタッゴトッバキンッズガガガドガッシャーン!
一通り暴れまくって溜飲が下った後、その部屋は地獄絵図と化していた。一瞬で頭が冷えた俺は、パーティーメンバーであるロダン達の方をちらりと見た。
彼らの顔は怒りで真っ赤に燃え上がっていた。
「おい······お前、流石にやりすぎじゃないのか」
「いやっ······それは······その······」
「しかもこの絵画。王様が気に入って買われたやつじゃねぇか。確か、金貨四百枚か」
「なっ······!?ちょ······嘘······だろ?」
俺は彼らに冗談半分で語りかける。が、返ってきた返事は無慈悲なものだった。
「はぁ······もうお前とはパーティー解散だ。これ以上は目に余る。この部屋の弁償なら一人でやってくれよ」
「おっ······おい!あっ······リルット!ニタ!お前達は残ってくれるよな!?」
そう言って残りのパーティーメンバーである女性陣二人に、縋るように声をかける。だがしかし───。
「私も同意見だわ。さようなら。哀れな同胞さん」
「······頑張ってね。······タダ働き」
三人がこの部屋から、俺から遠ざかっていく。彼らが見えなくなる瞬間、俺はとても楽しそうに話す三人を見てしまった。情けなくて思わず歯ぎしりしてしまう。
「くそっ······くそっ······!」
震える拳を握りしめ、俺は絶望と憎悪を抱きながら、部屋を放ったらかして文字通り逃げるようにその場を後にした。
その後、荒らされた部屋の惨状を見た国王に、ロダン達からラオという獣人族の仕業だということが伝えられ、瞬く間に指名手配された。そしてラオが捕縛されるのには三時間とかからなかった。
彼の元パーティーメンバーであったロダン達に謝られ、俺は軽く了承した。ついでに、一緒に特訓に付き合うとも言ってくれた。彼らに感謝しつつ、俺達はその日の特訓に励んだ。
ブクマや感想はモチベの向上に繋がりますので、ぜひよろしくお願いしますm(_ _)m




